抑止力として、いかに日本の技術力を軍備に転用させることができるか

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慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が4月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本海で行われた日米共同訓練について解説した。

抑止力として、いかに日本の技術力を軍備に転用させることができるか

幕張メッセで開催された防衛装備品の展示会「DSEI Japan」に展示されている陸上自衛隊の10式戦車=2019年11月20日午後、千葉市の幕張メッセ 写真提供:産経新聞社

海上自衛隊ならびに航空自衛隊が、日本海でアメリカ海軍と日米共同訓練

「エイブラハム・リンカーン」は、アメリカ合衆国第16代大統領の名前だが、この名前の付いたアメリカ海軍の原子力空母がある。海上自衛隊ならびに航空自衛隊は4月13日、日本海においてアメリカ海軍と日米共同訓練を行ったと発表した。アメリカ側は空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とした空母打撃軍が参加。日本側はイージス護衛艦「こんごう」や汎用護衛艦の「いなづま」、F2戦闘機などが参加した。

東アジア一帯の不安定化に対して日米で抑止力を十分に示す

飯田)共同訓練の模様がいち早くツイッター上に写真入りで上がってきています。朝鮮半島情勢を睨んでというところでしょうか?

細谷)これだけの規模の共同演習になると、早くから予定を組んだ形で行われていると思いますが、政治的な意図として、まずは北朝鮮に対する牽制(けんせい)があると思います。

飯田)政治的な意図として。

細谷)加えて、ロシアが北方領土付近でかなり活発に軍事活動を行っていますし、可能性は高くはありませんが、中国による台湾への武力行使についても、情勢が流動化しています。ですので、この地域一帯の不安定化、流動化に対して日米で抑止力を十分に示すという意図が、今回の共同演習には見られるのではないでしょうか。

「同盟国の力を借りながら抑止力を高めていく」方針のバイデン政権 ~日本への役割にも期待

飯田)日本海は、北に行けばウラジオストクやロシアがありますからね。その辺りも含めてということですか?

細谷)いまヨーロッパで戦争が行われていて、いろいろなところに不安定化の状況が飛び火します。ロシア連邦のなかでも、部分的に独立を目指す分離主義的な動きが活発化していますし、かなりの兵力をウクライナに割いているので、それ以外の地域が手薄になり、紛争が拡大する危険性があります。

飯田)拡大する恐れもある。

細谷)もう1つ重要なことは、バイデン政権は軍事力を行使したくない、冷戦後では最も軍事力行使に否定的な政権だということです。しかし、一方でこれだけ安全保障環境が悪化しているわけです。

飯田)そうですよね。

細谷)バイデン政権の意向は、先日発表された国家防衛戦略(NDS)の概要にも示されていましたが、統合防衛力、統合抑止という形で、つまりは「同盟国の力を借りながら抑止力を高めていく」ということです。

飯田)同盟国の力を借りながら。

細谷)ドイツも防衛費を増やしましたから、おそらく今後は、日本に対してもより一層大きな役割を期待するでしょう。同盟国を使って抑止力を強化するというのが、バイデン政権の1つの流れだと思います。

「同盟強化」という名目で脅威に対応するバイデン政権

飯田)バイデン氏が副大統領だったオバマ政権のときに、「オフショア戦略」という形で、同盟国が前面に出るという概念がありましたが、それに近いものになっていくのですか?

細谷)トランプ元大統領とペンタゴンでは考え方が違いますが、トランプ元大統領は同盟を嫌悪していました。実態としては強化されたところもありましたが、そういう姿勢を示していました。バイデン政権はトランプ政権との違いとして、同盟強化という名目で、部分的に同盟国の役割を拡大することにより、脅威に対応しようとしています。そういう意向が見られると思います。

いかに日本の技術力を軍備に転用させるか

飯田)それに対応する形なのか、「敵基地攻撃能力」などということも言われていますが、日本国内でも抑止力を高めようという議論が始まっています。あるいは「核シェアリング」という話も出ていますが、日本の備えとしては、どのようなことが考えられますか?

細谷)日本は憲法9条に基づく法的な制約が大きいので、ドイツと比べても、どういう形で日本の役割を拡大するべきか、なかなか国内でも議論が煮詰まらない。つまりオプションが少ないのだと思います。

飯田)オプションが少ない。

細谷)防衛費1つ取っても、日本はGDP比1%に届くか届かないかというなかで、ドイツは2%に伸ばすと言っています。日本はドイツの約半分になるのです。さらに、防衛費については昨年(2021年)、韓国にも抜かれました。

飯田)抜かれましたね。

細谷)ですから防衛費を増額することを含めて、日本が自助努力できる領域はまだまだあります。特に技術です。日本が技術を使うことにも、いろいろな形で制約がありますが、いかに技術力を軍備に転用させるかということが、次の重要な課題になると思います。

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