トヨタ決算発表にみる「ポスト・コロナ」への覚悟

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「報道部畑中デスクの独り言」(第189回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、5月12日にトヨタ自動車が行った決算発表について---

トヨタ決算発表にみる「ポスト・コロナ」への覚悟

豊田章男社長(オンライン画面から)

4月から5月にかけては例年、企業の決算ラッシュになります。しかし、今年(2020年)は新型コロナウイルスの影響で軒並み厳しい数字、来期の見通しを未定としている企業も出ています。

こうしたなか、トヨタ自動車が5月12日に決算発表を行いました。年度決算であることから豊田章男社長も出席、しかし例に漏れず、オンラインによる記者会見となりました。

「今回の決算は、新しいトヨタに生まれ変われるスタートポイント」

豊田社長はこのように総括しました。

2020年3月期の連結決算は、売上高が29兆9299億円で、前期に比べて1.0%減少、3年ぶりのマイナスとなりました。しかし、純利益は2兆761億円で10.3%増加。

一方、新型コロナウイルスの影響が色濃くなる来期2021年3月期の連結決算は、売上高は19.8%減少の24兆円、営業利益は79.5%減少の5000億円という見通しを示しました。

トヨタ決算発表にみる「ポスト・コロナ」への覚悟

トヨタ自動車の決算会見 2部構成、オンラインで行われた

厳しい状況で思い出すのは、やはり2008年のリーマン・ショックです。この影響で自動車メーカーはアメリカのGMとクライスラーが経営破たん、日本国内もトヨタと日産自動車は軒並み赤字。特にトヨタは2009年3月期で4610億円の営業赤字を計上し、過去最悪の決算に衝撃が走りました。

渡辺捷昭社長はその後に辞任し、後任には豊田氏が就任。豊田家の3代目社長の誕生に当時は「大政奉還」などと騒がれましたが、その後もリコール問題やタイの洪水などで厳しい状況が続きました。今回の会見では、そのリーマン・ショックから危機に至った時代も振り返りました。

「リーマン・ショックよりもインパクトははるかに大きい」と、豊田社長は現状をこのように語ります。しかし、大きく違うのは今回、黒字決算の見通しが示されたこと。日本の自動車最大手として何とか踏みとどまった形です。

「(コロナウイルス)収束後の経済復興のけん引役の準備が整ったのではないか」

その“自己評価”も、これまでとは異にするものでした。トヨタの決算発表は業績好調であっても、決して危機意識を崩さないのが特徴です。

私が特に印象に残っているのは、2018年3月期の通期予想。最終益が2兆4000億円に上方修正されるなど、好調な数字が並んだものの、小林耕士執行役員(当時副社長)は「決算の評価は通期見通しでは×=バツだ」と厳しく断じていました。

しかし、今回、豊田社長は「現時点の見通しではあるが、達成できたとすれば、これまで企業体質を強化して来た成果と言える。やるべきことが明確になって来た」と話し、これまでの取り組みを肯定的に捉えたのです。

トヨタ決算発表にみる「ポスト・コロナ」への覚悟

第2部の記者会見(左から寺師茂樹執行役員、豊田章男社長、小林耕士執行役員 オンライン画面から)

また、静岡県裾野市に来年(2021年)着工予定の「ウーブン・シティ」=「街づくり」については、計画に変更はなし。将来に向けた研究開発費についても、同席した小林執行役員は「止めてはいけないものは未来への開発費。いささかも変えるつもりはない」と話しました。

豊田社長も「過去に時間を使うのは私の代で最後にしたい。次の世代には未来に時間を使わせてあげたい。未来に向けた種まきだけはしておきたい」と、投資への意欲を示しています。

さらに豊田社長は、改めて国内生産300万台の維持を掲げました。「必要なものが手に入らないという事態に世界中が直面した。安くつくることだけを追及してしまうと、このような現象が起こるのではないか」と、低コストを追求する海外生産の過度な依存に警鐘を鳴らしました。

「石にかじりついてでも」という、かつてのフレーズも挙げたことは、“国内回帰”への決意を示したものと言えます。

豊田社長は会見で「落ち着いている」と語っていました。オンラインのカメラを前に淡々と語る豊田社長には、もはや幾多の危機感をくぐり抜けた「悟り」のような雰囲気さえ感じました。しかし、来期の5000億円の営業利益は、販売台数が今年6月までに前年の同じ時期の6割、9月に8割、12月には9割に回復するのが前提です。

自動車業界が「100年に1度の大変革」のなか、「ポスト・コロナ」を見据えた重い覚悟がにじんでいたと言えます。

トヨタ決算発表にみる「ポスト・コロナ」への覚悟

2021年3月期の連結決算見通し 営業利益は前期比79.5%減の5000億円(オンライン画面から)

一方、この決算を受けて、他社の業績も懸念されます。トヨタと同じ日に発表されたホンダの2020年3月期の連結決算は、最終利益が4557億円で前期より25.3%の減少、2021年3月期の業績予想は“未定”としています。

また、日産は4月28日に2020年3月期の純損益が、従来の予想より1500~1600億円程度悪化する見通しを示しました。詳しくは5月28日に中期経営計画とともに発表される予定ですが、カルロス・ゴーン前会長逮捕から続く経営の混乱もあり、厳しい数字が予想されています。

豊田社長の発言は、沈みゆく経済状況を鼓舞するためにあえて行った“人心掌握術”なのかどうか…それはわかりません。ただ、業績見通しを「予定通りに決算発表できたことに感謝したい」とした発言は、本音と言えるでしょう。

そして、新型コロナウイルスがもたらすものは世界的な業界再編への序曲?……トヨタの示した覚悟は、そんな可能性をも感じさせるものでした。(了)

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