【ペットと一緒に vol.212】by 臼井京音
筆者の愛犬が15歳を過ぎたころから、闘病生活が始まり愛犬の行動変化が見られるようにもなりました。
今回は、愛犬の病状の進行で筆者が不眠にも陥ったここ1ヵ月のストーリーと、小学生の娘の老犬へのまなざしについて紹介します。
人間で言うと喜寿くらいの年齢
筆者の愛犬(ノーリッチ・テリア)のリンリンは、2020年9月現在、15歳5ヵ月です。数ヵ月前に本連載記事でリンリンの様子を紹介しましたが、人間に換算するとこの3ヵ月間でリンリンの肉体年齢がまた1歳分老いたことになります。
リンリンは人間で言うと、現在70歳代後半にあたるでしょう。
実はここ1ヵ月ほど、筆者はリンリンの行動変化などでゆっくり眠れない日々が続きました。リンリンに行った今春の血液検査とエコー(超音波)検査で、心臓病と膵炎と腎臓病が発覚。膵炎になると、膵臓で分泌されている消化酵素の量が減り、消化能力が低下してしまいます。
膵炎の犬に1日の食事回数が2~3回では、消化吸収が十分になされない可能性があるそうです。そこで、筆者はリンリンに、1日4~5回に分けて少量ずつごはんを与えていました。もちろん、動物病院で処方された薬(消化酵素)も1日2回与えています。
それでも、初夏からたまに嘔吐をしたり下痢をしたりと、膵炎の症状が出ていました。
8月になると、午前中は良好な便をするものの、夜間に下痢をするように……。しかも、筆者が就寝してからリンリンは起きて、リビングやキッチンのあちらこちらに下痢をするのです。
飼い主の睡眠不足より愛犬の気持ち優先
夜中、あまりの臭さに目を覚ました筆者は、もともとの低血圧のせいでクラクラしながらも起きて明かりをつけ、まずはリンリンのお尻まわりを確認。汚れていれば、赤ちゃん用のおしり拭きで清潔にします。
次に、悪臭のもとを早急に処理すべく、室内を目を皿にして探します。カーペットの上に下痢便を発見すれば、ある程度をティッシュで拭き取ったあと、泡で出るタイプのハンドソープをプシュッとやりながらウェットシートでゴシゴシ。それを何ヵ所か繰り返し、布団に戻ります。
ところが、また数十分後に同じことが起こり……。熟睡感が得られないまま、毎朝目覚まし時計の音を聞くことになるのです。
リンリンはこの15年間、ほとんど室内で自由に過ごして来ました。とは言え下痢対策のため、夜間だけサークルに入れることも考えましたが、寝床やその周辺を汚したくないという犬本来の習性が働き、わざわざドッグベッドから離れたところで排便をしているのです。
筆者が気付かなければ、ケージ内のリンリンは不快な気持ちのまま、近くにある汚物とともに過ごすことになるでしょう。それでは、かわいそうです。なので、やはり夜間もリンリンをフリーにすることにしました。
あれこれと対策を練る日々
リンリンをサークルに入れずとも、片づけが楽になる方法を筆者は模索しました。
まず、2頭の犬の膝や腰への負担を軽減するために敷きっぱなしにしている、大きなカーペットにはアプローチできないよう、可動式の簡易フェンスを設置。また、夜間のみ、小さなラグは丸めておくようにしました。
また、ペットシーツを犬用トイレ以外にも敷き詰めてから就寝。相変わらず「何で夜中なの~! 昼間にしてよぉ」とリンリンに語りかけながら、夜中に飛び起きる日々は続きましたが、片づけだけは楽になりました。
さらに、膵炎に関して獣医師に質問をしながら、リンリンが下痢で苦しまずに済むような根本対策も講じました。
獣医師によると、「下痢止めを処方するのは簡単ですが、下痢止めを飲むと消化管の動きを鈍らせることになるので、一時的な下痢抑制の目的以外では使いたくありませんね」とのこと。
そこで、消化酵素が含まれた人間用の市販されている胃腸薬も、追加で毎食与えることになりました。その効果なのか、ここ1週間は良好なうんちが出るようになり、リンリンも少し元気になって来ました。また、筆者も夜間にぐっすり眠れるようにもなっています。
「老犬ちゃんもかわいいね」
筆者の8歳の娘が、先日このようなことを口にしました。
「老犬ちゃんも、とってもかわいいね~。老犬なりのゆっくりした動きも、帰って来ても気づかないでぐっすり寝ている姿もかわいいなぁ」
娘は、リンリンの同居犬で11歳のシニアドッグのミィミィと散歩中に走り回ったり、ミィミィとトレーニングをしたりするのが日課です。
リンリンは耳も聞こえなくなり、多くのことに反応が薄くなり、散歩は数十メートル歩くと抱っこになっていました。さらに、膵炎のせいで吸収力が落ちたため栄養を補おうとしてか、それとも認知症なのか、犬生で初めて食糞をするようにもなり、口臭も強くなっています。
そのため、リンリンに舐められそうになると娘は少し避けていた節もあったので、筆者は娘の発言にハッとしました。
「本当? ママは、リンリンと15年間一緒に生きて来たから、たとえどんなになっても愛おしいと思ってるんだけど……」と、聞き返さずにはいられませんでした。
「うん。何かさ、動きがゆっくりで、見ているとすごくゆったりした気分になれるよ。あと、話しかけても聞こえていないのか、『ん?』って首を傾げて見つめてくれて、キュンってなるよ。やさしい顔もしてるよね」と、娘は言います。
筆者がそれを聞いて胸が熱くなったのは、言うまでもありません。
リンリンがたとえこの先どんな状態になろうとも、なるべく不安になったり苦痛を感じないような選択をしながら、家族とにこやかな笑顔と穏やかな気持ちで見守ろうと、あらためて感じました。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。