自民党総裁選 その重層的な視点

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「報道部畑中デスクの独り言」(第265回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自民党総裁選について---

自民党玄関に掲げられた候補者の写真 勝敗は29日に決まる

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自民党総裁選は9月29日の投開票日に向けて、4人の候補による論戦が繰り広げられています。告示当日の所見発表演説会、記者会見を皮切りに、日本記者クラブや党女性局、青年局主催による討論会、自民党としては初となる党員以外を対象にしたオープンタウンミーティングと称する議論、各メディアでの討論なども行われました。

河野太郎行政改革担当大臣、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務大臣、野田聖子幹事長代行の候補者4人。告示日の演説会終了後、ある党関係者は「個性があってよかったよ。自民党の底力を見せつけられたかな」とポツリ。少なくとも党内では、4人の出馬の盛り上がりという面では「吉」と出たようです。

河野氏のキャッチフレーズは「人と人とが寄り添う、ぬくもりのある社会をつくりたい」。新型コロナウイルス対応で大臣としての実績をアピールした他、年金改革に力を注いだ演説となりました。演説で手元の原稿にはほとんど目を落とさず、身振り手振りで話すその姿は、見た目として非常にわかりやすく、世論調査でトップであるゆえんでしょうか。

一方、年金改革については、最低保障年金を税方式で実施することを主張しているものの、その財源、すなわち消費税の増税については明快な回答をしていません。かつて主張していた「脱原発」も、「再生可能エネルギーを増やして行く間は原発で補うしかない」と強気の主張はトーンダウン。「ぬくもりのある社会」も、ふわっとした印象が否めません。

岸田氏は総裁選再度の挑戦。「今回は違う!」と、こぶしを握り、ぐっと力が入った演説。出馬会見のときにみせた小さなノートを掲げ、国民の声に耳を傾けて来たことを強くアピールしました。新自由主義からの決別を掲げ、「成長と分配の好循環」による新しい日本型の資本主義を強調します。

外交・防衛・経済……政策的にはバランスがとれているものの、他候補に比べるとやや総花的な印象。語り口は以前と比べて流れるようになったものの、冗長さが目立ち、演説会では途中疲れて来たのか、手元の原稿に目を近づける1コマもありました。しかし、総裁を除く党役員の任期を「1期1年、連続3期」とする主張は、「菅総裁不出馬」につながる強いインパクトを与えました。

自民党本部

自民党本部

一方で、女性候補はあるキーワードから国の姿や政策を紡ぎ出すスタイルが目立ちます。

高市氏のキーワードはズバリ「安全保障」。「国民の命を守る」「日本経済強靭化計画」「危機管理投資」という言葉も、安全保障を軸にしたフレーズであることが読み取れます。エネルギー政策もSMR=小型モジュール炉、核融合炉の開発などに言及。量子コンピュータ、半導体、サイバー攻撃という言葉も飛び出し、科学技術にも精通していることがうかがえます。

「美しく、強く、成長する国」というフレーズにはやや既視感があるものの、国家観という意味では他候補に比べて最も明確であると言えます。演説会などでは笑顔を絶やさず、肝が据わった印象。ただ、それだけにハレーションもあります。中国や韓国との衝突も予想され、党内でも警戒感を持つ人は少なくないようです。

野田氏のキーワードは「人口減少対策」、「こども庁」の創設はそのキーワードを実現する象徴と位置付けています。障害者やLGBTといった方々にも最も理解を示します。今回、告示日直前に「滑り込みセーフ」で出馬にこぎつけ、他候補に比べて支持はいまひとつですが、それだけに最も自然体で臨んでいるようにも見えます。他の3人にはない個性があることは間違いないようです。

「女系天皇も選択肢」「選択的夫婦別姓」という発言については自民党内でも抵抗が強いようですが、党にとっては、むしろ多様性を示す意味でプラスに働いているのかも知れません。野党の主張に近い部分もあり、野党にとっては脅威に映っていることでしょう。

総裁選の議論では新型コロナ対策の他、経済財政、外交・安全保障、環境・エネルギー問題、防災、憲法改正、少子化対策など、さまざまなテーマが取り上げられました。「弁論大会だ」(立憲民主党・安住淳国対委員長)と言ってしまえば身も蓋もありませんが、明快な政策論争が繰り広げられているのであれば、意義のあることだと言えましょう。

ニッポン放送「報道部畑中デスクの独り言」

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しかし、新総裁が必ずしも政策の良し悪しで選ばれるわけではないのもまた政治の難しいところ。1回目の投票では議員票382、党員・党友票382の計764票で争われます(議員50%、党員・党友50%)。一方、1回目の投票では決まらず、決選投票に持ち込まれた場合、議員票382、都道府県票47となり、グッと議員票の比重が高まります(議員89%、都道府県11%)。

各社調査だと、党員・党友票では河野氏圧倒、議員票では岸田氏有利、高市氏が猛追という構図。1回目の投票では決着がつかない可能性があり、決選投票で「2位・3位連合」の票がどこに回るかも焦点になります。

いずれにしても民主主義は多数決の世界、結局は数がモノを言うため、政策の良し悪しは関係なく、苛烈な多数派工作が水面下で繰り広げられます。特に今回、各派閥の議員が結束しているのは岸田派の領袖である岸田氏ぐらいで、その他の派閥はほぼ自主投票。

話をより複雑にしているのは、「この人に総裁になってもらいたい」という動きだけでなく、「こいつにだけは総裁になってもらいたくない」という勢力もあるということ。そこには嫉妬や確執がうずまく、実に魑魅魍魎とした世界があります。皮肉を込めて言えば、そうしたこともひっくるめた上での「多様性」と言うべきでしょうか。

党員を除く多くの国民には縁のない総裁選ではありますが、1つだけ心に留めておくべきことがあります。それは国政選挙が年内だけでなく、来年(2022年)夏にも行われるということ。世論は移り気です。2020年の菅内閣発足時には60%以上あった内閣支持率が、まさにその証左でしょう。

選挙の顔が変わり、仮に今年(2021年)の衆議院選挙を乗り切ったとしても、半年余り後には新たな国民の審判を仰ぎます。仮に、来年夏にも同じような権力闘争が繰り返されたならば、有権者から手痛いしっぺ返しを食らうことになるでしょう。影に隠れがちな野党にとっては間隙を突くチャンスとも言えるのですが……。

国政選挙の主役は国民。「2段階の審判」に向けて、総裁選の帰趨を見守りたいと思います。(了)

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