新型コロナの影響だけではない、自動車業界の苦悩(その2)レアメタルの調達

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「報道部畑中デスクの独り言」(第251回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自動車業界におけるレアメタルの調達について---

新型コロナの影響だけではない、自動車業界の苦悩(その2)レアメタルの調達

画像を見る(全6枚) ホンダ・三部敏宏社長就任会見(4月23日 オンライン画面から)

100年に一度の変革期にあると言われる自動車業界。もう1つの悩みの種は原材料価格の高騰、特に注目されているのはレアメタルの調達です(レアアースはレアメタルの一種)。

「先進国全体でEV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)の販売比率を、2040年にはグローバルで100%を目指す」

4月23日、ホンダの三部敏宏社長が就任会見でぶち上げました。F1や二輪を含め、高性能エンジンのイメージが強いホンダの“宣言”。かつての幹部が「ウチは安全と環境なのだ」と話していたことを考えると、決して想定外というわけではないものの、それにしても思い切った方針です。

一方、5月12日に行われたトヨタ自動車の会見では、今後のバッテリーの調達についての見通しが示されました。トヨタは1997年に「プリウス」を発売して以来、24年間にハイブリッド車を約1700万台生産して来ましたが、今後10年で、その1700万台分の電池容量の30倍のバッテリーを製造して行くということです。

生産ラインとしては新たに60ラインを設置する予定で、岡田政道執行役員は「供給網を万全なものにして行く、設備についても必要なものを自分たちでつくって行く」と話しています。

新型コロナの影響だけではない、自動車業界の苦悩(その2)レアメタルの調達

トヨタ自動車・岡田政道執行役員(5月12日の会見 オンライン画面から)

これまで製造して来た電池容量の30倍……これまた衝撃を受けました。

ちなみに、トヨタはこれまでのHV=ハイブリッド車を「HEV」に、EVを「BEV」に、PHV=プラグイン・ハイブリッド車を「PHEV」に、そして、FCVを「FCEV」にと、電動化の「E」を強調する表記に変えて来ました。電動化に対する“本気度”を強めて来たことがうかがえます。

一方で、電気自動車をEVではなくBEV(Bはバッテリー)としています。EVはあくまで電動車の“一部”であり、EVに傾きつつある電動化の流れをけん制しているようにも見えます。

バッテリーに必要なレアメタルとは、主にニッケル、コバルト、マンガン、リチウムです。このうち、電気自動車はもちろん、パソコンやスマホのバッテリーなどにも欠かせないリチウム、これは海に多量に溶け込んでいます。となると無尽蔵のようにみえますが、採掘や濃縮、精錬については高度な作業が必要で、相当なコストがかかるそうです。

採掘量に対して、使用できる材料に至る割合はごくわずか……「レア」メタルと呼ばれる所以です。大量に採掘すれば、生態系に影響を及ぼす可能性もあります。低炭素社会実現のために生態系を破壊してしまってはシャレになりません。

新型コロナの影響だけではない、自動車業界の苦悩(その2)レアメタルの調達

日産リーフのEVシステム

現在、リチウムの主な生産地はチリを筆頭にオーストラリア、アルゼンチン、中国などです。南米には「リチウム・トライアングル」と呼ばれる地域があります。

前述のチリ、アルゼンチンにボリビアを加えた3国を指しますが、この辺りはもともと海面だったところが隆起して湖になっています。こうした場所は海水が濃縮されているため、リチウムを採取しやすいのです。ボリビアのウユニ塩湖が有名で、世界一の埋蔵量と指摘する声もあります。

こうした地域が今後、OPEC=石油輸出国機構を設立したアラブ諸国のようになる可能性も否定できません(リチウムですからOLEC?)。そうなると、リチウムの権益をめぐってさまざまな政治的駆け引きが勃発する可能性が出て来ます。すでにドイツや中国が権益をめぐって争奪戦を繰り広げているという報道もあります。

ずらりと並んだ電動化車両(4月21日 環境省で撮影)

ずらりと並んだ電動化車両(4月21日 環境省で撮影)

バッテリーとともに電動車には欠かせないモーターでも、磁石に使われるネオジム、添加剤のジスプロシウムがレアメタルにあたります。

電池開発の関係者によりますと、これは世界中で産出できますが、中国が長年にわたって安価に掘り出していたため、日本はそれに頼りきりになっていました。ところが、尖閣諸島の問題で中国が禁輸措置に踏み切り、日本はいわば“アキレス腱”を握られる状況になってしまったということです。

スズキの鈴木俊宏社長は5月13日の決算会見で、「レアメタルの問題も、いろいろ電池の問題を含めて行くと、なかなか確保するのは難しい。戦略的に考えなくてはいけない部分。一企業だけでできるものではないのではないか」と述べました。

2040年に電動車100%を目指すホンダの三部社長も、「中長期における電動化戦略のピースはすべて埋まっているわけではない」と、今後については不透明な見通しを示しています。

また、電動化車両だけではありません。エンジン車に関しても、排出ガス対策として使用される触媒の材料にレアメタルが使われます。このうちの1つ、ロジウムについては5月14日のマツダの決算会見で、価格が1年間で約3倍に値上がりしていることが明らかにされました。クルマにはとにかくさまざまな素材が使われているのです。

ずらりと並んだ電動化車両(4月21日 環境省で撮影)

ずらりと並んだ電動化車両(4月21日 環境省で撮影)

私たちが当たり前のように享受しているクルマの恩恵は、こうした不安定な市場の基にあるということを認識する必要があります。

レアメタルの使用削減、あるいはそれに代わる材料の研究も進められていますが、こうした研究も含め、今後の低炭素社会、車両の電動化、自動運転社会、デジタル社会を実現するには重層的な「戦略」が必要です。

先の政府の成長戦略会議では、先端半導体技術の開発・製造立地推進の他、レアアースなどについても「開発や生産拠点の多元化を進める」と明記されました。

半導体供給不足と原材料価格の高騰……主に自動車業界の問題としてお伝えしましたが、こうしてみますと、1つの業界だけでなく、国を挙げた「経済安全保障」とも言うべき広がりを見せていると言えます。(了)

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