黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に横浜創英中学校・高等学校 校長の工藤勇一が出演。ヨーロッパと日本の教育の違いについて語った。
黒木)今週のゲストは横浜創英中学校・高等学校校長、工藤勇一さんです。EUと日本の教育はどのようなところが違うのでしょうか?
工藤)日本で民主主義という言葉を学校で聞くことは少ないかも知れません。民主主義って難しいですよね。みんな多数決だと思っていますが、多数決ではダメなのです。多数決を取ると、障害のある方などはマイノリティなので勝てないですよね。
黒木)そうですね。
工藤)ですので、すべての人、誰1人置き去りにしないということについて、みんなで対話して行くことが、持続可能な社会につながるわけです。その対話を、ヨーロッパの方々は子どものころから訓練されています。「自分の利益を損ねてしまう人たちはいるけれども、みんなにとっての最上位は平和だよね、それを実現させるための手段はみんなで取ろうよ」という対話をするのです。その訓練をして行かなければならないのですが、なかなか日本はそこに至っていない。それは戦後、民主主義を与えてもらったからです。当事者教育……。
黒木)当事者教育というのは?
工藤)「自分の世の中をつくっているのは自分自身だ、当事者だ」ということです。自分のクラスをつくっているのは自分自身で、与えてもらっているのではない。クラスで起こっていることは誰のせいでもない。例えば、障害を持っている、または発達に特性があって仲よくすることが苦手な子がいます。日本ではKY(空気が読めない)と否定的に言いますよね。でもそうではなく、「人の気持ちがあまり読み取れない」という人は普通にいるのです。その人も含め、みんなが「いい」となるように、対話をするのです。
黒木)KYとよく言いますね。
工藤)麹町中学校には「みんな仲よくしよう」という教育目標はありません。いまは学年目標や学級目標などもなく、学校にある教育目標は「自律・尊重・創造」だけです。それがみんなの最上位だよね、自律は自分で考え行動する、尊重は人の違いを理解して他者を尊重すること、という感じです。それが常にみんなの目標になっています。クラスで迷惑をかける子がいたら、その子を排除するのではなく、「どうすれば一緒にできるのか」という対話をして行く。
黒木)なるほど。
工藤)心は見えないものです。自分が素敵な心を持っているか、思いやりのある心を持っているかということを、自信を持って言える人はいません。「よかれ」と思うことを行動することはできるけれど、素敵な心と一致してできるか、自信を持って言える人はそんなにいないと思います。海外では、行動に対する教育をしているのです。対話をして合意して何かをするというのは、自分の心と真逆のことを決定しなければいけません。「理性と感情を切り分けて、全員のためにどういう理性の下、決定するか」という訓練をしているのです。それが教育ですよね。
黒木)感情と理性、それをそれぞれがコントロールするわけですね。
工藤)思いやりというのは、感情も含めて「相手に対して思いやれ」と言っていますから、このハードルは高過ぎますよね。こんなことを言うと誤解を受けるかも知れませんが、現実離れした教育を日本はしてしまっているのかも知れません。
黒木)そういうお話を現役の教員の方になさるのですよね。
工藤)みんな最初は驚きます。驚きますが、「でも考えてみればそうか」となります。差別の問題も、麹町中学校のときに全校集会で子どもたちによく言っていましたが、「大人でも差別する心を消せるかと言ったら難しいよ。私も難しいな。きっと生まれて来るよね。でもこの言葉が人にとって差別だということ、その知識を得たら誰でも止められるよ。差別しない行動は誰にでもできるよ。これが人間だよ」という話をします。
工藤勇一(くどう・ゆういち)/横浜創英中学・高等学校校長
■1960年・山形県鶴岡市生まれ。
■1984年から山形県で数学の中学教諭を5年務め、東京都台東区の中学校に赴任。
■その後、東京都や目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会・教育指導課長などを経て、2014年に千代田区立麹町中学校の校長に就任。宿題・定期テスト・学級担任制など、これまで日本の学校教育で当たり前に行われて来たことを次々と廃止し、生徒が自律的に学習や活動に取り組む学校づくりを実施。
■麹町中学校で校長を6年間務めたのち、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。
■2020年4月からは横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳