ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。地方都市におけるEV自動車の可能性について解説した。
地方の町が抱える問題 ~車でしか移動ができない、ガソリンスタンドが減少している
ニッポン放送では「楽しくアクション!SDGs」ウィークと題し、各番組でさまざまな角度からSDGsについて考えて行く。今回は「住み続けられるSDGsなまちづくり」というテーマで考える。
飯田)佐々木さんは3拠点生活をされていらっしゃいます。東京もそうですが、一方で地方を見ていると、持続可能な町をつくって行かなければならないと。
佐々木)地方の町の場合、移動が重要な問題だと思います。私の家は福井県美浜町というところにあります。原発のある敦賀から車で20分くらいかかります。敦賀までは電車で行けるのです。
飯田)敦賀までは。
佐々木)東京から前原まで新幹線「ひかり」で行き、前原で北陸本線の特急に乗り換えて敦賀まで行けます。しかし、そのあとの、最後の20分が車でしか行けない。
飯田)最後の20分間が。
佐々木)地方自治体の人と話すと、皆さん車生活なので意識していないのだけれど、東京から移住者を招くとか、あるいは来てもらうときに、「足がない」ということは大きな問題なのです。
飯田)「ラストワンマイル」というところ。
佐々木)「ラストワンマイル問題」なのです。地元の人たちにとっても最近、深刻になっているのは、ガソリンスタンドが減って来ているということです。美浜町は、町の中心部に国道が走っていて、その両側にたくさんお店があります。しかし、以前はガソリンスタンドが2軒あったのですが、いまは1軒になってしまった。
飯田)そうなのですか。
佐々木)残りの1軒がなくなったら、片道20分走って敦賀までガソリンを入れに行くしかない。往復40分、ガソリンを入れるために行かなければなりません。エネルギーの無駄遣いですよね。
飯田)そのためにガソリンを残しておかなければいけないし、計算しながら走らなければいけない。
地方都市の生活に向いているEV自動車
佐々木)そう考えると、EVの方が今後、可能性があるのかなと思うのです。
飯田)短距離の移動に使える。
佐々木)東京の都市部では、通勤に車を使う人は少ないではないですか。週末にドライブに行くとか、旅行に行くときにしか使いません。EVは航続距離がガソリン車に比べるとまだ短いし、充電するための充電ステーションが少なく、充電するにも時間がかかるので面倒くさい。
飯田)急速充電でも30分くらいかかりますよね。
佐々木)家も一戸建てに住んでいる人が少なく、マンションには充電設備がないので、腰が引けてしまう。
飯田)充電できる場所がまだ少ないですよね。
佐々木)地方では、車は主に日常の足なのです。スーパーやオフィスまで片道10分くらい乗って行くだけなので、長距離は乗らないのです。
飯田)地方ではそうなりますね。
佐々木)しかも、地方の小都市だと、ほとんどの人が戸建てに住んでいる。そうすると、家で充電できるのです。だから、夜中など寝ている間に充電しておいて、朝買い物に行くなり、会社に行くなりで乗って帰って来るだけだから、EVに向いています。その上、ガソリンスタンドが減って来ているという現象もあるので、ちょうどいいのです。
大雪で動けなくなっても一晩くらいは大丈夫
佐々木)雪国で最近、大雪でスタックしてしまって、渋滞になって動けないという問題があるではないですか。そんなときに、「電気自動車は大丈夫なのか」という話もありますが、大容量のテスラであれば、エアコンの温度を18度程度の低めに設定しておけば、20時間くらいは持つのです。
飯田)そうなのですね。
佐々木)一晩くらいは全然、大丈夫です。「テスラは高級車」というイメージがありますが、400~500万円くらいで買えるようになっていて、国産車と値段はそれほど変わりません。今後、さらに安いものが出て来れば、EVが普及するのではないかという話もある。
飯田)自治体によっては補助も出ます。
佐々木)EVは渋滞などで停止しているときは、アイドリングしていないので、電気を食わないのです。エアコンを使わずにプラグから電気毛布だけ引っ張って、そこにくるまっていれば、二晩くらいは大丈夫なのです。
軽自動車タイプのEV自動車が安い値段で手に入れば、一気に地方で普及する可能性も
佐々木)さらにEVに関して言えば、日本のEVは相変わらず値段が高い、高級なイメージがありますが、中国で普及しているものは、超小型のとても安いEVです。
飯田)電池の部分にリチウムイオンなどの高価なものを使わず、値段を安く設定している。
佐々木)100万円しないくらいで売っているらしいです。
飯田)航続距離は100キロに満たないけれど、あるようですね。
佐々木)先日、日産の人と話していたら、日産は来年(2023年)、軽自動車規格のEVを出すらしいのです。軽自動車はスズキなどが有名ですが、スズキもいまEVを開発中のようです。
飯田)かつて、三菱「アイミーブ」という軽自動車タイプの電気自動車がありました。
佐々木)軽自動車のEVは税金も安いですし、SDGsの絡みで言うと、補助も出るはずなので、かなり安く入手できるようになる。
飯田)そうですね。
佐々木)容量が小さくても、地方の生活における車の使い方であれば大丈夫だということになる。いまの軽自動車も高いですからね。150万円は普通にするので、それが100万円を抑えるくらいの値段で手に入るようになれば、一気に地方で普及する可能性があるのではないでしょうか。
マンションの駐車場にEVのカーシェアを設置し、その売り上げで充電ステーションをつくる
飯田)ある程度の住宅団地のようなところであれば、シェアリングで持つということも選択肢としてあります。
佐々木)いま都会で問題になっているのが、マンションなどの集合住宅で車の充電設備がないことです。100世帯のなかに1人しかEVに乗っている人がいなければ、1人のために充電施設をつくることはできない。
飯田)そうですね。
佐々木)そこで考え方を変えて、駐車場の数ヵ所に、EVのカーシェアを設置する。地方に行くと、市役所が駐車場に観光客用として、EVのカーシェアを用意しているケースがあるのです。
飯田)市役所が。
佐々木)そういう感じで、マンションの駐車場に、住人が使えるようなカーシェアを用意する。そうすると売り上げが出るではないですか。その売り上げで充電ステーションを設置する。そういう考え方もできます。そういうことをやって行くと、徐々に広がるのではないかと思います。
自動運転とEV自動車の普及で地方生活のクオリティは一気に上がる
佐々木)もう少し長い目で見ると、いずれ完全自動運転である「レベル5」が普及して来ます。それほど遠くないと思います。技術的には現実に近付いて来ていて、あと10年くらいではないでしょうか。あとは法制度と保険の問題です。
飯田)加害と被害をどう切り分けるかとか。
佐々木)責任の所在などの問題はありますが、2030年代前半には完全に実用化するだろうと思います。そうすると、免許がなくても移動できるようになる。東京の若者は車の免許を持っていない人が多いのです。そんな人が地方へ移住しようと思うと、いきなり……。
飯田)まずは運転免許証を取るところから始めないといけない。
佐々木)ハードルが高いのだけれど、その問題がなくなるし、自動運転が普及すれば、限界集落に住んでいるお年寄りの買い物難民問題も解消します。いまは80歳くらいになったら免許返納という話になりますが、その問題も解消する。自動運転プラスEVで、地方生活のクオリティが一気に上がるという期待もできるのではないでしょうか。
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