ウクライナ危機のなか、中国のしたたかな動き

By -  公開:  更新:

「報道部畑中デスクの独り言」(第287回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、ウクライナ危機と中国の動きについて---

「七一勲章」授与式、北京で盛大に開催(北京=新華社記者/劉衛兵)= 2021(令和3)年6月30日 新華社/共同通信イメージズ

画像を見る(全4枚) 「七一勲章」授与式、北京で盛大に開催(北京=新華社記者/劉衛兵)= 2021(令和3)年6月30日 新華社/共同通信イメージズ

ウクライナ情勢はロシア側が攻勢を強めるなか、ウクライナ軍も応戦。出口が見えない状況が続いています。何よりも現地の悲惨な状況は心が痛みます。

こうしたなか、注目しておきたいのは中国の動きです。中国では全人代=全国人民代表大会が開催されました。李克強首相は閉幕後の記者会見で、ウクライナの情勢に関して「憂慮と沈痛な思いを深く感じる」と表明。「ロシアとウクライナが停戦協議を進めて平和的結果を出すことを支持する」と述べました。

さらに、ロシアへの制裁は「世界経済の回復に打撃を与え、各国に不利だ」として、反対する立場を示しました。日本を含め、ロシアへの非難を強める国々とは明らかに一線を画しています。

ウクライナ情勢を中国はどうみているのでしょうか? 金融関係者や専門家などに話を聞いていると、そこにはある種の「したたかさ」が見えて来ます。

今回の状況は本来、中国にとっても決して好ましいこととは言えません。一帯一路構想のなかで、ウクライナやロシアは「シルクロードの要衝」とも言える地域です。特にウクライナには穀物分野に投資をしています。ロシアが「親中路線」を装うことは、むしろ迷惑とさえ言えるでしょう。かと言って、西側諸国と同一歩調をとることはありえません。

一方、中国もチベットや新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題、台湾や東シナ海に対する問題などを抱えます。尖閣諸島をめぐる問題もしかりです。このなかで、例えば台湾を侵攻することは、失敗した場合、習近平国家主席の政治生命にかかわることから、可能性は極めて低いという見方が支配的です。

インタビュー取材を受けるウクライナのゼレンスキー大統領=2022年3月1日、キエフ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

インタビュー取材を受けるウクライナのゼレンスキー大統領=2022年3月1日、キエフ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

とは言え、現在行われているロシアへの制裁の効果がどれほどなのか……すべては自国で同様の事態が起きた場合に置き換え、じっくりと観察していることは想像に難くありません。それは国防面にとどまらないでしょう。例えば、SWIFTにおけるロシアの排除で、ロシアが予想以上に厳しい状況に陥った場合は、人民元の国際化を急ぐかも知れません。

食料・エネルギーの安全保障の面では、食料自給率を高めたり、調達先の多様化を図ることになりましょう。さらに、経済安全保障の面ではハイテク規制の強化、半導体などの国産化率引き上げという措置を取って来ることもあり得ます。となると、日本にとってはこうした物資の調達に影響が出ることが避けられなくなります。

日本の商社などが参加する「サハリン2プロジェクト」は、英米が相次いで撤退を表明するなかで、日本は難しい判断を迫られています。

「出資を控えた場合、LNGはどこに行くのか。おそらく中国に行くのではないか。結局ロシアを困らせることにはならない」(日本商工会議所・三村明夫会頭)

経済界からはこんな声も聞かれます。人道面から言って、毅然とした対応が必要であることはもちろんですが、間隙を縫って中国が「漁夫の利」を得るのではないか、そんな懸念もぬぐえません。

ここで、全人代でのポイントにも触れておきます。注目されたのは経済成長率の見通しで、政府活動報告では今年(2022年)のGDP=国内総生産の成長率の目標は「5.5%前後」。去年の「6.0%以上」から引き下げました。新型コロナウイルスで打撃を受けた経済を支えるため、減税や企業融資の拡大を続ける方針を示しました。ただ、中国の李克強首相は目標について「実現は容易ではない」と厳しい見通しを示しています。

金融関係者によると、今年のキーワードは「安定」だと言います。重点政策としては「安定有効なマクロ政策」を掲げました。新興企業の規制強化は大量の失業者を生み、景気を押し下げる要因になりました。「中国版総量規制」では不動産市場に悪影響が及びました。そうした弊害を是正するためか、改革的な政策は影を潜めた形です。

モスクワ近郊ノボオガリョボで、オンラインの安全保障会議に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ近郊ノボオガリョボ) AFP=時事 写真提供:時事通信

モスクワ近郊ノボオガリョボで、オンラインの安全保障会議に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ近郊ノボオガリョボ) AFP=時事 写真提供:時事通信

さらに、2022年予算案で国防費は日本円でおよそ26兆6000億円、前年より7.1%の増加です。ウクライナ情勢、そして台湾問題などをめぐる米中対立のなか、軍備拡張の動きは「不気味さ」を感じます。

岸田文雄首相は3月16日に記者会見を行いました。質問の機会が得られ、中国との今後の付き合い方についてたずねました。

「岸田総理は国会で、中国に責任ある行動を呼び掛けると、このように述べたが、これまでの動きが果たして責任ある行動と言えるのかどうか、見解を知りたい。一方、国防費を増大させるといった、ある意味したたかな姿勢にも見えるのだが、ウクライナ情勢を含めたこの中国の姿勢に対してどのように付き合って行くべきなのか」

これに対する総理の回答は以下のようなものでした。

「国際秩序のありようが問われている、こういった事態において、中国においても責任ある行動を求めたい。我が国は中国の隣国であり、隣国であるがゆえに、経済あるいは文化、スポーツ、市民活動、さまざまな関係がある。隣国であるがゆえに、東シナ海等においてさまざまな課題もある。やはり中国とはさまざまな対話をして行かなければいけない立場にある日本なので、そうしたさまざまな対話の機会で、ぜひ国際秩序を安定させることの大切さなどをしっかり訴えて行く。ウクライナの事態においても、中国として責任ある行動を取ってもらうべく働き掛けを行っていく」

中国のこれまでの行動についての言及はなかったものの、「責任ある行動を求める」という発言は、岸田総理にしては踏み込んだものと感じます。ただ、この働きかけの「本気度」については未知数です。さっそく、中国外務省からは「情勢沈静化に積極的な努力をしている。中国の立場は客観公正かつ建設的で、非難される余地はない」という反論が返って来ました。

ウクライナ情勢は目まぐるしく動いています。人道支援、経済への影響とともに、日本にとっては隣国である中国の動きも注視して行くという、極めて多面的な対応が重要と言えます。(了)

Page top