ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月7日放送)に内閣官房参与で外交評論家の宮家邦彦が出演。国民投票法の改正案が衆議院憲法審査会で可決されたというニュースについて解説した。
国民投票法の改正案が衆議院憲法審査会で可決~今国会で成立へ
憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案は、衆議院憲法審査会で、立憲民主党が求めていた国民投票の広告規制などについて修正を行った上で、自民・公明両党や立憲民主党などの賛成多数で可決された。改正案は近く開かれる衆議院本会議で可決され、参議院に送られる運びで、平成30年に提出されて以来、約3年を経て成立する見込みとなっている。
飯田)ということで一応、衆院は通過します。
宮家)これは全然わからない。
どのように改正するかではなく手続きについての議論になっている現状
飯田)憲法そのものではない。
宮家)変えるわけではないのだから。憲法にはきちんと改正の手続きが書いてあるので、憲法改正というのは、国民の権利であり、同時に義務でもあるわけです。もし状況が変われば当然、憲法も変わって行く。だからこそ、改正手続きがあるのです。となると、いまの議論というのは、どのように改正するかではなく、手続きでしょう。
飯田)そうですよね。中身をどう変えるかという話ではない。
宮家)その手続きのプロセスがないということは、我々の義務にせよ権利にせよ、憲法改正をすることがそもそもできないわけですよ。
飯田)システム上それができない。
憲法が求めていることをやって来なかった~提出された3年前にやるべきであった
宮家)つまり国会が、憲法が求めていることをやっていないのですよ。憲法ができてから何十年もやらなかったわけです。誰もおかしいと思わない。ようやく3年かかって、野党が言って来たのを飲み込んだ。それは合意したいからやりますよね。であれば3年前にやればいいではないですか。なぜこんなことになるのか、私には理解できない。
手続きの合意ができただけ~中身の議論をするべき
飯田)国民投票法の中身は、投票するという意味では、他の国政選挙とも同じなのだけれど、これだけシステムがいままで通りで、いまの公職選挙法と違うからそれを元に戻すというか、並べるだけの話ですよね。
宮家)入り口論でグズグズしている時代はとっくに終わっていると思うのです。憲法改正をしても「何が悪いのですか」と言う人もいるだろうし、「絶対に変えたくない」と言う人もいるかも知れませんが、手続きくらいは合意しましょうよと。やっとそれができあがったということで、一歩前進ではありますけれど、もっと中身の議論をしなければいけないと思うわけですよ。
世論調査では「憲法改正をするべき」が多数~平場で議論を
飯田)憲法記念日に各社の世論調査が行われましたけれども、「憲法改正をするべきだ」という意見が「すべきでない」という意見を上回るという結果が出ています。
宮家)それは当然でしょうね。戦後、憲法ができてすぐのころや米ソ冷戦時代、いろいろな平和主義が盛んだった時代がありました。いまでも平和主義者はたくさんいるし、私もそのつもりですけれども、平和は軍事を否定することで保たれるものではないのです。場合によっては、軍事が必要である場合があると思うのです。警察官がなぜいるかと言えば、警察官は合法的に暴力を使っていいからです。変なことをする人は、場合によっては暴力を使うわけだから、それに対しては警察官が法に基づいて強制力を使う。それによって平和が保たれるのだけれど、国内でのそれには誰も文句を言いません。
飯田)そうですね。
宮家)しかし国外になると、突然そのロジックが消えるのです。「日本は戦力がない、軍隊を持ってはいけない、攻撃的な兵器を持ってはいけない」と。それは違うだろうと思います。問題は使い方です。我々がかつて使い方を失敗したのは事実かも知れないけれども、だからと言ってすべてを否定するのはおかしいと何十年も思って来ました。未だにこの議論が進まないというのは、どういうことなのかと思います。
飯田)議論はされ尽くしているところがあるとも思うし。
宮家)確信犯でやりたくない人たちがいるのです。もちろんその意見を尊重しますよ。だけど、そうでない人が増えているのであれば、きちんとした議論は平場でやりましょう、そして多数決で決めましょうとなるのではないかと思います。
21世紀になり、激変した東アジアの安全保障環境~いままでのままではやれない
飯田)どう国を守るのかという話で、具体的な中身を議論して欲しいと。
宮家)日本は本当に恵まれていたと思います。特に1945年から20世紀の間くらい、いい意味でも悪い意味でも冷戦体制があって、その残滓があり、自分は武装しない、対外的に最小限の強制力しか持たない。だけれども、実は我々はビニールハウスのなかにいたわけです。21世紀になり、いままで慣れ親しんで来た「何もしなくてもうまく行った」時代が終わり、東アジアの国際的な安全保障環境が激変してしまった。そしてビニールハウスのビニールが飛んでしまったわけです。そうすると、冷たい風が入って来るのです。冷たい風が入って来たらどうするのか。いまのままではやれないのです。
飯田)風邪をひいてしまう。
宮家)これを言い出してから10年以上経っているけれど、まったく議論が進まないのは悲しいことですね。
「空想的平和主義」の時代は終わった
飯田)歴史で見ると、米ソ冷戦の時代は、正面の部分はヨーロッパが最も大きかったと思えばいいのですか?
宮家)ただ我々にとっては、ロシアという巨大な存在と、中国というもっと巨大な存在があるのです。ヨーロッパ方面はロシアだけでいいのかも知れないけれど、当時の我々の安全保障環境は奇跡的に安定していたのです。
飯田)そこが湾岸戦争などで中東になり、いよいよ東アジアまで迫って来たのに、感覚がヨーロッパ正面の冷戦時代と変わらない。
宮家)私はそれを「空想的平和主義」と呼んでいるのですが、「もうその時代は終わったのではないですか」と言いたいですね。
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