ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月18日放送)に安倍晋三前総理大臣が出演。総理大臣在任時に悩み、実行したさまざまな事柄について語った。
日本を守るためには強いメッセージが必要
安倍前総理が特別インタビューとして6月14日(月)~18日(金)のニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に毎日出演。ここでは日本を守るための抑止力について訊いた。
飯田)ここへ来て「台湾海峡」という名前がG7サミットや米EU首脳会談後の共同声明に載り、逆の見方をすると、それだけ緊張感が高まって来ているとも読めます。そのなかで、この国を守るとなると、憲法の話にもなりますが。
安倍)こちらが緊張を高めているということではなく、むしろ紛争、戦争にならないように、しっかりとメッセージを出して行くことが大切です。
どのようにして地域の平和と安定とバランスを保つか
飯田)アメリカ議会の軍事委員会などで問題になっている中距離核戦力についてです。アメリカは旧ソ連との間の1980年代のユーロミサイルのあと、INF全廃条約を結んだため、基本的に配備ができない、持っていないという状態です。一方で中国側はというと、日本やグアム辺りまで射程に入るものを何千発も持っているのではないかと言われています。この不均衡は、かつて旧ソ連が中距離弾道ミサイルSS-20を配備し、アメリカ側がパーシング2を持って来るぞと。そこに当時のドイツのシュミット首相が動いたという状況と、非常に酷似しているように思います。その上、あのときはまだソ連は配備していませんでしたが、中国の場合はそうではないということも考えると、核のシェアリングなども含めて、「日本はどうするのか」ということを、実は突き付けられているのではないかと思うのですが、安倍さんはどうご覧になりますか?
安倍)あのときドイツはいろいろな判断を迫られていました。ソビエトが中距離核弾道ミサイルを配備するというなかにおいて、米国もパーシング2を配備するという対応を取って行きます。同時にそのなかで飯田さんがおっしゃったように「デュアルキーシステム」、両方とも発射するような鍵を持ちますよという……。
飯田)西ドイツもアメリカもという。
安倍)そういうことですね。日本ではあまり報道されないのですが、ドイツだけではなく、他のNATOの国もそういう仕組みを取っているところが実はあります。そのデュアルキーという形で国民的な合意が成り立っています。
飯田)デュアルキーシステムによって。
安倍)ただ、日本は広島、長崎の経験があるなかにおいて、非核三原則を堅持して来ました。それはこれからも変わらないのだろうと思います。しかし、核ミサイルということではなくて、「通常の弾道ミサイルを配備してもらいたい」という要望は起こり得ると思います。「どのように地域の平和と安定とバランスを保って行くか」ということを真剣に考えなければいけないと思います。
日本も「打撃力」を持つことで、より「抑止力」を高めることができるのでは
飯田)国民的な議論やイデオロギーの右左ではなく、リアリズムでやれるように変わって来ていますか?
安倍)私が総理のときに、「打撃力」ということを申し上げました。ミサイルを撃たれたときには、ミサイル防衛システムによって迎撃することになっている。そして、その報復については米国が担っている。この基本的な役割はもちろん変わらないのですが、ミサイル防衛というのは、ピストルの弾を撃たれて、その弾を撃ち落としているわけです。
飯田)とても高度な技術ですよね。
安倍)曲芸のようなものですね。日本は専らそれをやっている。例えば、私が飯田さんにピストルの弾を何発も撃たれたとすると、私は一生懸命その弾を撃ち落としている。私は弾を撃ち落としただけだから、飯田さんは別に私に対する脅威を感じずに、安心して何発も撃つかも知れない。普通はどうなのかと言えば、飯田さんが私に向かって弾を撃ったら、私はそれを避けながら飯田さんを撃つのです。
飯田)そういうことですよね、普通は。
安倍)飯田さんは撃たれるかも知れないから私を撃たない。これが本当の抑止力なのです。日本の場合、こちらは弾を撃ち落としつつ、隣のアメリカに向かって「撃ってくれよ、頼むよ」と。しかし、「もしかしたらアメリカは撃たないのではないか」と思ったら、相手の国が撃って来るかも知れない。ですから日本も撃つ能力を持つことによって、より抑止力を高めることができるのではないかという議論もすべきではないかと思います。
日本も「抑止的打撃力」は持つべき
飯田)これまでは「アメリカが必ず撃ってくれる」ということのために、何度も安保5条の適用などを確認し、平和安全法制等々の法律も整備することをやって来たけれど、「普通であれば、それだけがオプションではないよね」ということですか?
安倍)もちろん、アメリカは必ず報復をすると私は確信しています。しかし、「相手がそう思うかどうか」という危険性です。危険性がありますから、日本も「抑止的打撃力」は持つべきだと私は思います。
飯田)憲法9条を何としても守りたい人にとっては、「それは憲法9条の専守防衛から外れるではないか」ということになりますが。
安倍)憲法上、いわゆる「策源地攻撃はできる」ということは、昔の船田中さんの答弁以来、確定していると言ってもいいと思います。
敵基地攻撃能力の議論は1956年から
飯田)ミサイル防衛や抑止力の話、安倍さんはリアリズムに徹してお考えになっています。
外交評論家・宮家邦彦)正論中の正論ですよ。政権におられたときには、その正論を全部はできないけれども、そのときの政治状況に応じて、部分的に実現して行かれたわけです。敵基地攻撃能力という議論がありましたが、あれがいつ出たか知っていますか? あの議論が国会で最初に始まったのは1956年ですよ。
飯田)鳩山一郎政権のときですよね。
宮家)つまり65年前です。65年前の議論にまだ答えが出ていない。敵基地攻撃能力の議論はできなくなって、結局「スタンド・オフ防衛能力」などという議論になってしまった。しかし、いまは本当にあるべき姿を国民の皆さん1人1人に考えてもらわなくてはいけないときです。
抑止力の本質は防御力ではなくて攻撃力
宮家)「飯田さんがピストルを撃って来たらどうするか」という話がありました。安倍さんはうまく答えられたのだけれど、私であれば、飯田さんが鉄砲を撃って来たら、「バズーカ砲で撃ち返すぞ、それでもいいのか、やってみろよ」と言って、「それではやりません」となるのが抑止なのです。これが野蛮だと言われたら、抑止論どころか安全保障論の基本が成り立たなくなってしまうのです。この部分は平和国家、平和を求める国民とまったく矛盾しません。
飯田)結果として弾が1発も発射されない環境をつくる、それが平和ではないかと。
宮家)抑止とはそういうものであって、実際に武力を使ってしまったら、やらざるを得なくなるかも知れないけれども、それは抑止の失敗なのです。そのためには抑止力をある程度充実させる。抑止力の本質は防御力ではなくて攻撃力なのです。当たり前なのですけれど、その議論がどうしてできないのかということを、多くの人間が悩んでいたと思います。なかなか難しい問題です。
飯田)本当の空想的な理想を言えば、全員が武装解除したら、それは平和になるけれども、そういう世の中ではないでしょう、という話ですよね。
宮家)日本はつい最近までは、抑止力が効いていて幸せだった。平和だった。そのことを考える必要がなかったのです。しかし、状況が変わってしまったのだから、昔のままというわけにはいかないでしょう。
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