日産 巨額赤字決算~とにかく「魅力あるクルマ」を!
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「報道部畑中デスクの独り言」(第193回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、5月28日に発表された日産自動車の決算会見について---
売上高9兆8789億円で前年比14.6%減、営業損益405億円の赤字、純損益6712億円の赤字…5月28日に発表された日産自動車の2020年3月期の連結決算は、予想されてはいたものの、厳しい数字が並びました。
最終赤字はリーマンショック後の2009年3月期以来11年ぶり。6712億円の赤字額は、「日産リバイバルプラン」で多額のリストラ費用を計上し、“膿を出し切った”2000年3月期の6843億円に次ぐ数字となりました。そして、2021年3月期の業績予想は「未定」としています。
「感染症の影響に加え、自社固有の問題による業績の悪化にも直面している」
内田誠社長は会見で、経営の混乱が今回の結果の要因であるという認識を示しました。
「これまで十分向き合って来なかった失敗を認め、正しい軌道へ修正する。回収が見込めない余剰資産の整理を実行し、選択と集中を徹底し、コアマーケットやコアセグメントに持続的なリソースを投入する」
内田社長はこのように述べた後、2023年度までの中期経営計画を発表しました。その内容は……。
・生産能力を2018年度の年間720万台から540万台に
・スペイン、インドネシアの完成車工場を閉鎖
・韓国、ロシアからの「ダットサン」撤退
・全販売台数の約7割を占める北米・中国・日本に集中、欧州など他地域は事業縮小
・69車種を55車種以下に
・固定費を2018年度に比べて3000億円削減
・今後18ヵ月で12の新型車を発売
・国内販売車種の電動化率を25%から60%に増やす。電気自動車2車種、eパワー搭載車を4車種投入
・世界の販売シェアを6%に
今回の計画については「リストラではない」と語りました。また、巨額赤字は計上したものの、自動車事業の手元資金は2020年3月末の段階で1兆4950億円あり、「必要な資金は確保できている」としています。
「過度な販売拡大は狙わず、収益を確保した着実な成長を狙う」
内田社長の言葉から“デジャヴ”を感じた人は少なくないと思います。思えば、ゴーン体制での「日産リバイバルプラン」は規模を追わず、“筋肉質”の会社を目指していたはず。生産効率を高めるために村山工場を閉鎖するなど、大ナタを振るいました。
「どれだけ多くの努力や痛み、犠牲が必要となるか、私にも痛いほどわかっている」と語ったのはカルロス・ゴーン元会長でした。なぜ、同じ歴史を繰り返してしまうのか。「ゴーンの変節」か、「日産の体質」か……検証に値することだと思います。
一方でさまざまな計画、目標が示されたものの、やはり最大の対策は何度も申し上げていますが、「魅力あるクルマ」をつくることに尽きます。
内田社長は「大きな投資の影響により、日本をはじめとする主力市場へ新商品が投入できないという事態を招いた」と、これまでの国内市場の軽視を認めました。もちろん、計画は世界を見据えることが欠かせませんが、敢えて国内に焦点を当てます。
会見の最後には「AtoZ」と題したPR映像が放映されました。日産が「非常に近い将来に日産が向かう方向を明確に示している(中畔邦雄副社長)」と胸を張ったSUVタイプの電気自動車「ARIYA(アリア)」から「Z(日本名フェアレディZ)」までを指すようです。
映像では陰影をつけた車両がイニシャルとともに次々と現れました。なかには次期型と思われる“車影”もあり、高揚感のある映像でした。
最後にフラッシュバックした車名は「ARIYA」、「ARMADA」、「FRONTIER」、「KICKS」、「NAVARA」、「NOTE」、「PATHFINDER」、「QASHQAI」、「ROGUE」、「TERRA」、「X-TRAIL」「Z」……12車種の内訳は、SUVが8、ピックアップトラック2、スポーツカー1、コンパクトカー1。なるほど日産が集中させる分野が明確に表れていたような気がします。
ただ、このなかで、日本国内で販売または販売予定のものは5車種。セレナやスカイラインのような日本ならではのブランドは? やはり海外偏重か……その疑念は拭えませんでした。
また、気になったのが「コアモデルに絞り込む」という発言です。Cセグメント(日本では約4300~4600mm)、Dセグメント(全長約4600~4800mm)、電気自動車、スポーツカーに集中し、車齢の長い乗用車、トラック、地域専用となっているモデルを打ち切ることが示されました。
また、前日に行われたルノー・日産・三菱自動車の共同会見では、日産のパワートレインは大排気量ガソリンエンジンと軽自動車を受け持つとされています。
こうなると、例えばBセグメントと呼ばれるコンパクトクラスはどうなるのか…このクラスは国内的にも台数が出るコアマーケットだと思いますが、それはルノー主導になるのか。
また、「北米・日本・中国に集中」とありますが、市場規模は北米や中国が日本を上回ります。“全体最適”のもとにメガマーケットの北米・中国を優先し、日本にはその“おこぼれ”のようなクルマを投入するのであれば、日本のユーザーを納得させることはできないでしょう。
他社には日本人のためを思うクルマが少なからずあるわけですから。厳しい制約のなかで「ジャパン・ファースト」のクルマづくりができるかも注目です。
そして一度出したものは大切に育ててほしいと思います。内田社長は新興国市場を中心とした成長戦略について、「いろいろ蒔いた種を十分育てられず、結果として刈り取りができなかった」と話していましたが、日産には手を加えれば熟成されるクルマでも、一度ダメとなるとあきらめ、たな晒しにすることがいかに多いことか(むしろ、ユーザーが育てたケースが多い)。
悪い意味で「日産のDNA」とさえ思います。それを払しょくできるのか……これも大きな課題です。
また、共同会見ではプラットフォームから一歩進めてアッパーボディ(上屋、いわばクルマの外から見える部分)の共用化も進める意向が示されました。
内田社長は「カニバリゼーション(自社の商品が自社の他の商品を侵食=共食いしてしまう現象)を大きくとらえて大きな違いを求め過ぎ、投資効率が図れていなかったことが反省点だ」と述べ、バッジを変えるだけという発想を否定しましたが、過度の共用化はクルマの個性を失い、ブランドイメージの棄損にもつながります。そのバランスにも苦慮するところでしょう。
いろいろ懸念はあるものの、ひとまずプランは出揃いました。新型コロナウイルスの影響で早くも新車投入の遅れが指摘されていますが、まずは前進すべき。PR映像にあった「AtoZ」というフレーズが、「AtoZusari(後ずさり)」とならないように……。(了)