「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
水戸の「水」と郡山の「郡」から名付けられた「水郡線(すいぐんせん)」。茨城と福島の間約140kmを、各駅停車のディーゼルカーが3時間あまりかけて結んでいます。久慈川の流れやのどかな里山を眺めながら、約1日かけて水郡線を走破して郡山にたどり着くと、お米の美味しい新作駅弁にめぐり逢いました。
水郡線全線運転再開! 新緑まぶしい茨城・福島の駅弁旅(第3回/全3回)
西に傾いた太陽を浴びながら、下校の高校生をたくさん乗せて走る水郡線の普通列車。2年前の東日本台風で袋田~常陸大子間で運転を見合わせていた水郡線ですが、今年(2021年)3月27日から全線で運転再開しました。水郡線を走るキハE130系気動車の一部の編成には現在、「全線運転再開」を記念したヘッドマークが取り付けられています。災害で廃線されるローカル線も少なくないなか、線路が繋がるのは本当に嬉しいことです。
日本における鉄道の歴史は、明治初期にさかのぼります。同じころ、福島で明治政府の手で行われた一大事業が、猪苗代湖の水を郡山へ引いた「安積(あさか)疎水」の建設でした。これによって、郡山周辺の不毛の大地とされた土地は、穀倉地帯へと姿を変えていったわけです。水郡線を全線走破して郡山駅に下り立つと、西口の駅前で安積疎水を利用して作られた開成山公園「麓山の滝」のモニュメントが旅人を出迎えてくれます。
(参考)農林水産省・郡山市ホームページほか
そんな郡山生まれのブランド米「あさか舞」。その“究極の”最高級米と位置付け、独自に設けた7つの高い生産基準を全て満たす米が“ASAKAMAI 887”として栽培されています。このASAKAMAI 887を贅沢に使った駅弁「海苔のり弁887」(1200円)を、水戸をルーツとする郡山の駅弁屋さん「福豆屋」の売店で見つけました。郡山名物「海苔のりべん」のグレードアップ版で、今年(2021年)4月1日に発売されたばかりの新作駅弁なんです。
(参考)ASAKAMAI 887公式ホームページ
【おしながき】
・白飯(ASAKAMAI 887)
松川浦のあおさ入り海苔の天ぷら 手焼きあおさ入りだし巻き玉子
・焼き鮭
・玉子焼き
・牛肉煮
・含め里芋揚げ
・ごんぼいり(金平ごぼう、福島県産)
・赤かぶ漬け
磐梯山と猪苗代湖が描かれた高級感ある白い掛け紙を外すと、チョット新しい印象。もともと、郡山産「あさか舞」を使っていた「海苔のりべん」ですが、そのお米に最高級の「ASAKAMAI 887」を使用。ご飯の上のみちのく寒流のりはそのままに、浜通り・松川浦のあおさ海苔を入れた天ぷらとだし巻き玉子が載って、なかには食べやすく刻まれたばら海苔と、3つの海苔と海山の幸が一度に味わえる駅弁となっています。
ご飯の美味しさを引き出すため、おかかではなく塩昆布が混ぜ込まれ、スイスイ箸が進んで米の実力が感じられそう。福豆屋によると、「海苔のり弁887」は、郡山駅をはじめ福島・新白河・会津若松の各駅、また、東北デスティネーションキャンペーン期間中は、東京駅「駅弁屋 祭」でも販売があるということです。
猪苗代湖の水を安積疎水で引いたことで米どころとなった郡山。しかし、震災以降は風評被害のため安価で扱われることが多く、生産者たちは悔しい思いをしてきたと言います。郡山を開拓した先人たちの誇りを取り戻したいという思いが詰まった“ASAKAMAI 887”。そんなエピソードに触れて駅弁をいただいたら、水郡線で郡山に着いたばかりなのに、掛け紙のデザインに誘われて、磐越西線に乗り換えて会津へ足を運びたくなっていました。改めて思いました。線路が繋がっているって素晴らしい!
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連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/