Go To キャンペーンすべてが罪なのか?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第200回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、政府主導で行われた「Go To キャンペーン」について---

Go To キャンペーンすべてが罪なのか?

西村経済再生担当大臣の記者会見 周囲がアクリル板で覆われた(7月27日撮影)

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大が懸念されるなか、政府の「Go To トラベル」が7月22日からスタートしました。この事業は政府の「Go To キャンペーン」の一環で、国内宿泊、パック旅行、日帰りツアー代金の50%を国が支援するというものです。

利用できる期間は決まっていませんが、予算は約1兆1000億円と限られていますので、さらなる拡充がない限りは、お金が底をついたら終了ということになるもようです。

しかし、このGo to トラベルは東京を中心とした感染者数の増加で、急きょ「東京除外」という措置が取られたことはご存知の通りです。安倍総理大臣は「現下の感染状況をみての判断」と述べ、赤羽国土交通大臣も17日の記者会見で「断腸の思い」と厳しい表情でした。

ちなみに「断腸の思い」は「腹わたがちぎれてしまうくらい、つらく悲しい思い」という意味で、大臣の発言としてはふさわしくないという声もあります。

予定通り実施される地域でも、参加の条件として「3密対策の徹底」……若者の団体旅行、重症化しやすい高齢者の団体旅行、大人数の宴会を伴う旅行は控えることが望ましいとしています。

ただ、こういう“条件”を設けますと、さまざまな疑問点も出て来ます。「若者って何歳まで?」「大人数って何人まで?」……年齢については菅官房長官が会見で、「若者は20代以下、高齢者は60代以上を念頭に置いている」と明らかにしました。

また、すでに予約したキャンセル料の扱いについても二転三転しました。赤羽大臣は17日の会見で、「中小の旅行業が大変な状況、(補償は)いささか無理がある」として、国としてキャンセル料の補償はないと明言しましたが、その後、与党の一角、赤羽大臣の出身である公明党から“待った”がかかります。

さらに、自民党の岸田政調会長がテレビ番組で、政府が補償を検討していると同調。結局、キャンセル料は補償されることになりました。

「臨機応変」なのか「朝令暮改」なのか……言えるのは、こうした「条件付き」「例外規定」をつけてしまうと、新たな「矛盾点」が出て来てしまうということです。私は消費税率引き上げの「軽減税率」を思い出しましたが、この二転三転ぶりが、野党などにツッコミどころを与えてしまうのは否めないところです。

Go To キャンペーンすべてが罪なのか?

「Go To トラベル」”東京除外”が発表された赤羽国土交通大臣の記者会見(7月17日撮影)

一方、国と東京都の“不協和音”も、またぞろ聞かれ始めました。

菅官房長官が感染拡大の状況を「東京問題」と言えば、小池知事は「国の問題」と反論。都内の陽性者のうち、連絡が取れない人の存在が指摘され、加藤厚生労働大臣が「具体的な状況を東京都に再三お願いしている。東京都から数字は出されていない」といら立ちをみせました。

西村経済再生担当大臣は15日の記者会見で、東京都が外出自粛を発表したことについて、「現時点では移動自由の国の方針に変わりはない。小池知事の責任の範囲で言われていること」と突き放しました。

こうしたなかで決断されたキャンペーンの「東京除外」。菅官房長官が、懇意にする隣県の神奈川、千葉の知事に配慮した上、小池知事に「意趣返し」をしたのではないかという見方もあります。思惑通り行かない政権与党に、焦りといら立ちがあることは間違いないようです。

一方、これをもって「Go To キャンペーン」の存在そのものを否定したり、「利権」と断ずる批判の類はいささか飛躍した議論かと思います。全国旅行業協会によると、観光による消費額は26兆円あまりに上ります(2016年)。また、仕事として関わっている人はおよそ240万人、働く人全体の7%ほどにあたります。

総務省の家計調査では宿泊費、パック旅行費が9割以上も減少するという、壊滅的な状況も明らかになりました。観光業は裾野が広くて中小企業も多く、「人の命は尊い、しかし、このままでは産業が死んでしまう」……こんな切実な状況を訴える人は少なくありません。キャンペーンはこうしたなかで生まれた「知恵」と、私は解したいと思います。

新型コロナ対策の分科会で、鳥取県の平井知事は「地方の立場から感染者を拡げてしまう懸念は、全国の知事の8割にあった」とキャンペーンの実施に懸念は示しながらも、「Go To キャンペーンの趣旨が誤解されてはいけない」と述べました。

また、先の東京都知事選挙では「コロナは災害だ」と主張する候補者もいました。だとすれば、キャンペーンは復興対策にあたります。

「困っている人を助ける」「“被災”した人たちにお金を落とすことこそ復興」……このような視点で考えれば、実施のタイミングに賛否はあるものの、キャンペーンの理念そのものに罪はなく、問題は運用の仕方かと思います。そして、何よりも重要なのは、運用の際の前提となる感染者、医療体制などの“誠実”なデータではないか……。

キャンペーンについては、「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」と喩える人もいますが、クルマには「ヒール・アンド・トゥ」というテクニックがあります。マニュアル車でギアをシフトダウンする際、まさにアクセルとブレーキを同時に踏み、エンジンの回転数を合わせるものですが、感染拡大防止と経済の両立を図るには、こうした高度な技術が必要と言えるでしょう。

もっともクルマにマニュアル車が少なくなっているがごとく、こうした技術を駆使できる人はどれだけいるか、そこは心もとないところですが……。(了)

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