東北新幹線開業から40年あまり、新青森駅弁「津軽の弁当 お魚だらけ」がいま、評価される理由

By -  公開:  更新:

【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

津軽の弁当 お魚だらけ

画像を見る(全10枚) 津軽の弁当 お魚だらけ

誰にでも“やめたい”と思う瞬間があります。そんなとき、誰かの支えがあったり、他の人から認められていることに気付くことで、何とかもう少し頑張ってみようという気持ちになれます。新青森の駅弁を手掛ける青森・五所川原の駅弁屋さんも、なかなか伸びない売り上げに撤退を考え始めた矢先、周りから認められたことが、駅弁を続けるきっかけになりました。つがる惣菜・下川原伸彦代表のインタビュー、3回シリーズの完結編です。

E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・新青森~奥津軽いまべつ間

E5系新幹線電車「はやぶさ」、北海道新幹線・新青森~奥津軽いまべつ間

昭和57(1982)年6月23日、東北新幹線(大宮~盛岡間)が開業、東北地方もついに新幹線時代に突入しました。それから28年を経て、平成22(2010)年に、新青森までの全線が開業。さらに平成28(2016)年には、新青森から延伸される形で北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開業して、いまは、令和12(2030)年度末の開業を目指して、新函館北斗~札幌間の工事が急がれています。

つがる惣菜・下川原伸彦代表

つがる惣菜・下川原伸彦代表

東北新幹線と北海道新幹線の境界となる新青森駅向けに、平成22(2010)年から駅弁を製造している「つがる惣菜」。近年は、毎年秋に東日本エリアで開催されている駅弁の人気投票「駅弁味の陣」で4年連続入賞を果たし、五所川原市長さんへの表敬訪問も、毎年のように行っていると言います。駅弁のみならず、地元の仕出しなども手掛けている下川原伸彦代表に、「駅弁味の陣」のお話、弁当のこだわりについて伺いました。

「ひとくちだらけ」の製造風景

「ひとくちだらけ」の製造風景

●お客様の声が救った「つがる惣菜」の駅弁

―JR盛岡支社さんに「駅弁をやめたい」と相談した矢先、本社さんから1通のメールが届いたそうですが、どんな内容だったのですか?

下川原:「駅弁味の陣2019」で「ひとくちだらけ」が、「盛付賞」と日本語以外の言語からの投票が多かった「Ekiben Ichiban賞」のダブル受賞を果たしたというお知らせでした。直後は、私自身はあまりピンとこなかったのですが、各メディアさんから取材を受けることになって、受賞の重みを実感していくことになりました。JRさんからも「“W受賞で駅弁やめます”はないでしょう?」と説得されて、何とか踏みとどまってみようという気持ちになりました。

―折れそうだった駅弁への心が「お客様の声」に救われた格好ですが、「駅弁味の陣2022」では、「津軽の弁当 お魚だらけ」で、念願の「駅弁大将軍」に輝きましたね。

下川原:ビックリしました。「間違いじゃないの?」と正直思いました。ただ、手応えはあったんです。「お魚だらけ」をエゴサーチしてみると、SNSのバズり具合がいままでで最もいいと感じました。従来の「お魚だらけ」はほとんど“イカだらけ”の弁当でしたが、リニューアルによって、7種類の魚を“焼く・煮る・蒸す”の3つの調理法で食べられる、文字通り“お魚だらけ”の弁当にしたのがよかったのではないかと思っています。

「お魚だらけ」「ふつうの津軽の幕の内弁当」の製造風景

「お魚だらけ」「ふつうの津軽の幕の内弁当」の製造風景

●「つがる惣菜」のこだわりとは?

―ご飯や食材、調味料へのこだわりを教えて下さい。

下川原:米は青森県産の「つがるロマン」を使用しています。私も大好きな米です。白飯は丸いガス釜で炊いています。魚介類のほたてと鯖はできるだけ青森のものを使うようにしていますが、県産のものを仕入れられないときは、例えば、“三陸産(宮城県)を使っています”とお品書きに明記しています。醤油は弘前の「カネショウ」のものです。他に、スタミナ源たれや十和田のワダカンの調味料を使い、青森ならではの味にこだわっています。

―「駅弁作り」へのこだわりは?

下川原:1つの食材だけをドーンとご飯に載せた弁当は作らないと決めています。せっかく高いお金を出して「駅弁」を買って下さるのですから、心がこもった地域性のある、ご飯とおかずがしっかりある弁当をお届けしたいんです。あと、賞味期限は「18時間以内」です。以前、製造から30時間、保存が効く弁当を作りましたが、私が食べて美味しくなかったんです。朝、お作りして、その日のうちに召し上がっていただく弁当にこだわりたいです。

E5系新幹線電車「はやぶさ」、東北新幹線・新青森~七戸十和田間

E5系新幹線電車「はやぶさ」、東北新幹線・新青森~七戸十和田間

●青森からの新幹線で、酒と一緒に楽しめる駅弁を!

―駅弁参入から10年あまり、どんな感想をお持ちですか?

下川原:お客様に感謝の10年です。そして駅弁を作ることによって自身の「郷土愛」にも気付きました。地域性のある弁当を作っていくうちに、「自分って、こんなに青森のことを好きだったんだ」と気付かされたんです。ただ、コロナ禍はキツかった。3年の落ち込みを取り返すには、その2~3倍の時間がかかると覚悟しています。地域性の豊かなお弁当を作ることで、もっと多くの方に青森にお越しいただけるようにしたいです。

―下川原代表お薦め、つがる惣菜の駅弁を“美味しくいただくことができる”鉄道は?

下川原:新青森から東北新幹線で東京方面へ向かう列車でしょうか。(新幹線はトンネルばかりですが……)弊社の駅弁はお客様の声を活かして、“酒のつまみになる弁当“をイメージして作っています。新青森から仙台・東京までの2~3時間、缶ビールをプシュとしたり、ときには、青森の地酒でちびちび飲っていただきながら、駅弁を味わっていただくのが最高だと思います。

津軽の弁当 お魚だらけ

津軽の弁当 お魚だらけ

前回の駅弁味の陣で1位の駅弁大将軍に輝いた「津軽の弁当 お魚だらけ」(1250円)。掛け紙も、さまざまな魚の漢字を並べ、模様のようにデザインされていて“お魚だらけ”です。封入されている手作りのお品書きも充実しており、ヒラメは青森を代表する魚であること、イカメンチは青森の家庭料理であること、青森県民は鮭が大好きで消費量も多いことなど、旅行者には嬉しい解説もあり、エピソードを読みながらいただくと、より美味しいものです。

津軽の弁当 お魚だらけ

画像を見る(全10枚) 津軽の弁当 お魚だらけ

【おしながき】
・白飯(青森県産つがるロマン) ごま
・ヒラメの昆布蒸し阿房宮あんかけ
・サバのりんごジュース煮
・サーモンの塩焼き
・ホッケのしょうゆ漬け焼き
・ホタテのフライ
・ホタテの唐揚げ
・イカメンチ
・紅鮭の飯寿司
・自家製きゅうりのからし漬け

津軽の弁当 お魚だらけ

津軽の弁当 お魚だらけ

今回のリニューアルで、最もこだわったのが、「ヒラメの昆布蒸し阿房宮あんかけ」だそう。冷めても美味しい「蒸し」を実現するのに苦労があったと言います。でも、その甲斐あって、青森県産の食用菊・阿房宮を使ったあんかけに仕上げ、魚のうま味が活かされています。三方を海に囲まれている青森の魚種の豊富さに加え、さまざまな調理法も、魚の食文化が、この地に根付いていることを感じさせてくれるお弁当です。

HB-E300系気動車・快速「リゾートしらかみ」、五能線・広戸~深浦間

HB-E300系気動車・快速「リゾートしらかみ」、五能線・広戸~深浦間

駅弁への心が折れそうになったとき、「ひとくちだらけ」のヒットに恵まれ、駅弁を続けようと思い直した「つがる惣菜」。まさに“お客様の声“が救った駅弁屋さんです。いまではときどき、駅弁を召し上がった方から感謝の手紙が届くようになりました。新しい駅弁屋さんですが、どこか古きよき、昔ながらの駅弁屋さんのいいところもある店。この夏は東京から3時間、青森で美しい海や山を眺め、温泉に癒されながら、美味しいものをいただいてみませんか。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

Page top