黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」（ニッポン放送）に鳩レース競技者・及川茂が出演。鳩との暮らし、また鳩レースの課題について語った。

及川茂

黒木）今週のゲストは鳩レースの競技者、及川茂さんです。キャリア60年ということですけれども、鳩レースから学んだことは何ですか？

及川）規則正しく生きるようになりました。規則正しく世話をしないと、いい鳩ができないのです。まず鳩の世話を全部やって、それから毎日ジムに行って運動します。健康でないと鳩どころではありませんから。昔は「鳩に厳しく自分に甘く」でしたが、いまは「鳩に厳しく自分にも厳しく」となりました。おかげで生活のリズムが正しくまじめになりました。

黒木）日の出前に鳩を飛ばすのですよね。

及川）基本は日の出の10分前に飛ばします。

黒木）鳩はごはんを1日に何回食べるのですか？

及川）2回。私も鳩と一緒で2回しか食べません。訓練後、お腹を空かせて帰って来て、食べます。夕方は飛ばさないで餌だけあげます。他のペットにもあげるのですが、ここ数十年、動物より先に自分がご飯を食べたことは1回もありません。まずペットにあげてから、自分が食べます。

黒木）鳩は何時ごろに寝るのですか？

及川）鳩は暗くなったら寝て、日の出と同時に起きます。朝は私が「おはよー！」と起こすのですが、起こされて迷惑そうな顔をしていますよ（笑）。

黒木）日の出10分前でまだ薄暗いから（笑）。名前は付けられるのですか？

及川）「○○若大将」、「○○シャンテリー」という感じで付けますが、優勝しなければ付けません。最初は「若大将2番」などと、名前と番号だけで呼びます。

黒木）いっぱいいても、その子が誰かわかるのですか？

及川）顔が違うからすぐわかる。それは私に限らず、鳩を飼っている人はみんなそうだと思います。

黒木）鳩レースの文化を残すために、いろいろ活動していらっしゃると思いますけれども、今後取り組んで行きたいことなどはありますか？

及川）若い人にやってもらいたいですけれどね。なかなか魅力を伝える手段がありません。話すとみんな「面白い」と言うのですが。多くの人が鳩レースの存在自体を知らないからね。

黒木）鳩レースを見てみないとわからないでしょうね。

及川）鳩を飼っていない人でも、例えば取材の人がうちに来て、飛ばされた鳩が戻って来るのを見ると感動するわけですよ。そのときは仙台から300キロを戻って来たときでしたね。

黒木）鳩に手紙を付けて飛ばす「伝書鳩」というものもありますが、訓練を受けた鳩なら本当にできるのですね。

及川）やろうと思えばできます。近い距離ならほぼ100%帰って来ますから。

黒木）近いと言っても100キロとかでしょ？

及川）200キロくらいなら、東京の場合ほとんど帰って来ます。ただ、みんな知らないと思いますけれど、東京でも、鷹とかハヤブサなどの猛禽類がたくさん生息しているのです。鳩は彼らの餌だから食べられてしまいます。せっかくレースから帰って来ているのに、鷹やハヤブサに食べられてしまう。私たちは見ているだけで何もできないですから。

黒木）自然の摂理とはいえ、そういう悲しい場面もあるのですね。

及川）私たちは上ばかり見て歩いていますけれど、普通の人はそんなに上を見ないから。

黒木）うちの庭に遊びに来る鳩とは違うということはわかりました。

及川）そこをわかってもらいたいのです（笑）。

黒木）それに鳩レースがいかに興奮して楽しいものであるのかということもわかりました。

及川茂

及川茂（おいかわ・しげる）／鳩レース競技者・及川茂鳩舎

■1949年8月4日生まれ。生まれも育ちも墨田区業平。
■10歳から鳩を飼い始め、17歳のときに若大将号で1000キロのレースで初優勝。一躍、鳩界のプリンスとして名前を知られるようになる。
■その後、愛鳩・若大将号を舎外で亡くしたことを機に、「若大将系」をつくることを決意。両親、直子等を集め、近親系統にすることで大成功を収める。
■21世紀に入ってからは、21世紀を代表する系統「及川シャンテリー系」を確立。また「コンピューター系」という系統もつくり、数々のレースを制して来た。

【鳩レースとは……】
■同じ場所からスタートし、飼い主の厩舎に戻るまでのタイムを計るレース。
※北海道からスタートしたなら、千葉の人は千葉、東京の人は東京がゴールとなる。
※そのため、距離のハンデや地理のハンデがある。北海道からスタートしたら、東北地方では北西の風を受けるため海側が有利。関東地方では千葉県に厩舎を持つ人がいちばん有利。東京の多摩の方は逆風で不利。
※鳩レースをやるために引っ越す人もいるほど。
■距離を時間で割って、1分あたりの「分速」で勝敗を決める。
■鳩の足にはICチップが付いていて、GPSで飛行距離や時間がわかるようになっている。