ご自分の名前、気に入ってますか?
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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第842回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
今回は、6月6日公開の『お名前はアドルフ?』をご紹介します。
ヨーロッパを席巻した舞台を映画化~何故、よりによって“アドルフ”?
哲学者で文学教授のシュテファンと妻エリザベトは、弟トーマスとその恋人、友人の音楽家レネを招いて自宅でディナーをすることに。
楽しい夜となるはずだったが、出産間近の恋人を持つトーマスが、生まれて来る子供の名前を“アドルフ”にすると発表したことから、状況は一変。
「アドルフ・ヒトラーと同じ名前を子供につけるなんて…。気は確かか!?」
友人のレネも巻き込んだ大論争は、やがて家族にまつわる最大の秘密まで暴くこととなり…。
この世に生きるすべての人が一生涯付き合わなければいけないもの。それは、名前。
実子に“悪魔ちゃん”と命名しようとした騒動や、「この名前、何て読むの?!」となってしまう“キラキラネーム”の流行など、日本でも命名にまつわる話題は尽きないのではないでしょうか。
本作は、“名づけ”をテーマにしたフランスの戯曲をもとに映画化。ヨーロッパで大ヒットを記録した、上質の会話劇です。
劇中でトーマスが息子につけようとしている“アドルフ”は、もちろんアドルフ・ヒトラーのこと。ナチス・ドイツの独裁者にして第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人大虐殺を指導した、言わずと知れた人物です。
ドイツでは元々、アドルフは人気のある伝統的な名前とのこと。現在もその名をつけてはいけないという法律はないのですが、さすがに戦後生まれの男性で“アドルフ”を名乗る人はほぼ皆無なのだとか。
そんな“いわくつき”の名前を、愛する息子につけていいものかどうか…。実力派俳優たちが繰り広げるノンストップバトルは演技を超えた迫力で、観客は“4組目のゲスト”として論争に参加しているような臨場感さえ覚えることでしょう。
ドイツの戦後75年の“本音と建前”にユーモアとウィットをたっぷり盛り込んで、ドイツの“いま”を描き出した本作。歴史フリークも唸らせる、家族と現代社会を揺さぶる知的エンタテインメントです。
『お名前はアドルフ?』
2020年6月6日(土)からシネスイッチ銀座にて ほか全国順次公開
監督:ゼーンケ・ヴォルトマン
出演:クリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ヤニーナ・ウーゼ、イリス・ベルベン
原題:DER VORNAME
(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH
公式サイト http://www.cetera.co.jp/adolf/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/