コロナ禍のペットブームを考える ~改正動物愛護法施行
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コロナ禍で在宅時間が増え、ペットを飼い始める人が増加傾向にある中、動物の飼育管理について定めた「改正動物愛護管理法」がことし6月1日に施行された。生後56日以下の子犬子猫の販売が禁止され、悪質ブリーダーの取り締まりも強化。法改正にはどのような背景があるのか?また、国内のペット販売をめぐる動きはどう変化しているのか?
ポッドキャスト番組「ニッポン放送・報道記者レポート2021」(ニッポン放送 Podcast Station ほか)の10月7日配信回(担当:宮崎裕子記者)ではこのテーマについて取り上げ、さらに追加取材を行った。
小泉前環境大臣)今日6月1日からペットショップやブリーダーなどの飼養管理基準を定める環境省令が施行されました。生後56日、8週間を経過しない犬や猫の販売などの規制も開始となるということであります。つまり、今日からブリーダーは生後57日以上の犬猫しか販売できなくなりました。来週にはペットショップの店頭では生後56日以下の子犬、子猫を見ることはなくなります。
~小泉環境大臣会見(2021年6月1日)
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そもそもなぜ、生後56日以下の子犬子猫の販売禁止「8週齢規制」が盛り込まれたのか、法改正の背景には、こんな理由があります。
子犬子猫は、生後まもない早い段階で母親やきょうだいから引き離されてしまうと、社会性が備わらず、噛みぐせがある、よく吠える、他の犬や猫と仲良くできない、病気にかかりやすいなどの問題が指摘されてきました。幼くして親元から引き離され、ペットショップのショーケースに入れられた子犬子猫は、当然ストレスもかかります。1日でも長く親元にいたほうが、健康面でも精神面でも安定し、結果的に飼い主の元での問題行動が減るといわれています。このためこれまでの「49日以下」から1週間伸びて「56日以下の販売規制」となりました。専門家によってはもっと長く親元にいさせてあげたほうが良いという意見もあります。
一方で、子犬子猫は、生まれて間もないほどかわいいです。ペットショップでの売れ行きも良いです。購入する側も「より小さい頃から育てたい」と幼い子を欲しがる傾向にあります。ブリーダーなどの繁殖業者にとっても、生まれたあとの子犬子猫を手元で管理する期間が長ければ長いほど手間や維持費がかかります。こうした双方の事情を考慮して、今回は1週間だけ延長して「8週齢規制」となったわけです。
折しも、コロナ禍でペットを飼う人は増えています。一般社団法人「ペットフード協会」が毎年発表している全国の犬猫飼育実態調査(2020年10月)によりますと、去年2020年に新たに飼われた犬と猫は、どちらも前年より増加し、犬で58,000匹、猫で67,000匹、それぞれ増えています。飼育数はこの5年間で最多です。その要因について当協会は、『ペットショップでの購入が例年に比べて多いことから、コロナにより外出を控える中、近くのペットショップへ足を運ぶ機会が増え、その結果、購入が伸びたのではないか』と推察しています。
実は私も、去年のコロナ禍でペットを飼い始めた一人です。近所のホームセンター内にあるペットショップで、生後50日程度の子犬を買いました。
ここからは少し個人的な話になりますが、まずそのペットショップは緊急事態宣言により、いつお店が営業停止になるか分からない時期だったため、言葉は悪いですが“在庫処分”とばかりにすべての犬猫がディスカウントされていました。はじめて犬を飼う私に対して、店員さんのセールストークは「飼ってみたら意外と簡単だと思いますよ」、「フードを変えれば臭いも気にならなくなりますよ」、「毎日散歩させる必要はないですよ」などといったものです。関係者に聞くと、世話が大変なことばかり伝えると飼って(買って)くれる人がいなくなるとのことでした。動物の命を扱う上で“売れ残り”などを避けたい店側の事情も分からなくもないです。
日本では子犬子猫をショーケースに入れて販売する「生体販売」「陳列販売」が主流なので、可愛い子犬子猫を見ると、つい欲しくなって、私のように大した事前知識もないまま飼ってしま人も少なくないと思います。
ただ飼ってみると、そう思い通りにはいきません。トイレトレーニングから始まり、吠えたり噛んだり、人間の赤ちゃんと同じように片時も目が離せません。しつけ方法をネットや本で調べたり、「犬のしつけ教室」にも通いました。お陰さまで今は良い子に育ってくれています。
ペットとの共生はこれまでの生活を一変させます。そのため、「思った以上に世話が大変」「吠えるのでうるさい」などと様々な理由でペットを手放す飼い主は後を絶ちません。保護センターなどに預けられた保護犬、保護猫は、引き取り手がいねければ最終的に殺処分となります。
小泉前環境大臣は、9月24日の記者会見で、次のように呼びかけました。
小泉前環境大臣)全国の動物愛護センターや保健所では、引取手が見つからないなどの理由から殺処分をせざるを得ない犬や猫がいます。殺処分数は10年前に全国で約23万頭であったものが、現在では約3万2000頭と7分の1にまで減ってきました。殺処分の数を減らすには、広く国民の皆様にも御協力いただきたいことがあります。例えば、犬や猫をペットショップで購入するのではなくて保護犬や保護猫を飼うこと、最後まで責任を持って飼うこと、野良猫にみだりに餌やりをしないこと、是非お願いしたいと思います。
~小泉環境大臣会見(2021年9月24日)
こうした中、保護動物の譲渡を民間からサポートする動きも出ています。ホームセンターの島忠では、去年7月から店内の空きスペースなどを利用して「保護動物譲渡会」を本格的にスタートさせました。現在、11の店舗で毎月定期的に譲渡会を開催しています。また、さいたま市内の2店舗(浦和南店、与野店)では、犬猫の陳列販売を廃止しました。
こうした取り組みを始めたきっかけについて島忠の担当者は「各地の保健所や動物愛護団体のシェルターを訪問し、問題の大きさや社会活動としての必要性を実感。ペット用品を扱う会社としてサポートするべきだと判断した」としています。そして「動物との出会い方のあるべき姿の1つとして、譲渡会の開催協力をさせて頂いている。終生責任を持って飼育ができるのか、考えていただくきっかけになれば良い」としています。譲渡会ではこれまでに1000匹以上の犬猫の譲渡が成立したということです。
また東京・台東区にあるNPO法人「家庭犬しつけ協会」の担当者も、ペットを迎えるにあたり次のように呼びかけています。
コロナ禍のペットブームを機に「売り手」も「買い(飼い)手」も意識を改める必要があると実感しました。
(了)
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