前国家安全保障局長の北村滋が6月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢以降の経済安全保障について解説した。
ドイツでG7サミットが開幕
日本を含めた主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)がドイツで開幕した。会議ではウクライナへの軍事侵略を続けるロシアに対する圧力の強化やウクライナへの今後の支援、また世界的に懸念が高まる食糧危機への対応などが話し合われる。
飯田)6月24日で、ロシアによるウクライナ侵略から4ヵ月が経ちました。この4ヵ月をどのようにご覧になっていますか?
北村)いまは東部に戦線が集中している状況です。まず2月24日の全面侵攻の段階で、プーチン大統領は早い段階での戦局終結を見通していたのではないかと思います。
ウクライナの「デジタル変革省」が司令塔になり、ロシアのサイバー攻撃を阻止
北村)しかし、ウクライナ側の強い抵抗によって、現在の事態に至っているのだと思います。なかなか双方が停戦に向けた動機を持ちづらい状況にあり、終結への道が見通しにくい状況だと思います。
飯田)最新刊の『経済安全保障 異形の大国、中国を直視せよ』(中央公論新社)という本のなかでも、ハイブリッド戦等々に関して言及されていました。ロシアはハイブリッド戦に関して、先駆的な国であったと思うのですが、今回の進め方はうまくいっているのですか? それとも、ハイブリッド戦でも失敗しているのですか?
北村)2014年のクリミア併合のときには、鮮やかに戦局を制したということで、プーチン大統領はハイブリッド戦について熟達しているという見立てが多くありました。しかし、今回はそれが思った通りに進んでいません。2014年のクリミア併合を教訓として、ウクライナ側はゼレンスキー大統領以下がかなり真剣に取り組んできたのだと思います。
飯田)ウクライナ側が。
北村)「デジタル変革省」を設置して、それが今回のいわゆるハイブリッド戦、サイバー戦の司令塔になっていると言われています。また米国は、かなり早い段階から全面侵攻があると見ていたと言われていますので、そういった観点での米国のサイバーコマンドや、EUのサイバーセキュリティの即応部隊が現地に入り、基幹インフラを中心に積極的な支援を行ったと言われています。
ウクライナがロシアの情報を採取
飯田)2014年当時のハイブリッド戦では、携帯の電波などをジャックして偽の情報を流し、そこに集結した兵士に対して一気に火砲で攻撃するというような手法が紹介されていました。今回もそれをやろうとしたけれども、ウクライナ側がうまく防いだというところも大きいのですか?
北村)今回はむしろ、逆の事態が起きているのではないかという見方が多いです。ロシアの野戦用の軍事無線が、ジャミングされているという状況があると見ている方も多い。ロシアの将官がかなり戦死されていますけれども、これも場所の特定が商業用の通信手段によってなされていたことが原因ではないかと見る向きもあります。
飯田)それをウクライナ側が傍受し放題であった。
北村)いずれにしても、運用上の情報をうまく採取しているということだと思います。
平時のサイバーアタック等に対してどう備えるか ~経済安全保障推進法でようやく進むことに
飯田)「基幹インフラをどうするか」が重要だということは素人目にもわかるようになってきましたが、これを守るということになると、平時の備えはまさに経済安全保障の部分で行うことになるわけですか?
北村)そういうことです。ハイブリッド戦自体がそもそも、平時と有事の区別をあえて不明確にするという側面がありますので、平時の状況でのサイバーアタック等についてどうするかということが重要です。いままで手がつけられていなかった部分でしたが、今回の経済安全保障推進法で対応が可能になったということだと思います。
国家安全保障局に「経済班」を開設
飯田)その前段階として、北村さんが国家安全保障局の局長を務められているときに、まず「経済班」を開設されました。経済の部分と安全保障は少し離れたところにあったけれども、まずこれを引き寄せることに意味があったのですか?
北村)このような言い方は差し障りがあるかも知れませんけれども、私が着任したときは、国家安全保障局も「2プラス2」の世界だったのです。現在の安全保障は経済や技術分野に浸透している状況がありましたので、経済官庁、特に経産省や財務省や総務省などというところから人材を募って政策を始めたということです。
飯田)北村さんがおっしゃった「2プラス2」というのは、外務・防衛の人たちが中心ということですか?
北村)そういうことです。その辺りは、勿論安全保障では重要なポイントなのですけれども、今回の経済安全保障推進法でもわかるように、またハイブリッド戦が広まっている状況を見ると、当該省庁だけではカバーできない部分も多いのだと思います。
ウクライナ情勢により、国民の「国防」への関心が高まっている
飯田)ウクライナ情勢に絡んで日本国内でも世論調査をすると、今回の事態が他人ごとではないという方々が多い。ウクライナ情勢によって空気が変わったところはありますか?
北村)それは大きいと思います。先般、シャングリラ・ダイアローグでも、岸田総理が「ウクライナは明日の東アジアかも知れない」と発言されています。日々の報道などでも、国防が国民の日々の生活に密着しているという認識が高まっているのだと思います。今回の参議院選挙の各党の公約にも現れているのではないでしょうか。
中国製のドローンや北朝鮮のミサイルにある日本由来の技術
飯田)その部分で「安全保障」といままで言われてきたものは、戦車、大砲、銃、戦艦というイメージでしたけれども、それ以上に、我々の普段の生活と企業の活動がこんなに結びついていたのかということが、北村さんの最新刊を読むとわかります。いろいろな企業が情報を漏らしたり、安全保障に対してマイナスになる部分でものを輸出してしまったりすることがあったのですね。
北村)例えば、世界市場を席巻している中国製のドローンや、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射のなかにも、日本由来の技術がないのかということを考えると、そういったこともあるのだろうと思います。。特に安全保障に関する技術情報の漏洩は、予想以上に早い段階で国民生活、国民の安全に跳ね返ってくる部分が多いということは、いろいろなところでお伝えしています。
見えない情報の流出 ~人から情報が抜ける
飯田)技術の具体的な情報だけではなく、それを持っている人が流出したり、そういうものを盗み出そうとしてくる人たちをどう防ぐかなど、今後の課題も含めると「人の部分」が重要になりますか?
北村)大きいと思います。昔からそうですが、「見えない情報の流出」と言われています。人間の頭にあるものがある意味、最も完全な情報なのです。そういう意味で、人から情報が抜けるということは大きな損失につながります。一方、人間自身は脆弱な存在でもありますので、そこを突いてくるのです。
民間におけるセキュリティクリアランスの仕組みをどこまで導入するか
飯田)今回の国会の議論のなかでは一部、話に出てきていましたけれども、そこにアクセスする人、公の方々に関してはもう既にありますが、民間人や学者などのセキュリティクリアランス、適格性評価という部分は本来であれば盛り込まなければいけないのですか?
北村)これは、国民の考え方次第だと思いますし、政府もどこまで決めているかは、まだ確たるものはないと思います。少なくとも特定秘密保護法のなかでは、国防、外交、防諜、対テロという分野などの重要情報に接する公務員については、適性評価、セキュリティクリアランスの仕組みがあります。その人が情報を漏洩した場合には、罰則がかかってくるということです。現在、セキュリティクリアランスと言われているのは民間における仕組みですから、これをどこまで導入するかは今後、議論されていくのだろうと思います。
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