「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
東北地方の緑もだんだんと色濃くなってきました。この時期、東北がなぜか恋しくなります。草木が目いっぱい葉を茂らせていくなか、連休がなく、静かな普段の風景を楽しめます。そして、江戸時代には、松尾芭蕉も五月雨の季節に東北地方を旅して「おくのほそ道」を記しました。今回は、一ノ関駅から緑いっぱいの平泉を訪ねました。
平泉・中尊寺の丘をあとにして、東北本線・盛岡行の普通列車が軽快に走ります。この区間の普通列車は、概ね2両編成のワンマン列車で、毎時1本の運行。概ね、一ノ関に到着する下り新幹線を受けて発車しますので、一ノ関~平泉間は、比較的、ストレスなく移動することができます。この区間はSuicaの仙台エリアですので、交通系ICカードが利用可能。なお、平泉以北へ乗り越す場合は紙のきっぷが必要です。
天候に恵まれた日は、平泉駅前でレンタサイクルを借りてサイクリングをしながら、古寺を巡るのが楽しいですね。松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅で平泉を訪れたのは、旧暦5月13日と言われ、新暦の6月29日ごろ。芭蕉が約500年前の出来事に思いを馳せて、「夏草や 兵どもが 夢の跡」と詠んだのも、いまごろの平泉の景色なのかも知れません。その意味でも、この時期に平泉を訪れると、“芭蕉気分”が楽しめるというわけです。
平泉と三陸の玄関口・一ノ関駅の名物駅弁といえば、三陸にちなんだ一面の蒸しうにを、中尊寺金色堂に見立てた斎藤松月堂の「平泉うにごはん」です。発売30年あまりを経たロングセラー駅弁でしたが、魚介類の価格高騰の影響により、きょう(6月30日)をもって暫しの間、休売となります。明日(7月1日)からは「平泉うにほたて重」(1680円)として新たなスタートを切ることとなりました。
【おしながき】
・茶飯(岩手県産米使用)
・蒸しうに
・ほたて醤油煮
・いくら醤油漬け
・錦糸玉子
・しその実とわかめの佃煮
・ガリ
特製の醤油ベース出汁で味を付けた蒸しうにに、大粒のほたて1個が食べやすいサイズにスライスされて入った「平泉うにほたて重」。プリプリのいくらに錦糸玉子、わかめの佃煮、ガリがしっかり脇を固めます。斎藤松月堂によると、東京駅でも人気を集める駅弁「平泉うにごはん」の休売は、断腸の思いだったとのこと。しかし、うにの価格高騰は、価格転嫁だけでは、もう吸収しきれないところまで来てしまったということです。
私も東北地方を旅したとき、うにの殻割り体験をしたことがありますが、食べられる部分を取り出すには、繊細な手作業が求められます。この作業に(比較的安価で)取り組んで下さっている方には、本当に頭が下がるもの。当分は一面のうにが載った駅弁にお目にかかれないのは残念ですが、駅弁には、公共の場で提供される食事という役割もあって、安定供給が基本です。いまできる、最大の努力をして生まれた新作「平泉うにほたて重」。重箱のなかに、美味しさと“時代の風”が詰まった、まさに“いま味わうべき駅弁”です。
この記事の画像(全7枚)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/