鯨、最近食べました?……日本の貴重な資源の歴史と料理好き記者の実食レポート

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9月4日の「鯨の日」を前にした9月3日、大型の鯨「ニタリクジラ」の生肉が豊洲市場に出荷された。今回の計画、その狙いと実際の評判や反応などについて、ニッポン放送・遠藤竜也記者が取材し、ポッドキャスト番組「ニッポン放送・報道記者レポート2021」(ニッポン放送 Podcast Station ほか)でレポートした。

鯨食の普及を目的とした「く(9月)じ(4日)らの日」を前にした3日、日本捕鯨協会と共同船舶は、江東区の豊洲市場(東京都中央卸売市場)に大型のニタリクジラの生肉を出荷した。冷凍していない大型クジラの生肉は希少で、豊洲で取引されるのは初めて。豊洲に初出荷された大型のニタリクジラの生肉が売り場に並んだ吉川水産の仙川店 =2021年9且3日、東京都調布市  写真提供:産経新聞社

画像を見る(全5枚) 鯨食の普及を目的とした「く(9月)じ(4日)らの日」を前にした3日、日本捕鯨協会と共同船舶は、江東区の豊洲市場(東京都中央卸売市場)に大型のニタリクジラの生肉を出荷した。冷凍していない大型クジラの生肉は希少で、豊洲で取引されるのは初めて。豊洲に初出荷された大型のニタリクジラの生肉が売り場に並んだ吉川水産の仙川店 =2021年9且3日、東京都調布市  写真提供:産経新聞社

『鯨』日本の貴重な食文化の現状と実食レポート

鯨のお肉って皆さん最近食べてます? 私もまもなく50歳になるんですが、小学生の頃には給食で竜田揚げとしてよく出てきたイメージがあります。その時の鯨の肉は少し獣のワイルドな香り、悪く言えば少し臭みがある上、結構な歯ごたえがありましたので、「鳥の竜田揚げの方はいいのになあ……」と正直がっかりした記憶があります。

ちなみにご存じですか?……鯨は捨てるところがないといわれていまして、ヒゲについては、からくり人形のぜんまいや釣竿の穂先など、さまざまな素材として使われていました。また鯨油がよく利用され、田んぼの害虫駆除に欠かせないものとして使われていました。田んぼに鯨油をまくと、一面に油の膜ができます。その後に、棒などで稲をたたき、害虫を油膜の上に落として退治するのです。この方法は江戸時代に発案されて全国に広まり、米の増収を もたらしたと言われています。また、鯨油を牛などの家畜のからだに塗り付けて、害虫から守ったという話もあります。

また鯨肉を食べるという文化はかなり昔からあったようですが、特に日本は四方を海に囲まれていたことから、縄文時代には食べられていたようです。そして……鯨料理が歴史上に登場するのは室町時代といわれていまして、本膳料理の汁物にどうやら鯨肉を思わせるような絵や記述があります。

室町時代に発行された料理本には、最高の献立としてクジラ料理が紹介されています。さらに江戸時代入り捕鯨が盛んになるに従って、 料理について書かれた本にも、具体的な利用法が書かれるようになります。日本で1643年に刊行された最初の料理書である「料理物語」、この本には食材や調理の方法ごとに、20章に渡って構成されているんですが、この本にはたまり醤油か味噌仕立ての鯨汁が記されています。ごぼう、大根、野菜の茎、竹の子、茗荷など季節の野菜を加え、さっと沸騰したお湯をかけてから鯨肉を使う、と書かれてありますが、これは肉の臭みをとるためと考えられます。江戸時代後期に出された「鯨肉調味方」と言う料理本には、クジラの身体を70にも分類し、それぞれの料理方が紹介されています。肉や皮、舌、内臓ばかりでなく、顎から歯ぐき、さらには、ペニス、睾丸などなど……まさに食の本場、中国をしのぐ徹底ぶり、日本は鯨を余すところなく利用してきています。

その鯨肉ですが、日本の商業捕鯨がIWC=国際捕鯨委員会の決定を受け入れ停止となったのが昭和63年、その後、資源の状況を調べる調査捕鯨を経て、IWCから脱退、おととし7月に31年ぶりに再開となりました。商業捕鯨が再開されてから3年目になるんですが、鯨肉の国内の消費量はピークだった昭和37年度のおよそ23万トンから、平成30年度はおよそ3000トン、およそ80分の1にまで落ち込んでおり長期低迷の状況が続いています。

そんななか、業界団体の日本捕鯨協会などは鯨を食べる文化を守り、味を知ってもらうため、9月4日の「鯨の日」を前に、岩手県の太平洋沖で捕獲された体長13メートル、体重16トンの大型の鯨「ニタリクジラ」の肉を船の上で解体し、そのうちの500キロを特別に冷凍せずに生肉のまま運び、豊洲市場に出荷しました。冷凍していない鯨の生肉は珍しく、豊洲市場で取引をされたのは今回が初めてのことです。

今回の計画、その狙いと実際の評判や反応などについて実際のところはどうなのか? 日本捕鯨協会とともに捕鯨のプロフェッショナル企業として活動している共同船舶株式会社の三平梢さんに聞きました。

三平)元々は食としての鯨をもっと多くの方に、おいしさや9月4日のくじらの日に向けて「鯨は食のダイヤモンドだ」というスローガンにして取り組んでいます。おかげさまでお店や量販店で手に取って頂いて、すごく良い機会になった。

遠藤)生の鯨とはそんなに味などは違うんでしょうか?

三平)生の鯨の肉をみて頂くと全然違うねと言われました。肉でも魚でもそうですが、やっぱり冷凍してから解凍すると、どうしても細胞が壊れてしまうのでうまみが逃げてしまいます。それが生だとうまみの流出がないので、やはりうまみが強く臭みもないという感想が多かったです。

遠藤)実際に食べた方の反応は、いかがだったでしょうか?

三平)食べた方から話を聞いたり、SNSでの反応をみると、食べたことがある方は「食べたことがない」という感想、食べたことがない方は「こんなに美味しいんだ」という反応が多く、「あまり美味しくない」といったネガティブな反応があまりなかったことは良かったです。

ちなみに今回の生のニタリクジラ最高においしいといわれている「尾の身」しっぽの身の部分は1キロ70,000円の史上最高値をつけました(私は尾の身というものは、あの料理漫画の美味しんぼでしか観たことがありません……)。天然の本マグロが、通常では1キロ当たり7,000円から30,000円程度といわれておりますので、いかにこの価格がすごいかがよくわかります。その希少な鯨肉ですが、9月3日と4日の2日間、首都圏の23か所で営業している鮮魚チェーン「吉川水産」や御徒町の有名店「吉池」で販売されました。

太平洋の沖でとれたニタリクジラを生のまま食べられることから、購入した鮮魚店の担当者の方も「試食をしたら臭みがなく、もともち感があっておいしい。お客さんに勧めたい」という話が聞けましたので、私も新宿の「吉川水産」で購入して食べてみました。

撮影・遠藤竜也

撮影・遠藤竜也

お店には刺身用の赤身と尾の身の2種類が並んでいましたが、せっかくのチャンスでしたので、美味しんぼの主人公である山岡士郎になりきって高級な尾の身の方を選んで買ってみました。

撮影・遠藤竜也

撮影・遠藤竜也

ちなみに金額はいくらだと思います? 税込みで2,572……お肉の重さは100gあるかないかでしたので……正直言って高い! 2,572円あれば、私は平日5日間のお昼ご飯代を賄うことができます。

撮影・遠藤竜也

撮影・遠藤竜也

せっかくなので食べてみました。厚さが5ミリ、長さがおよそ4センチ、幅が1センチほどの薄切りにして刺身のように切ってみました。。。生の鯨は初めて食べましたが、見た目はカルビやハラミの肉のような感じ、実際に食べてみるとマグロと牛肉の赤身を足して2で割ったような感じ。ひと言でいうと「牛肉のユッケ」ですね。臭みはまったくなくいくらでも食べられるんですが、金額で言えば一切れで200円から300円くらいとなかなか手が出せない。ただもう少し広まって食べられるようになれば、再び鯨ブームが復活すると思います。

今回は首都圏の鮮魚店だけでなく、「くじらの日」プロジェクトとして、都内と埼玉県の飲食店12店舗で、ニタリクジラの生肉を使った料理が提供され、鯨の専門店から、ステーキやイタリアンなどバラエティ豊かな鯨料理が提供されました。

今回は、鯨の生肉を提供したことが話題となりましたが、長い目で見て、商業捕鯨、さらに国内の消費を上げていくアイデアはあるのか? 改めて共同船舶株式会社の三平梢さんに伺いました。

三平)消費者へのアピールは継続的に行っていくことをやっていかないと、忘れられてしまう。鯨を知ってもらう機会は9月4日「鯨の日」とか、いろんなタイミングで知ってもらう。個人の思いとしては、日本が海に囲まれている国として、水産資源を利用する中で、鯨って個体の資源量をちゃんと確認しながら、獲っていくということをやっているので、やはり継続的に資源量を確認しながらやってきたので、そういったところを理解して頂きながら、最近のSDGsなども流行っていますから、そういったものでも鯨を知ってもらう機会にしていきたい。まずは鯨をおいしく食べてもらいつつ、キチンと資源管理をしていることを知ってもらいたい。

実は9月28日に仙台中央卸売市場でも同じように生のニタリクジラを扱い、インターネットでも販売したそうです。さらに今年もう一回、日本国内でこういった取り組みをするそうですので、「久しぶりに鯨を食べてみようか?」「鯨ってどんな味なんだろう……」といった興味がある方は、是非チェックしてみて下さい。

若者を中心に鯨の肉を食べたことがない……といった人が増えています。日本に古くから伝わる鯨を食べる文化を未来に繋げていくことや資源としての鯨の継続的な利用には、消費量の回復に向けて、鯨を食べる機会を少しずつでも増やしていくことが必要となりそうです。

文責:遠藤竜也

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