「報道するとブーメランで自分たちに返って来てしまう」総務省接待問題の冷淡な報道の背景を須田慎一郎が解説

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ジャーナリスト・須田慎一郎が3月21日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送『須田慎一郎のスクープ ニュース オンライン』に出演。総務省幹部が放送事業会社「東北新社」から接待を受けた問題の報道の少なさについて、メディアとの「もたれ合い」の観点から切り込んだ。

「報道するとブーメランで自分たちに返って来てしまう」総務省接待問題の冷淡な報道の背景を須田慎一郎が解説

東北新社=2021年3月12日午前、東京・赤坂 写真提供:産経新聞社

放送法違反状態でずっと放送が行われていた背景にあるもの

総務省接待問題は、先週行われたNTTの社長と「東北新社」社長の国会参考人質疑でも鎮火しなかった。国会質疑で東北新社の中島信也社長から官僚との癒着を疑わせる証言が出たことから、新たな火種とみられている。

須田:この国会でのやりとりで最大のポイントは何かと言うと、はたして不正な働きかけが行われたのかどうかです。

何が不正かと言うと、東北新社は2016年10月に、洋画専門BSチャンネル「ザ・シネマ4K」というチャンネルの事業認定を、総務省に申請しています。その申請時点で、株主の20.75%……これは議決権ベース、議決権を持っている株主全体の20.75%が、外資だったのですよ。

ご存知の方も多いと思うのですが、放送法ではそういった外国人、外資が議決権の5分の1以上を占めないことを、衛星基幹放送の事業者認定を受ける要件としています。だとすると、本来であれば認定は受けられないということですが、それに認定をしてしまった。その意味では、放送法違反の状態になるわけです。

なぜそうなってしまったのかということですが、問題はその後、東北新社の中島社長によれば、東北新社は2017年8月4日にそういった規制に違反していると気がついた。そのため、翌日にその違反を正常化しようと、総務省に連絡を取って相談に行ったとしています。

相談に行った先というのが、いまの鈴木電波部長……当時は総務課長という立場にいましたが、その鈴木さんに報告して相談に行きましたと。日付も特定してそういう説明をしているのですが、一方、相談を受けたはずの総務省、鈴木さんサイドは「記憶にない」と。面談したかどうかについて「記憶にない」という言葉を連発し、それを否定したというところです。はたして、どちらの言っていることが正確なのかという問題になって来るわけです。

ですから、相談を受けてしばらくの間(そのままだった)というか、免許が取り消しになったのはつい最近ですよね。法律違反をしているけれども、結果的に見て見ぬふりをしていたのか、あるいは知らなかったのかはわかりませんが、法律違反状態でずっと放送が行われていた。

では、その背景に何があったのか。ある種、東北新社と総務省の特殊な関係で、それが接待によって構築されており、なおかつ菅総理の長男である正剛氏が接待の現場に同席していた。やはりそこに、言ってみれば総務省で大きな影響力を持つ政治家であるお父さんの菅氏に対して、忖度をしたのか、あるいは何らかの働きかけがあったのか、いろいろと憶測を呼んでしまったということです。

話をまとめると、まず違法状態であることを相談した。しかし、接待をくり返して行くなかで特別な関係だった。だからお目こぼしをしたのか、それともまったく相談などはなかったのか。それは東北新社が勝手に言っていることであって、少なくとも総務省サイドはそういう認識を持っておらず、だから結果的に便宜を図ることもなかったのか。どちらが本当なのかというところが、いちばん大きなポイントになったのですよ。

結果的に言えば、参議院も衆議院も、その謎を解明するには至りませんでした。ずっと証言は平行線をたどっていた。私は思うのですが、結果的に言えば、国会議員を追及するのは野党だけれども、与野党ともにどちらが正解なのかという決め手になるような材料、データを持っていなかった。ですからいくら国会でやりとりをしても、真相は見えて来ないのかなと思っています。結果的に報道というか、世の中に対する情報発信はどんどん沈静化の一途をたどっている状況にあるのかなと思います。

「報道するとブーメランで自分たちに返って来てしまう」総務省接待問題の冷淡な報道の背景を須田慎一郎が解説

衆院予算委員会で答弁する総務省総合通信基盤局・鈴木信也電波部長=2021年3月16日午前、衆院第1委員室  撮影日:2021年03月16日 写真提供:産経新聞社

“特殊な関係”だからなのか“認識がなかった”からなのか

須田:ただ私は思うのですが、この件に関して言うと、いくつかの放送局が外資規制違反をしているのです。

新行:そうなのですか?

須田:実を言うとそうなのです。ただし、先ほど申し上げたように、議決権ベースというところが鍵なのですよ。放送局が発行している株には、議決権のある株とない株があります。つまり議決権というのは、株主総会などで自らの意思を示す、そういう根拠になるものですよね。ただ、議決権さえなければ、要するに経営に関与することはできないから、そこはセーフだということで、議決権のない株式としていくつかの放送局が19.9%で止めてみたりしているのが実態です。

だから外資が20%以上持っていても、そういう処置をすることによって、そのルールや法律から逃れる術があるわけですよ。議決権がないからいい、悪いという問題もありますが、東北新社はなぜそれをやらなかったのか、ということも1つのポイントです。

2016年10月に申請しましたよね。そして2017年1月に認定を受けたあと、外資規制に違反していることに気がついた。気がついたのは2017年8月4日です。そうすると、いまは2021年ですから、この間にいくらでもその辺りを調整することが可能だったはずです。東北新社は上場企業ですので、外部からのチェックが入ります。違法状態にあるということは、総務省にとってもハラハラすることですし、東北新社にとってもハラハラすることですから、先ほど言ったように「持っていてもいいですよ。でも議決権は外しますよ」ということをやれば何の問題もなかったのに、なぜそうしなかったのか。

アプローチとしては、1つは特別な関係があるから。もう1つは両者……というか、総務省サイドにまったくそういった認識がなかったからだと。つまり鈴木電波部長が言っているのは後者ですよね。前者は東北新社です。

いったいどちらなのか、それを確定させるような材料を与野党ともに提示することができなかったために、国会でのやりとりが曖昧になってしまった。だとすると、いくら国会でやっても仕方がないし、もはや第三者委員会だという状況になったのかなと思います。

「報道するとブーメランで自分たちに返って来てしまう」総務省接待問題の冷淡な報道の背景を須田慎一郎が解説

総務省

厳しく書いて来ないメディアとのもたれ合いの構図

須田:加えて1つ注目しているのが、新聞や放送局もあまり熱心にこの問題を取り上げていないでしょう。何か奥歯にものが挟まったような、特に衆議院の質疑が行われた翌日の新聞は、朝日新聞や一部の新聞を除いて冷淡な扱いというか、なかったものにしているようでした。

これにも1つ理由があって、放送免許を取るにあたり、放送局はだいたい新聞社の系列会社が多いですよね。飯田さんの番組(ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』)でもいみじくも取り上げているように、新聞社には「波取り記者」という記者がいて、新聞社は放送免許を取るためにさまざまな形で旧郵政省、いまの総務省に働きかけをしたのですよ。そこには常駐していて官僚の方と親しい、親密な人間関係を築いている記者がいて、私も昔見たことがあるのですが、そういった記者さんは記事を書かないし取材もしない。記者会見の席には最前列で陣取っていて、私のような暴れん坊が何か質問すると、あとで呼ばれて注意されることもありました。そういう記者がいらっしゃって、その人達を「波取り記者」と言っていました。

新行:なるほど。

須田:つまり人間関係を築くのと同時に異物を排除するというか、何か旧郵政省にとって問題があるような動きは事前に潰して行く……というのは言い過ぎかも知れませんが。リスクを排除してあげるような、危機管理責任者のような役割を果たしている記者がいたのですよ。

おそらくそれは昼間だけではなくて、夜だって一杯やっているでしょうし、食事も一緒に行っていると思います。しかし、それが接待と言えるものかどうかは別ですよ。とは言え、メディアの方も各社が放送免許を取っているのだから、そういう人間関係なり会食なり、場合によっては接待という場面があったとしても何らおかしくはないし、そういうことも実際にあった。

例えばTBS出身の立憲民主党・杉尾議員は、「私たちだって接待しましたよ」と言っているくらいだから、そうすると、やはりこれはブーメランで自分たちに返って来てしまうのですよ。だからあまり熱心にというか、真剣になって思い切り追及できないところもあるのかなと思います。

ですから出来レースとは言わないまでも、鈴木電波部長と東北新社の証言の食い違いについては、「どうせ追及したって材料を持っていないだろう。そこを追及されたってメディアは厳しく書いて来ないだろう」という、もたれ合いの構図があったのではないでしょうか。

「報道するとブーメランで自分たちに返って来てしまう」総務省接待問題の冷淡な報道の背景を須田慎一郎が解説

参院予算委員会に臨む参考人のNTT澤田純社長(左)と東北新社中島信也社長=2021年3月15日午後、参院第1委員会室 撮影日:2021年03月15日 写真提供:産経新聞社

報道されない野党との会食問題

須田:そしてもう1つ、衆議院の質疑で驚いたことがありました。これはNTT問題の方ですが、維新の会の足立議員がNTTの澤田社長に対して、「接待、会食をしたのは与党だけですか? 与野党ともにではないですか?」という質問をした。そして、澤田社長はそれを半ば認めるような証言をしました。そのことについても、一切報道していないではないですか。だから非常に恣意的な、特別な意図を持ったような報道が、この件では多々見受けられるなと。

だから本当に思うのですけれども、そういった裏事情をまったく考慮しないで、好き勝手にしゃべっていいようなこういう番組とか、あるいは実際に国会中継を見ていただいて、何が行われているのか知っておかないと、本当のところは見えて来ないのかなと思います。

番組情報

須田慎一郎のスクープ ニュース オンライン

(2021年3月)毎週日曜日 17:40-18:00

番組HP

ジャーナリスト・須田慎一郎が、ちまたにあふれるニュースの真相を、新たな視点ですくいあげる魂のニュース番組

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