2022年上半期の自動車業界を振り返る
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「報道部畑中デスクの独り言」(第296回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2022年・上半期の自動車業界について---
早いもので今年(2022年)も半分が過ぎました。今回は2022年上半期の自動車業界を振り返ります。
5月に発表された各社の年度決算を振り返ってみると、実に国内メーカー7社全社が最終利益の黒字を確保。トヨタ自動車は売上高、営業利益、最終利益が過去最高を更新し、特に営業利益は3兆円に迫る数字です。日産自動車も3年ぶりに黒字に転換しました。
決算会見では明るいコメントが並びました。
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「この十数年間の積み重ね、体質を改善してきたことが、いちばんの特徴としての決算だった」(トヨタ自動車・近健太副社長)
「販売の質の向上、固定費の適正化を進めたことが今回の数字に表れている」(日産自動車・内田誠社長)
「経営環境が日々刻々と変化するなか、これまで続けてきた構造改革と、日々の改善の両輪による成果が表れた1年」(マツダ・丸本明社長)
「業績は大幅に改善し、利益目標は1年前倒しで達成することができた」(三菱自動車・加藤隆雄社長)
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理由として各社のトップは構造改革などを挙げていますが、こうした数字は円安にも助けられました。巷では「悪い円安」と言われますが、少なくとも自動車業界には追い風になったようです。
しかし、今後については、各社厳しい見通しを崩していません。
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「今期全般にわたって半導体不足という状況が続く。中国の影響、コロナの影響も上乗せされて、なかなか先行きが見えない」(スズキ・鈴木俊宏社長)
「半導体は、少しずつ改善はしている。2023年度下期ぐらいに解消するという前提」(マツダ・丸本社長)
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半導体不足は来年(2023年)後半まで続くという見方もあり、新車発表のスケジュールに遅れが出るなどの影響も出ています。そして、頭を痛めているのは原材料価格の上昇。ウクライナ情勢などの政情不安とも無縁ではないようです。
具体的には原料炭の値上がりによる鋼材、アルミ材など、いわば車体の骨格を司る部品が中心となっています。これを受けて、各社、車両価格への上乗せの動きが出ています。
「少しおカネを頂戴してもいい層のお客様もいらっしゃるが、クルマを日常の足として使っていらっしゃるお客様が世界にたくさんいる。こういった方から価格を上げて頂戴するのは厳しい」
こう語るのはトヨタの長田准執行役員。台数をさばく量販車種はできるだけ価格を抑える一方、高級車などの値上げを模索……苦しい胸の内を明かします。クルマの値段は我々の生活にも直結するだけに、今後が気になるところです。
一方、こうしたなかでもカーボン・ニュートラルに向けた動き、足踏みは許されません。
その本命の1つとされるEV=電気自動車にこの上半期、新たな動きがありました。軽自動車のジャンルに「日産サクラ」「三菱EKクロスEV」という新たなEVが投入されたのです。
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「日本における電気自動車のゲームチェンジャーになると確信している」(日産自動車・内田誠社長)
「カーボン・ニュートラル社会実現の一助となる新世代の軽EV」(三菱自動車・加藤隆雄社長)
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日産としては軽自動車における初のEV参入、三菱自動車にとっては「i-MiEV(アイミーブ)」以来のEVの軽乗用車ということになります。生産拠点となる岡山県倉敷市の三菱自動車水島製作所では、オフライン式が行われました。
航続距離180キロという、街乗り中心の使用を想定した設計。補助金を使えば約180万円で購入できることもあり、軽自動車、そして電気自動車の市場を変えることになるのか注目されます。日産によりますと、サクラについては5月20日の発表からおよそ3週間で、1万1000台を超える注文を受けたということで、出足は上々のようです。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻により、電力事情、エネルギー調達のあり方が大きくクローズアップされました。電気自動車だけがカーボン・ニュートラルへの解決策なのか……以前もお伝えした「Well to Wheel(井戸から車輪へ)」あるいはLCA=ライフ・サイクル・アセスメントという「クルマの一生」の視点で考えますと、日本では化石燃料を使った火力発電比率が75%ほど。こうしてできた電気がはたしてカーボン・ニュートラルなのかという議論もあります。
そうしたなか、EVだけでないさまざまな知恵も出てきています。今回はバイオ燃料について少々掘り下げます。バイオ燃料の開発に力を入れているのが「ユーグレナ」というスタートアップ企業です。
バイオ燃料とは、生物由来の原料で生成した燃料のこと。ユーグレナでは、ミドリムシから抽出した脂肪分や、使用済みのてんぷら油などを原料にしています。
エンジンというものは燃料を燃やすわけですから、温室効果ガスである二酸化炭素を出します。石油……ガソリンや軽油を燃料とする場合は、二酸化炭素は増える一方です。
これに対し、バイオ燃料も燃料としては、二酸化炭素は出しますが、植物からつくる燃料の場合は光合成により二酸化炭素を吸収して成長します。お互いの量にもよりますが、「排出」と「吸収」……プラスマイナスで二酸化炭素は相殺される。言いかえれば二酸化炭素が循環することで、カーボン・ニュートラルに近づくというわけです。
原料の1つであるミドリムシは、植物と動物の両方の性質を持つ単細胞の生物。これから抽出した油が燃料になります。その性能が気になるところです。
「バイオ燃料が使えることはほぼ実証されている。パートナーであるいすゞ自動車からは、軽油と性能的には同等という結論を出していただいている。50社以上に使ってもらっている」
ユーグレナのエネルギーカンパニー長、尾立維博さんはこのように語ります。今後の課題はズバリ、供給量とコスト。現在は軽油のほぼ2倍のコストがかかるということです。今後、2025年中に商業プラントを完成させる予定で、供給量を現在の2000倍とし、課題解決を図ります。
ちなみにミドリムシは燃料だけでなく、食品、化粧品、飼料=家畜のえさとしても活用でき、世界の食糧問題にも貢献できる可能性があるということです。
さて、このバイオ燃料、2050年にはどうなっているのか。尾立さんは「大量のモノを遠くまで運ぶ大きなトラックは、バイオ燃料とEVのハイブリッドになっているかも知れない」と語り、電動化とは共存共栄となる見通しを示しました。その上で、カーボン・ニュートラルへの「救世主」としての役割に期待を寄せています。
バイオ燃料を使った車両については、前出のいすゞ自動車が開発に力を入れている他、マツダも活用を模索しています。内燃機関、特にディーゼルエンジンは排出ガス不正の問題、いわゆる「ディーゼルゲート事件」以降、厳しい見方が出ているのは事実ですが、マツダは内燃機関にはまだまだ伸びしろがあるとみています。
「主要エネルギーの節減という意味で、内燃機関の効率を高め続ける。これを究極と言われるところまで持っていくことは、1つの私たちの使命と考えている。効率改善を進めておくことはバイオ燃料の到来など、ディーゼルエンジンを使った適用拡大は大きな機会がある。復権の日は必ず来る」(マツダ・廣瀬一郎専務 4月の技術説明会で)
マツダはこの他、ガソリンエンジンも含めた内燃機関、電動化と、幅広い展開を進めています。いわゆる「マルチ・ソリューション」、多様な解決策と訳されますか。
このように、カーボン・ニュートラルに向けたさまざまな方法が模索されているなかで、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)も「各社の得意分野に応じて、タスクフォースを組み、選択肢を狭めずに活動を続けていく」と述べました。
電動化加速の風潮にあるなか、日本の自動車業界の姿勢が吉と出るか凶と出るかは不透明ですが、少なくとも「ものづくり大国」である日本ならではの姿勢だと思います。一方で、日本では2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指しています。自動車業界、とりわけ産業構造の帰趨は、国が明確なエネルギー戦略を示すことにもかかっていると言えます。(了)
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