コロナで仕事減の往診獣医師に転機を授けた保護猫との出会い

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【ペットと一緒に vol.222】by 臼井京音

コロナで仕事減の往診獣医師に転機を授けた保護猫との出会い

ニッポン放送「ペットと一緒に」

獣医師の林美彩さんは、この半年で2匹の猫を予期せず迎え入れることになりました。

気付けば3匹の猫と、コロナ禍でにぎやかな生活が始まったと微笑む林さんの、不思議なエピソードを紹介します。

 

コロナ禍の外出帰りにケガした猫を連れ帰る

2018年春にchicoどうぶつ診療所を立ち上げ、現在は往診専門の獣医師や手づくりごはんの講師として活動している、林美彩さん。実は猫に軽度のアレルギーを持っているそうですが、ここ数年は猫に縁があり、いまでは自宅に3匹の猫がいるそうです。

「つい数ヵ月前も、近所の郵便局へ行った帰りに、背中に傷を負った猫を連れ帰って来てしまいました。最初に見かけた日は逃げてしまったのですが、次に郵便局を訪れた際は、スリスリと体をくっつけて来て。傷もあるし、気になって放っておけない! そう思い、慌ててキャリーバッグを取りに帰りました。戻って来ていなかったら仕方がないと思ったのですが、まだいて、あっさり捕獲できたんですよ」と、林さんは笑います。

そのまま動物病院に直行したところ、保護した猫は推定3~5歳で、猫エイズ陽性であることもわかったと言います。

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林さんが郵便局近くで保護した“茗荷”ちゃん

林さんは、保護した猫を“茗荷(みょうが)”ちゃんと名付けました。

「傷は、自宅ケアであっと言う間に治りました。動物の持つ自然治癒力はすごいですね。他に先住猫が2匹いるのですが、茗荷はひとりでいることを好む一匹狼タイプ。女の子ですが、どーんと構えていて“主感”が漂っているので、最近“ヌシ”に改名してしまいました(笑)」

保護猫として新しい家族を募集する予定だそうですが、成猫で猫エイズも陽性なのでむずかしいかも知れないと思っているそうです。

「ヌシは同居猫には威嚇をしますが、すぐ私の膝の上を陣取って眠るし、既に避妊手術をされていたのにTNR(地域猫に去勢・避妊手術をしてもとの居場所に戻す活動)完了の証である“耳カット”もされていないので、誰かに飼われていたのかも知れません。いいご縁があればうれしいですが、うちのコになってもいいという覚悟で連れ帰っています。この先どうなるのかな?」

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マイペースだというヌシちゃん

半年で2匹の猫が仲間入り

林さんは、2020年6月末にも、予期せず子猫を迎え入れました。

「子猫2匹を、一時預かりしていたんですよ。毎夜、私のお腹にピョンピョン飛び乗っての大運動会。新型コロナの影響で、往診をほとんど行えなかったので自宅に籠る日々が続いていたとはいえ、寝不足に陥りましたね(笑)。その“雲丹(うに)”と“タラコ”の2匹とも新しい飼い主さんが決まっていたのですが、1匹は事情が変わり、私が引き取ることになったんです」

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雲丹ちゃん(右)と山葵くん

林さんのもとには、4歳の“山葵(わさび)”くんもいるため、2020年の秋には3匹の猫と暮らすことになりました。

「山葵も、捨てられていた猫です。私の友人が勤務していた動物病院で里親募集をしたけれども応募がなく、最終的には私が迎え入れました。半年で2匹も猫が増えて、てんやわんやです(笑)。でも、にぎやかで楽しい毎日ですよ」

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北海道の実家に暮らす、ジンくん

北海道の実家のセラピー猫

埼玉県に暮らす林さんの実家は、北海道で動物病院を営んでいます。そこには、林さんが気にかけているチンチラ系のシニア猫のジンくんがいるとのこと。

「実家に帰省するたびに、猫が増えているので驚きますね。野良猫を保護しているそうですが、愛犬が見つけた子猫をはじめ、現在は5匹を飼っています。ジンはそのなかの1匹で、他の飼い主さんから、訳あって我が家で迎えることになりました。

実はジンは、動物病院でまるでセラピー猫のように、緊張した飼い主さんに寄り添ったり、『ここ、怖くないよ~』と怯える犬や猫に伝えるかのようにゴロンと転がってお腹を見せたりしてくれます。いまは若い茶トラのタンタンが、ジンの後継者として、頑張ってくれているような感じがします」

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北海道の動物病院にいるタンタンくん

北海道の林家には、愛犬にしかなついていない猫の“カンくん”もいるそうです。

「愛犬にべったりで、愛犬に寄り添って寝て、散歩に行ってもついて来ます。最近になって、ようやく撫でさせてくれるようになりました。見ていて、猫は本当に自由気ままでおもしろい生き物だなぁと実感しますね」

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実家の愛犬を慕うカンくん

猫のための手づくりごはん本を出版

もともとは、どちらかと言うと犬派だったという林さんですが、ここ数年で猫との縁が深まったこともあり、『獣医師が考案した長生き猫ごはん』(世界文化社)という著書も今秋に出版しました。

「山葵には、1歳半まで手づくりごはんをあげていました。大学時代に飼っていた愛犬には手づくりごはんをあげていたので、愛猫にも同様に。よく食べてくれていましたが、私の仕事が多忙になって一時期ドライフードとウェットフードにしたところ、最近は主に市販のフードを好むようになっています。でも、山葵にも新鮮な生きた栄養素を摂って欲しいので、魚をほぐしてトッピングで与えたりはします」(林さん)

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書籍について動画で解説する林美彩さん

林さんによると、猫は犬と違って一筋縄では手づくりごはんを食べないとか。

「我が家の猫たちも、食材を小さくしたら食べてくれたり、逆に大きくカットしたらむしゃむしゃし始めたり……。そのコによって好みが違うので、工夫も必要だと実感しましたね。ちょうど猫の書籍をつくっているときに雲丹とヌシが現れて、いい学びを与えてくれたと感謝しています」

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林さんの実家猫で唯一の女の子のあゆちゃん

林さんは愛猫たちの体にやさしいおやつを与えたいと思い、“手づくりちゅ~る”のレシピも考案して書籍に掲載しました。

「猫は加齢とともに腎臓や泌尿器にダメージを負いやすいため、なるべく水分を摂らせたいものです。なので、猫ちゃんたちがおいしく飲めるスープのつくり方なども載せています。また、私が代替療法として訪問診療で活かしているマッサージ法や、体質改善法なども紹介しています。愛猫や実家の猫に穏やかに長生きしてもらいたいと思って考えたレシピや知識を、多くの飼い主さんに役立てていただければうれしいです」

テレビ電話の取材で、そう言いながら微笑む林さんの膝の上にはヌシちゃんが、その後ろでは雲丹ちゃんと山葵くんが夜の運動会を繰り広げていました。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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