苦境の日産 株主総会でも厳しい声

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「報道部畑中デスクの独り言」(第197回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日産自動車の定時株主総会と、新型SUV「キックス」について---

苦境の日産 株主総会でも厳しい声

お目見えした日産「キックス」(日産公式YouTubeから)

2020年3月期の連結決算で6712億円の最終赤字を計上するなど、日産自動車は厳しい状況が続いていますが、そんななか、横浜市の本社で6月29日、定時株主総会が開かれました。

新型コロナウイルスの影響で出席者は絞り込まれ、2月の臨時総会の666人の半分以下である、295人の参加となりました。所要時間も2時間足らずと、昼過ぎまでかかった前回よりも短いものでした。

件の厳しい経営状況で、配当は無配に。内田誠社長は「株主の皆様には大変申し訳なく存じます。今回このような結果になりましたことを、大変重く受け止めております」と陳謝しました。

苦境の日産 株主総会でも厳しい声

日産の定時株主総会は横浜市の本社で開かれた(日産自動車提供)

質疑応答に入ると、株主から厳しい発言が次々と飛び出しました。

「我々個人株主も、真綿で首を絞められるような感じがしている」

「このままの状況だと、あと2年で日産は消滅するのではないかと危惧している」

「日産には将来ビジョンが見えない」

「根っこの不信感がある限り、どんなに新しいクルマを投入しても、消費者にはそっぽを向かれる」

「ディーラーから『売るクルマがないんだよね』という声を聞く。恥ずかしいと思わないか」

……国内で長年、新車投入を怠って来たこと、カルロス・ゴーン前会長逮捕に至る会社の不透明な経緯……それは長年、日産車を愛して来たファンたちの嘆きにも聞こえます。

苦境の日産 株主総会でも厳しい声

株主の質問に答える内田誠社長(日産自動車提供)

「ホームマーケットである国内市場に改めて力を入れる」

「信頼の回復は我々にとって命題。断行して行く」

「過去、日本市場においては、新車を投入できなかった反省点は大いにある。これから日産は変わって行く」

内田社長は1つ1つの質問に冷静に回答しましたが、責任問題については「株主とお客様が決めることと思っている」と述べるにとどまりました。

これについては、2月の緊急総会で「今度の定時総会で(株価が)500円割ってたら、あんたら責任とれよ!」と言った株主に対し、内田社長は「目に見える形で会社のかじ取りをすることをコミットさせていただく。仮に今後そのような状況が見えない場合には、すぐに私をクビにして下さい」と回答したことを受けてのものでした。前週の日産株の終値は、408円あまりでした。

終始厳しい空気だった定時株主総会。一方、内田社長が言及した「新型車」がこれに先立ち、久々にお目見えしました。6月24日、人気のカテゴリーであるSUV=スポーツ多目的車の分野に「キックス」を投入したのです(販売開始は6月30日)。

苦境の日産 株主総会でも厳しい声

日産久々の「新型車」、発表会はオンラインで行われた(日産公式YouTubeから)

「日本市場において10年ぶりのブランニューモデル」

星野朝子副社長はオンラインで行われた発表会で胸を張り、「日本は日産にとって本当に大事な市場。これが皮切りになる」と語りました。

「新型車」とあえてカッコ書きにしたのには理由があります。キックスは2016年からブラジルで発売されたのを皮切りに、新興国を中心とした海外ではすでに展開されており、今回はその「既存車種」が日本向けに導入されたというのが実情と言えます。

ただ、「プロパイロット」と呼ばれる運転支援技術は日本仕様独自のもの。パワートレーンは評価の高い「eパワー」と呼ばれるシリーズハイブリッド(エンジンを発電専用とし、その電気でモーターを介し、車輪を駆動するハイブリッドの一種)のみとしています。

日産はこのクラスには「ジューク」という個性的なSUVを持ち、日本や欧州で展開されていました。欧州ではすでにモデルチェンジして2代目になっていますが、これは日本には導入されず、代わりにややサイズの大きい「キックス」が導入されました。関係者によると、ジュークにはeパワーが搭載されないことが理由の1つだということです。

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オンライン発表会では星野朝子副社長が自らクルマに乗り込むシーンも(日産公式YouTubeから)

eパワーのみとしたことは電動化技術に対する日産の本気度を示した形ですが、その代償は価格に現れています。最先端の電動化、運転支援技術を搭載しているとはいえ、価格は約275万円から。SUVと言えども、4WDは設定されていません。

ちなみに旧型ジュークの価格は、普及グレードで200万円台前半でした。この価格設定、乗り換え需要や他社との競争でどう判断されるのか注目されます。

さらに車両はタイ生産による“逆輸入”。タイでは電動車生産に対する税免除などの優遇策がとられています。また、国内に比べて必ずしも品質に差があるとは言えません。

しかし、「マーチ」で試みられたタイ生産は必ずしも成功しているとは言えず、そうしたイメージを払しょくできるかもポイントでしょう。

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オンラインらしく、エンジニアらによる「多元中継」を行った(日産公式YouTubeから)

今回の発表会はオンラインで行われました。日産は新型車を見せるためのさまざまな工夫を施していましたが、記者の質問は数人にとどまり、オンラインの限界を感じたのも正直なところです。

星野副社長は「日本市場にとって魅力的な日産自動車となるように、自動運転化技術、電動化技術のリーダーとして市場をけん引して行きたい」と強調していました。

「魅力的なクルマを」……小欄でも再三申し上げて来ましたが、では日産にとって魅力的なクルマとは何か? 特に日本のユーザーにとってはどうなのでしょうか? これについては、次回に譲ります。(了)

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