文化庁長官・都倉俊一氏の示唆に富む発言
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「報道部畑中デスクの独り言」(第245回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、新しく文化庁長官に就任した都倉俊一氏について---
今年度(2021年)から文化庁の新しい長官に就任した都倉俊一氏が先日、報道各社の取材に応じました。
都倉氏には日本音楽著作権協会会長、文化審議会委員などさまざまな経歴がありますが、私からみた都倉氏はやはり歌謡曲全盛時代、「ピンク・レディー旋風」を例に挙げるまでもなく、ヒットメーカーの1人として名をはせた人物です。
いまでは考えられないことですが、テレビではほぼ毎日のように生放送、生演奏の音楽番組があり、ラジオでもヒットチャートの番組があふれていました。そんな熱い時代を駆け抜けて来た1人が都倉氏です。当時は若者にも人気があり、「ヤングのカリスマ(やや古い表現ですが)」とも言われていました。
そんな都倉氏、文化庁長官としての最初の仕事は、やはりコロナ禍の対応です。
「本当に困窮のど真ん中にいる文化・芸術関係の人たちに、お金が行きわたるようにしなくてはいけない。これが仕事始めのようなもので、日夜がんばっている」
都倉長官はまず、文化・芸術関係者への支援が急務という考えを示しました。なかでもライブハウスについては「大切に育てるべき」と話し、コロナ禍を機に「幅広い日本の芸術活動に対する補助がこれから絶対に出て来る」と期待感を表明。一方で、文化・芸術関係者への補償をめぐり、一部で不満の声が出ていることについては、「アーティストは実力の世界、平等に補償することはなかなかなじまない」と述べました。
一方、昨今のデジタル技術についても言及しました。
「デジタル技術はパンドラの箱を開けてしまったようなもの」
都倉長官はこのように表現しました。いいクオリティで音源が世界中に行きわたるようになるなど、利便性については絶賛する一方で、人間の持っている芸術の感覚は「いまの科学技術ではどうしようもないと信じている」と語ります。その例として、アメリカでクラシックの音源をコンピュータに覚え込ませ、オリジナル曲をつくったものの、1曲もヒットしなかったことを挙げていました。
取材が行われた長官室の棚には、朱色の盾がありました。都倉長官が1978年(昭和53年)に受賞した日本レコード大賞の盾です。受賞曲はピンク・レディーの『UFO』。
ちなみにレコード大賞は歌手だけではなく、作詞・作曲・編曲・レコード会社・プロダクションすべてに贈られます。都倉長官は「飾るものがないので、ああいうものを持って来てとりあえず置いてある」と、はにかむような笑顔を見せました。
「いつの時代も流行歌は時代を反映していると思う」
都倉長官は昨今の音楽の生まれる構造について、熱っぽく語りました。
「デジタルエイジになって、子どもたちは“ナマの刺身”を食べたことがない。みんな冷凍だ」
音楽をナマの刺身に喩える都倉長官……いまの音楽はアリーナのあるホールコンサートの場合でも、コンピュータに入って自動的に音がつくり替えられ、大きなスピーカーでバーンと響き渡る……これはナマではないそうです。
「ナマの刺身を食べさせたときに、いかに冷凍と比べておいしいか、子どもたちが味わったらこれはもう忘れられない。これがいわゆるライブエンターテインメントだ。ミュージカルから演劇、ライブハウス……ライブハウスがなくならないのは、そういう1つのナマ感が欲しいのだ。人間はぬくもりが欲しいのだ。そういうものをやることによって音楽の底辺、芸術の底辺が広がって行く」
ライブ活動の重要さを説く都倉長官、昨今の音楽についても率直な感想を述べました。
「誰とは言わないが、へたくそな歌を歌って、コンピュータで全部音程も合わせてしまうわけだから……われわれの時代より音をつくる技術は数段進歩している。でも中身の歌はどうか、そこに血が通っているかどうかは甚だ疑問だ」
「いまなぜ歌が残って行かないのか? 作品づくりもあると思うが、言葉が大きな要素を占めていると思う。言葉を伝えられるということが、その歌が残るということだ。コンピュータを通してでは絶対に心は伝わらない」
新型コロナウイルスにより、東京を含む4都府県には3度目の緊急事態宣言が出されました。文化・芸術関係者の環境はいまだ厳しい状況で、そんななか、稀代のヒットメーカーが文化庁長官としてどのような手腕を発揮するかが気になるところですが、この日の都倉長官の発言は、私ども言葉を業とするメディアにとっても、示唆に富むものであったと思います。(了)
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