ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月21日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。7月20日、19人の障害者が殺害された「津久井やまゆり園」で追悼式が行われたというニュースについて解説した。
障害者殺害事件から5年~「津久井やまゆり園」で追悼式
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が殺害された事件から5年となるのを前に7月20日、追悼式が行われた。施設は事件後に建て替えられ、園内での追悼式の実施は初めて。広場に設置された慰霊碑には犠牲者7人の名前が刻まれ、県は今後、遺族から希望があれば新たに名前を加えることにしている。
慰霊碑に刻まれた犠牲者の名前は19人のうちの7人
飯田)19人が亡くなった痛ましい事件ですが、ご遺族のご意向として、警察は犠牲者を匿名のままで発表しておりました。そういう経緯もあるということで、お名前が刻まれたのは7人ということです。
かつては災害などを記録することは大事なことだった~各地に残る石碑
佐々木)モニュメントをどうするかという問題は、最近いろいろなところで出て来ています。東日本大震災で多くの犠牲者を出した石巻の大川小学校でも、結果的には残すことになりましたが、校舎を残すかどうかで揉めました。かつては「東日本大震災で津波がここまで来ました」というように、災害などを記録することは、後世に伝える大事なことでした。「これがあったから助かることができた」というケースもあったので、記録することは必要だった。
インターネットの時代になり、記録を残す必要がなくなった~逆に消したい過去の記録も残ってしまう
佐々木)石碑以外にも、ネットがなかったころは、記録することが難しかったので、新聞や本に記録を残したのです。「後世に伝えることが難しいから記録することは大事だ」という共有認識があったのだけれども、インターネットの時代になって、もはや記録を残す必要はほとんどゼロではないですか。いつまでも名前は残り続けるし、検索すれば新聞記事も出て来ます。あらゆるものがSNSにも出て来るという時代になると、記録の貴重さが薄れて、逆に、「記録されることによって、見たくない名前が残り続ける」ということもあるわけです。今回のケースは違いますけれども、何か犯罪を起こして服役し、出所して更生した。でも名前だけが検索するといまでも出て来る。そうすると、更生しているにも関わらず、就職できないというようなケースもあるわけです。
慰霊碑に名前を残したくないという遺族の気持ち~マスコミもその気持ちを理解するべき
佐々木)遺族の人たちが名前を残して欲しくないと、「名前を刻むとSNSで拡散されてしまって、あらぬ被害を受けるかも知れない」という心配はよくわかります。昔の常識であれば、「名前を残してあげて」と思う人もいると思いますが、そうではない時代になって来ているということも理解した方がいいと思います。
飯田)SNSで何かが拡散される可能性も。
佐々木)京都アニメーション事件もそうですが、事件があったときに、被害者の名前を警察が発表しないケースが多いではないですか。それに対して新聞・テレビは「名前を発表しろ」と抗議するわけです。しかし、遺族は発表して欲しくないのです。警察が隠しているというよりも、警察が遺族の味方をして発表しないようにするという、どちらが世論に沿っているのかわからないような逆転現象も起きています。それは新聞・テレビの人が「名前が残り続けることに対する不安感」を理解できていない部分があると思います。いまの時代、我々は名前やその人の属性がいつまでも残り続けることに対する不安感を、きちんと引き受ける必要があるのではないでしょうか。
「被害者のプライバシーを覗きたい」という暗い欲望から守る配慮が必要
飯田)ご遺族がそういう心配をする側面のなかに、名前が出る、それによってこの人の人となりはどうだったのかということを報道する。それは事件の凄惨さをより際立たせるという意味では、いいのかも知れないけれど、結果的にプライバシーが暴かれてしまって、そちらの方を恐れるという。
佐々木)あらぬ反応をする人も出て来るわけですしね。許されないのはもちろん加害者の方ですが、「被害者のプライバシーを覗きたい」というような暗い欲望もあるので、そこに対する配慮は重要だと思います。
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