ロウハニ大統領在任中に核合意は復活されるか~中東の今後を読み解く
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月2日放送)に外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が出演。今後の中東情勢について解説した。
中東の今後
イスラエルでは6月13日、ベネット新政権が発足。さらにイランでは6月18日に大統領選が行われ、ライシ司法長官が初当選し、8月にも新政権が発足する見込みである。
飯田)前回ご出演のときが、ちょうどイランの大統領選の日でした。
在任中に核合意を復活させたいロウハニ大統領
宮家)保守派が大統領になって、8月のいつかはわかりませんが、大統領に就任します。そうなると、穏健派と言われるロウハニさんにはあと1ヵ月くらい時間があるということです。この1ヵ月間にアメリカと話をつけて、核合意を復活させたいと思っているのだろうと思います。
飯田)在任中に。
宮家)イランに配慮して言うと、ロウハニさんが合意をすれば、次の大統領ライシさんも、「前の政権の大統領がやったのだから仕方ない」と責任を負わずに済むわけですから、それはそれでやりやすいという側面もあるかも知れません。
さらに追加的な交渉をしたいアメリカ~受け入れることはできないイラン
宮家)しかし、どうやって合意に達するのですかね? この2015年のイラン核合意にとにかくまず戻る、戻った上で、アメリカ側はすぐにも追加的な交渉をしたいのです。簡単に言うと、合意の期間をもっと長くする。つまりイランに対して、核関連の活動を規制する時間をもっと長くする。もしくは内容をもっと厳しくする。また、核だけではありません。「あなたたちは中東のいろいろなところで軍事的な介入をしているでしょう」、「ミサイル開発もしているではないですか」。「それを全部やめなさい、そういう交渉をしましょう」ということになるのです。
飯田)さらに。
宮家)そんなことを言われたら、イラン側がOKするわけがないですよね。それが合意できるまで、実際には経済制裁が解除されないとなったら、イランには受け入れられないですよ。だからといって、もちろんイランにそれ以外の出口があるとは思わないけれども、いまの状況を見ていると、核合意復帰への最終的な合意に至るには、まだ厳しい状況にあって、うまく行っていないということです。最近アメリカはイラクとシリアの国境近くにある、親イラン勢力に対する攻撃をしました。やられたからやり返しているのだろうと思いますけれども、ああいう状況を見ても、決して交渉はうまく行っていないという気がします。
飯田)うまく行っていないからこそ、あのような攻撃をして。
宮家)圧力をかけているのだと思います。
飯田)でもそうなると、当然ながらイラン側も報復しようとしますよね。
宮家)ですからその意味では、「最接近点」までは来たけれども、遂に合意はできなかったのではないか、ということが懸念されているということです。そうならないことを祈っていますが。
「強硬3派の共生」が起き、強硬な悪循環に入って行く可能性も
宮家)先週の英語のコラムの方に書いたのですが、世の中には、イラン核問題に関して、3つの強硬派がいるわけです。1つはイラン国内の宗教的な、または保守的な強硬派。昔だったらアフマディネジャドさんという大統領がいましたが、これも強硬派の人です。それからイスラエルにも強硬派がいます。ようやくネタニヤフさんはいなくなったけれども、いまのベネットさんも相当な強硬派です。それからもう1つが、亡くなられたラムズフェルドさんたちと一緒に仕事をした、アメリカのネオコンです。これもイランに対しては強硬です。
飯田)なるほど。
宮家)強硬同士3派、これがお互いを利用し合っていたわけです。「アフマディネジャドのような変な輩がいるから、米国はもっと強力な措置を取らないといけないのだ」ということ。強硬論を正当化するためは、相手の強硬派が必要なのです。そうして、お互いに利用し合う。つまり、強硬3派間の美しき共生が起きないとも限らないという意味では、現状を非常に心配しています。
飯田)強硬3派の共生。
宮家)もう既に強硬派ライシさんが権力を握るのは時間の問題でしょう。それからベネットさんも強硬派ですよね。バイデンさんはかろうじて、今のところまともに現実的な交渉をやっているわけです。しかし、「イランをやってしまえ」と言う連中は、ワシントンにもいるわけなので、下手をするとこの交渉はうまくいかなくなる。そして結局、物別れになる。そうすると合意がない状態になる。合意がない状態でイランが次々と強硬措置を取るようになれば、アメリカとしても経済制裁を解除することはできない。となると、「相手が強硬であることが、自国の強硬策を正当化する」という悪循環に入って行くのです。とても嫌な予感がします。
核合意がされなければ、イランは核開発を進め、再び「ホルムズ海峡を封鎖」という事態に戻ることも
飯田)その強硬な悪循環になって行くと、「軍事的なプレゼンスも保たなければならないぞ」ということにもなる。
宮家)さらにはイランが当然のことながら、核開発を進める可能性があります。場合によってはウランの濃縮度を高めて、原爆ができるレベルに達する。そうなると、一昔前に大騒ぎになったことけれども、「イスラエルがイランを攻撃して、ホルムズ海峡が封鎖されるのではないか、いや、攻撃はアメリカがやるのではないか」といった、昔の話がまた繰り返されることになる。そんな攻撃が簡単にできるとは思わないし、ホルムズ海峡もすぐに封鎖されるとは思いませんけれども、あのときの嫌な雰囲気がまた戻って来ることを心配しているわけです。
中東が安定しなければ東アジアへ軍事力を割くことが難しくなるアメリカ
飯田)そうすると、本来は軍事力を東アジアに割こうとしていたアメリカも。
宮家)関心がまた中東に戻って来る。
飯田)オバマ政権の2期目に、アジアへのピボットだと言って……。
宮家)そうすると、イランは喜ぶかどうか知らないけれども、いちばん喜ぶのは中国であり、ロシアです。日本にとってはあまりいい状況にならないので、本当はアメリカがイランの問題にある程度けりを付けて、核合意に戻ってくれたらいちばんいいのですが。あの核合意は内容がよかったとは思いませんけれど、いま必要なのは中東での安定です。結局、それが日本の国益だろうと思います。
日本も他人事ではない中東情勢
飯田)また、イランと中国とロシアは仲がいいですよね。
宮家)仲がいいというより、お互いに利用し合えるわけですよね。みんなアメリカが嫌いだから。
飯田)互恵関係がある。
宮家)決して同盟関係ではないけれども、お友達ではあり得るでしょうね。お互いを利用するという意味で。
飯田)そこを見ておかないと、中東情勢は他人事のような報じられ方もしますが、直接関わって来る可能性がありますよね。
宮家)直接関わって来ます。特に中国がこれだけ大きくなると、中東でのアメリカの動きが大きな意味を持つようになると思います。
中東に太い道などない~悲観していれば当たる。楽観論は裏切られる
飯田)他方、イスラエルは8党連立政権ですよね。この連立の鍵を握ったのが、強硬ではない穏健右派のラピドさんだと言われています。いまは外相をやっていますけれども。
宮家)ベネットさんとラピドさんの2人の間では合意ができていて、2年後に首相を交代するのでしょう。一方は強硬派で片方は中道派ですから、この内閣では重要な外交はやらないということです。ややこしい外交をやった途端に、ラピドさんが外務大臣であれば、両者間に意見の相違ができてしまう。だから、もう外交には触れないということです。新しい外交はやらないで、国内の経済、コロナ等の問題に集中する。彼らがやりたいのは、ネタニヤフさんを干すことです。どうやって政治的に息の根を止めるか。この2年間はそこがポイントなのだろうと思います。
飯田)そこに集中しているうちは、もしかすると中東は落ち着くのかも知れない。
宮家)それはその通りかも知れません。
飯田)ただ、やはり道としては細いですか?
宮家)細いですよ。中東に太い道などありません。大体悲観していれば、予測は当たる。楽観論は絶対に裏切られる。期待は失望の始まり、これが私の教訓です。
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