次世代技術のキーワード……量子コンピュータ

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「報道部畑中デスクの独り言」(第241回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、「量子コンピュータ」について---

理研量子コンピュータ研究センターのロゴ(理研提供)

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クルマの電動化のカギを握るアイテム、全固体電池について先日お伝えしましたが、こうした次世代を担う技術はクルマ以外にも多々あります。その1つが「量子コンピュータ」。理研=理化学研究所が開発拠点「量子コンピュータ研究センター」を埼玉県和光市の理研内に開設しました。そのなかには富士通と理研の連携センターも含まれます。理研の研究センターとしては13番目となります。

「国際的な競争がこれから激しくなる。そのなかで日本の研究者たちと、産業界の力を十分に発揮できる体制で臨みたい」

4月1日に開かれた記者会見で、理研の松本紘理事長は産学連携への決意を述べました。

4月1日、理研東京連絡事務所で開かれた記者会見(左から富士通・原常務、理研・松本理事長、理研・中村センター長)

4月1日、理研東京連絡事務所で開かれた記者会見(左から富士通・原常務、理研・松本理事長、理研・中村センター長)

量子コンピュータとは何か……一言でいうと、「量子」という粒子と波の性質を併せ持った物質やエネルギーを使い、これまでとまったく次元の違う計算能力を持つというものです。

一昨年(2019年)、アメリカのGoogleで量子コンピュータを使った実証実験に成功したことが話題になりました。スーパーコンピュータで1万年かかる計算問題を、量子コンピュータは3分20秒で解いてしまったそうです。

実際、成功したと言えるかどうかは議論になっていますが、いずれにしても量子コンピュータは、いままでとはまったく違う世界であることは疑いないところです。

研究センターについて説明する理研・中村センター長

研究センターについて説明する理研・中村センター長

少しだけ仕組みについて説明します。量子コンピュータには大きく分けて「量子ゲート方式(以下 ゲート方式)」と「量子アニーリング方式(以下 アニーリング方式)」があります。

このうち、ゲート方式は従来のコンピュータ(ノイマン型と呼ばれる)のもつ論理ゲートを量子ゲートに置き換えたものです。

従来のコンピュータは2進法……情報を「0」と「1」の2つの状態のいずれかに変換して計算します。例えば10ビットの情報であれば、2の10乗=1024通りの計算が必要です。一方、ゲート方式の量子コンピュータは量子の「重ね合わせ」という性質により、「0」と「1」両方の状態を同時に表現できるため、理論上、1024通りの計算を一気に処理できるというわけです。

一方、アニーリング方式は日本語で「焼きなまし」という意味で、組み合わせ最適化問題(多くの選択肢のなかから、ある指標を最大、最小になるものを求める問題)が得意とされています。

ビットの表面を顕微鏡で見ることができる やはり機能に徹したものは美しいと思う

ビットの表面を顕微鏡で見ることができる やはり機能に徹したものは美しいと思う

応用が期待される分野としては、科学計算はもちろんのこと、材料開発、創薬、金融や経済の予測と多岐にわたります。インターネットのように生活を一変させる可能性もあると言われています。

会見に同席した富士通の原裕貴常務は、「量子コンピュータによって、いまの技術では到底解決できない社会や科学の難問を解くことを目指して行きたい」と語りました。富士通と理研は連携しながら、試作機の開発、基盤となる「量子ビット」の安定した製造技術、配線・部品を実装する技術の他、ハードウェア、ソフトウェアの開発などを担います。

一方、規模の小さな量子コンピュータにおいては、身近な生活のなかですでに実用化されています。例えば組織に属する多くの人のスケジュールの一元管理、荷物の効率的な配送、料理のレシピ、化粧品の素材開発などが挙げられます。まさに「最適化」のプロセス、これらを手掛けるのは「blueqat」というベンチャー企業。今後はAI=人工知能の分野に力を入れて行くということです。

16量子ビットのチップ

16量子ビットのチップ

「量子コンピュータ」……実は毎年のようにノーベル賞の候補に挙がる研究テーマでもあります。日本人では東京大学の古澤明教授、東京工業大学の西森秀稔特任教授が研究の第一人者。古澤教授は高速通信への活用が期待される「量子テレポーテーション」の実験に成功、西森特任教授は前出の「量子アニーリング」の理論を提唱しました。

しかし、これらの功績は、日本国内で一般にはあまり知られていないばかりか、その応用において外国勢に「トンビに油揚げ」をさらわれてしまうケースが少なくありません。例えば量子アニーリングの技術を使った商用としての量子コンピュータは、2011年にカナダの「D-Wave Systems」が発表したものが世界初とされています。

4月7日~9日には東京ビッグサイトで業界向け商談展示会「量子コンピューティングEXPO」が開かれた(主催:リード エグジビション ジャパン)

4月7日~9日には東京ビッグサイトで業界向け商談展示会「量子コンピューティングEXPO」が開かれた(主催:リード エグジビション ジャパン)

「日本人が発明したのに、残念ながら外国が後に来て、先に行ってしまうということがある」

理研の松本理事長は、会見でいささかぼやき気味に語りました。また、研究センター長に就任した中村泰信さんは、なぜ外国に先に越されてしまったのか、次のように分析します。

「カルチャーというのが大きなところ。将来の未知なところに踏み込んで行くダイナミズム、そういう姿勢がアメリカの強みと思う」

中村センター長はかつてNECの基礎研究所で、量子コンピュータを形成する基盤の1つである超伝導量子ビットを、世界で初めて実現しました。「この分野はまだ一直線にロードマップが描けている状態ではない。多くのブレイクスルーを必要とする」と、将来性の高さを強調します。

量子コンピュータ分野にはベンチャー企業も参入している

量子コンピュータ分野にはベンチャー企業も参入している

一方で、超伝導量子ビットの実現から20年あまり。「予想もしなかったことが現在起きている」……中村センター長の言は、競争の激化による危機感の表れでもあります。ベンチャー企業の関係者も、特にハードウェアで日本勢は大きく遅れていると指摘します。有望と思えばポンと大枚をはたくところが日本にはない、目利きがいない……さまざまな声が聞かれます。

今回の取り組みは政府が掲げる「量子技術イノベーション戦略」という指針に沿ったもの。その指針は「国を挙げて量子技術イノベーションに関する総合的かつ戦略的取り組みを強力に推進して行くこと」とされていますが、日本という国にはたして“ダイナミズム”はあるのか……。お題目だけでない推進を期待したいものです。(了)

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