あけの語りびと

全人類で行司はたった45人~現役の行司が語る「行司を目指したきっかけ」

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それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

交通新聞社新書『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』(著:木村銀治郎)

『大相撲と鉄道』という本があります。著者は、大相撲で行司をされている木村銀治郎さん・46歳。

大相撲ファンや鉄道ファンに限らず、両方に興味のない方でも、大相撲と鉄道の意外な関係を面白く読むことができる、おすすめの1冊です。

行司さんは相撲の取組に立ち会い、勝負の判定をする役ですが、その他にも星取表(=取組の勝敗記録)をつくったり、肉太な「相撲字」も行司さんが書いています。

また、「東方、上柳山、大阪府大東市出身、有楽町部屋」「この取り組みには、いつでも一緒、ニッポン放送から懸賞があります」といった場内アナウンスも行司さんが行っているそうです。

いまは新型コロナウイルスの影響で、地方場所や地方巡業は行われていませんが、あの移動を担う「輸送係」も行司さんの仕事です。切符の手配、運賃の計算、座席の割り当てなども担当するそうです。

例えば、新幹線にABCの3列シートがありますが、真ん中のB席にはどんな体型のお相撲さんを座らせたらいいか……そんな配慮も「輸送係」の行司さんがやっており、「まるでパズルなんですよ」と銀治郎さんは笑います。

『大相撲と鉄道』という本には、知られざる面白エピソードが満載です。鉄道好きの行司さんだからこそ、この本が書けたわけですが、行司になった理由を伺ったところ、意外なお話がありました。

昭和49年に生まれた木村銀治郎さんは、墨田区向島の出身です。中学校の同級生の影響で大相撲が大好きになり、朝8時に国技館で当日券(当時は子ども料金200円)を買ってから登校し、学校が終わると大相撲を見に行っていました。

最初は関取衆からサインをもらうのが目当てでしたが、だんだん大相撲そのものにのめり込んで行くようになり、中学1年生の3学期には、「中学を卒業したら行司になりたい」と人生の目標を設定します。

行司・木村銀治郎さん

「中学に入ってから、授業の雰囲気が嫌いだったんです。勉強も難しくなったし、中間・期末テストは点取り合戦のようで、勉強をして、テストをして、いい高校を目指して将来が決まってしまう……。そんなレールに乗りたくなかったんです。その点、行司は全人類のなかで、たった45人しかいません。それが子ども心に魅力的に思えました」

いつも相撲を見に行っていると、切符売り場の元・三杉磯である峰崎親方から、「お前、毎日来ているな。ちゃんと学校に行っているのか?」と声を掛けられ、それがきっかけで親方と顔馴染みになります。

そろそろ進路が気になる中学3年の1学期、ゴールデンウィークが明けた五月場所の中日でした。峰崎親方に「中学を卒業したら行司になりたいんです」と打ち明けたところ、「わかった、わかった。うちの部屋へ来ていいぞ。親には話をしたのか? まだだったら、この名刺を持って帰って、ご両親にちゃんと話をしなさい」と言われたそうです。

銀治郎さんの両親は、「自分の人生をそんなに早く決めていいの?」と驚きますが、反対することはなかったそうです。

「峰崎部屋に入門したのが平成2年でした。この1年で、全国47都道府県の県庁所在地をすべて回ったんです。行ったことのない街に行き、降りたことのない駅に降り、車窓から地方の景色を眺めつつ、その土地の駅弁を食べる……。鉄道好きだったので、地方巡業は楽しい思い出ばかりなんです」

行司の階級は、力士と同じように序ノ口から始まり、序二段、三段目、幕下、十両……銀治郎さんは現在、「幕内格行司」です。45人の行司のなかで、上から11番目。いつもは幕内の最初の取り組み、「二番」をさばきます。

「行司をされていて、つらいことは?」と伺うと、「“差し違え”がいちばん嫌ですね。行司はミスをしないのが当たり前。“差し違え”をすると罰になります。賞はなく、罰がある仕事なんです」と言っていました。

また、「行司になってよかったことは?」とも聞いてみました。

「入門して30年が経ちましたが、いまはまだ旅の途中です。65歳の前日が定年なので、行司という列車を降りたときに、初めていろいろ感じるのではないかな、と思っています」

交通新聞社新書『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』(著:木村銀治郎)

■『大相撲と鉄道 きっぷも座席も行司が仕切る!?』
著者:木村銀治郎
出版社:交通新聞社新書

■木村銀治郎
1974年生まれ。幕内格行司。1990年三月場所初土俵。2014年十一月場所幕内格昇進を機に、三代・木村銀治郎を襲名。土俵上のさばきの他、大相撲の魅力を伝えるべくテレビやラジオ、雑誌などで活躍、講演活動なども行う。監修に『大相撲語辞典』(誠文堂新光社)。

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