100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月12日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。10年前の東日本大震災で大津波に襲われた岩手県宮古市田老地区のいまについて、現地での取材を交えて解説した。

100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

【東日本大震災10年】地震発生時刻を迎え、防潮堤の上で黙とうする住民ら=2021年3月11日午後、岩手県宮古市田老 写真提供:産経新聞社

100年間で3度の津波に襲われた宮古市田老~巨大防潮堤は必要だったのか

2021年3月11日で東日本大震災から10年を迎えた。ここでは、この100年あまりの間に3度大きな津波に襲われている岩手県宮古市田老地区について現地からリポートする。

飯田)岩手県宮古市田老地区は、明治29年、昭和8年、そして10年前の2011年と、この100年あまりの間に3回の大津波にあって悲劇を繰り返したというところです。「明治三陸津波」と呼ばれる明治29年の津波では、1859人の方が亡くなり、昭和8年の「昭和三陸津波」では911人の方が亡くなった。そして、東日本大震災では、行方不明者41人を含め、181人の命が犠牲となったということです。昭和8年の津波の翌年から44年かけて、万里の長城とも呼ばれる高さ10メートル、全長2.4キロにおよぶ巨大な防潮堤がつくられたというところでした。あの当時も、高台移転というのは議論として出たそうなのですが、当時の技術や資金では、山を切り崩してそこにみんなで移るのは難しいということになった。漁師さんたちの街なので、海から離れるのも不便だろうと。そこでどうやって守るかというところで、防潮堤という発想が出て来たようです。ただ、それも東日本大震災の津波では、防ぎ切ることはできなかった。高さ16メートルの波、「海の壁」とおっしゃっていましたが、これが迫って来たのです。そのときの田老地区の様子はどうだったのか、震災ガイドをされている小幡実さんに伺います。

100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

東日本大震災十周年追悼式で、標柱に一礼される天皇、皇后両陛下=2021年3月11日午後2時56分、東京都千代田区の国立劇場(代表撮影) 写真提供:産経新聞社

「まず逃げろ。そして逃げたら戻るな」

小幡)当時はこんな感じでした。赤沼山の上のスピーカーから「3メートルの津波が来ます。皆さん避難してください」という放送がありました。それを聴いて「テレビの方が確かだろう」と思ってテレビをつけたら、停電だったのですよ。問題はここからでした。そこで逃げなかった人が多かったのです。「3メートルの津波が来るから避難しろ」と言われたけれども、いままで昭和8年から78年間、たびたび「津波が来る」と言われたけれど、大きなものは来なくて、せいぜい2~3メートルでした。「なーに、3メートルくらい。10メートルの防潮堤が二重になっているし大丈夫だ」と、いつもと同じで「逃げなくていい」と勝手に判断した人が、そのまま家にいたのです。ラジオも持っていないし、携帯も使えませんでした。山に逃げた方は、後にラジオで「10メートルの津波が来る」という放送を聴いたそうです。やはり停電のときはラジオが必要だったのです。しかし、山から戻った人がいた。先祖の位牌を取りに行った年配の方。先祖の位牌は大事です。あとはお金や通帳。余裕が出て来て、時間があると思って戻ったのですよ。そこでのまれて亡くなって行ったのです。

飯田)一旦避難したけれど、まだ時間があると言って戻ってしまって、そこで津波が来たという方もたくさんいたようですね。こういうこともありますから、「まず逃げろ。そして逃げたら戻るな」という教訓は被災地のいろいろなところで目にしました。

100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

2021年3月11日、献花する菅総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202103/11tsuito.html)

田老と防潮堤の関係

飯田)小幡さんは、防潮堤について、人間のつくったものは自然の猛威の前で無力だったとも言われるけれども、防潮堤がなかったらどうなっていたかということも、田老地区で行われている「学ぶ防災ガイド」で語り部としてお話しされています。ダイレクトに町を津波が襲ったということであれば、もっと被害は大きかっただろうということで、勢いの減衰という点で一定程度の効果はあったのかも知れませんが、そうは言っても181人の方が亡くなってしまったということを考えると、防潮堤だけに頼るのはよくなかったと。依存心が生まれていたのではないか、油断があったのではないかということをおっしゃっていました。現在は、昭和8年以降につくられた防潮堤はそのままあって、さらにその海側に14.7メートルの新しい防潮堤が建設されていて、高さ10メートルの防潮堤の上に立っても、その向こうにある海は一切見えないようになっています。その辺り、田老と防潮堤の関係について、小幡さんにお話を伺いました。

100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

「震災遺構」として保存が決まった、1、2階が押し寄せた津波に骨組みだけを残すだけとなった「たろう観光ホテル」=2014年3月1日午後、岩手県宮古市 写真提供:産経新聞社

田老は防潮堤と生きて行くしかない宿命にある

小幡)この第1防潮堤を津波が乗り越えて来て、「何の役にも立たなかった」と言う人もいますが、よく考えてみれば、この第1防潮堤があったが故に、高台にあった公共の建物や民家が残り、これだけの人が生き残って復興をしているとも言えるのです。やはり第1防潮堤は無駄ではなくて、十分役割を果たしたのではないかというのが、田老の人の考える結論だと思っております。高すぎる防潮堤は、海が見えないし、圧迫感があるし、単純に考えてこれがいいわけではないと思います。しかし、これしか方法がなく、この方法でやって行きます。ですから、理想を言えば、宮城県の女川では若い人が決めたそうですが、防潮堤をなしにして、土地をかさ上げして、背後の山を削ってそこに民家が並ぶようにしましたが、そういうものが理想にいちばん近いのではないかと私は思うのです。実際に、津波が見えたら人は恐怖で逃げますよ。逃げればいいのです。三陸の場合は大体40分くらい時間があるのですから。せっかく海のそばにいるのだから、誰もが海を見ながら解放感を持って生きるべきですよ。理想は。それがいちばん変わらない基本だと思います。しかし、田老は防潮堤と生きて行くしかない宿命の町だったのだと、私は感じるわけです。

飯田)複雑な思いを抱えながら、しかし防潮堤だけに頼るわけにはいかないと、この経験をずっと語りつがなくてはいけないということで、これだけ力を込めてお話しいただきました。

100年間で3度の津波に襲われた 岩手県宮古市田老地区のいま

【東日本大震災10年】小泉海岸で行われた慰霊祭で献花をし、手を合わせる人たち。震災後、サーファーや地元住民らががれきなどの撤去を行い、約15メートルの防潮堤も設置された=2021年3月7日午前、宮城県気仙沼市 写真提供:産経新聞社

危機管理の基本は「情報と備え」~震災被害を伝える「学ぶ防災ガイド」

宮家)海が見えなくなるのはつらいですよね。しかし景色で命は救えないのです。いまの話を伺って、やはり「危機管理の基本は情報と備え」だとつくづく思いました。

飯田)テレビがつかず、防災無線も最初の3メートルの津波のときはアナウンスができたそうなのですが、停電で動かなくなってしまったそうです。そして、その後、情報が更新されて、6メートルが来る、10メートルが来るとなり、最終的に16メートルの巨大な津波がこの町を襲った。最大で17.4メートルまで行ったという話があります。この情報が行き渡っていたらあるいは……ということを考えると、まさに情報と、すぐに逃げるという備えの部分ですよね。

宮家)それに尽きますね。

飯田)改めてそのことを確認する日が3月11日だったということです。小幡さんはこのことをずっと伝え続けて行きたいと。この宮古市田老地区の「学ぶ防災ガイド」で語り部の人にお話を伺う。また震災以降の防潮堤の壊れたところを見ながらお話を伺うというのもあるのですが、このカリキュラムのなかには、実際に宮古市田老に津波が襲ったときの様子を「たろう観光ホテル」の社長さんなどが、映像に収めていて、これはどこにも出さないのだけれど、ここに来た人にのみお観せしているそうです。目の前でこの壊れたものを見て、話を聞いてもらったあとに、映像を観てもらうということが、いちばん実感してもらえるのだと。見せものではないから拡散するものではない、ここに来れば実感とともに観ることができると。震災の1年後からこの「学ぶ防災ガイド」という取り組みを始めていらっしゃるそうなのですが、これまで18万6千人あまりの人たちが学習しに来ているとのことです。海外からも訪問者が多いようで、大使館の人なども来て、学んで帰るそうです。「言葉を失う」とおっしゃっていましたが、それを引き起こさないように、「情報と備え」が必要なのですね。

宮家)私もまた行かなくてはいけませんね。勉強に行きます。

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