ニッポン放送「飯田浩司のOK!Cozy up!」(3月4日放送)に慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子が出演。ロシア国営通信の記事誤配信ついて解説した。
ロシア国営通信が勝利を祝う記事を誤送信
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから2日後の2月26日、ロシア国営通信が勝利を祝う内容の記事を配信したあと、すぐに削除したことが明らかになった。この記事には「反ロシアのウクライナはもう存在しない。ウクライナは戻って来た」と書かれており、ロシア寄りの政権が樹立されることを見越して準備していた原稿の可能性がある。
飯田)既に侵攻・侵略から1週間が経とうとしておりますが、この記事がここへ来て、にわかに注目を集めています。このような予定稿が出てしまうというのは、情報戦のミスなのですか? あるいはこれも陽動なのですか?
廣瀬)これは間違いなくミスですね。予定稿をつくるのは旧ソ連時代からの伝統です。間違った情報を出してはいけないということで、重要な報道については、かなり前から予定稿をつくって間違いがないように準備するのですが、それが出てしまったということです。
「キエフは2日間で落ちる」と想定していたロシア
飯田)重要な情報だということであれば、本当に2日間ですべてカタをつけるつもりだったということですか?
廣瀬)そう思われます。そもそも「2日間でキエフは落ちる」と想定されていたようですので、平仄が合うと思います。
飯田)「2日間で落ちる」ということは、侵略が始まる前にアメリカの情報機関が言っていましたよね。
廣瀬)言っていました。
飯田)アメリカの情報が正確だったということが、ここで裏打ちされてしまうわけですか?
廣瀬)今回のアメリカの情報戦略では、ロシアを抑止するために「アメリカが入手した情報をすべて出す」という方針を取りましたが、あとから考えてみると、すべてが的確だったということになります。
「東スラブ民族の一体化」という理想像を追求するプーチン大統領
飯田)この記事を読むと、「反ロシアのウクライナは存在しない」と。国自体をつくり替えるということを明確に意図していたのですか?
廣瀬)その通りだと思います。プーチン大統領にとって、2014年以降のウクライナは欧米の悪い気でいっぱいになっている、ロシアとは離れてしまった国であるけれども、それを「兄弟国であるロシアに引き戻した」ということを言いたいのです。
飯田)既にこの記事の仮訳を出している方も多くいらっしゃいます。それによると、いまのロシア連邦を「大ロシア」、ウクライナを「小ロシア」と言い、ベラルーシを「白ロシア」と言って、「三位一体の状態できちんとした秩序が戻って来るのだ」という書きぶりのようですね。
廣瀬)もともと歴史的に、ウクライナはロシアと比べて小ロシア、ベラルーシは白ロシアと言われていました。それがソ連解体後、それぞれ独立国となることによって、3民族の一体性はなかなか表には出なくなったのですが、それをプーチン大統領は憂いており、「東スラブ民族がロシアのものとに一体化する」という理想像を追求しているのです。
アングロサクソンを敵視するプーチン大統領 ~ゲルマン民族とは仲よくできる
飯田)「それを西側は常に邪魔し続けて来たのだ」というのが、プーチン氏のロジック立てだったわけですか?
廣瀬)特にプーチン大統領が敵視しているのが、アングロサクソンです。
飯田)その単語がこの原稿のなかにも出て来ますね。
廣瀬)具体的にはイギリスとアメリカで、特にアメリカということになります。逆に言うと欧米のなかでも、それ以外のヨーロッパ、例えばゲルマン民族などとは仲よくできる。ただ、アングロサクソンとは相容れないと強調しているわけです。
「NATOの東方拡大はしない」という口約束はしている ~文書化はされていない
飯田)そのロジックのなかで、今回の戦争を正当化していると。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大などに関しては、「東方拡大しないという約束をしたのだ」とプーチン大統領は言っておりますけれども、どうなのでしょうか? 冷戦史などを見ている歴史家の方々は、「そんな約束はしていない」と言う人もいますが。
廣瀬)口約束では「1インチたりとも拡大しない」と言質を得ていて、そのことについては書かれているものが、いろいろなところでアーカイブ化されているのですが、確かに文書化はされていません。
飯田)口約束はしている。
廣瀬)「口約束がどれだけの有効力を持つのか」という考え方にもよりますが、ロシア側はそこを重視していて、ずっと「欧米に裏切られて来た」ということを言っているわけです。欧米側は「約束していない」というスタンスを取っています。。
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