ジャーナリストの佐々木俊尚が7月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。KDDI大規模通信障害について解説した。
KDDI大規模通信障害 「全面的に復旧確認」と発表
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KDDIは、2日の未明に発生したauの携帯電話などの大規模な通信障害について、発生から86時間経った5日午後3時半過ぎに、全面的な復旧を確認したと発表した。今回の通信障害で利用者に影響があったのは、2日午前1時35分から4日午後3時まで、最大3915万の利用者に影響した可能性があるとしている。
飯田)最初は15分間のルーター交換時の寸断だった。
佐々木)そのとき溜まっていたデータが一気に入ってきてしまったので、いきなりデータベースにズレが生じ、拡大してしまった。なし崩し的に「ダダーッ」と崩壊していくという、エンジニアから見たら血の凍るような話だと思います。
これほどクリティカルなインフラになっていることを我々は認識するべき ~ドコモとauが停止したら社会が成り立たなくなる
佐々木)音声電話だけではなく、インターネット自体、こんなにクリティカルな社会のインフラになっているということを、我々はもっと認識するべきだと思いました。
飯田)これほどの事態になるということを。
佐々木)110番通報ができないというのも大きなことですが、単にスマホが使えないだけならば、連絡が取れないというだけの話です。しかし、例えば気象庁のアメダスが使えなくなるとか、貨物列車が運行できないなど、インフラに直結する通信にも使われているのです。ドコモとauが一斉に停止したら、社会が成り立たなくなるくらいの状態になってきているわけです。
飯田)ドコモとauが止まってしまったら。
佐々木)我々はスマホやパソコンなどでネットを使っているけれど、今後はIoTという、ありとあらゆるものをネットでつなげる時代になります。テレビなどの家電もインターネットにつながっています。あらゆるものをネットにつなげていこうとすると、端末がすごい勢いで増えていく。日本だけでも数百億台が一斉に5Gの通信を利用するようになります。
サーバーが止まり、スマートロックを付けている人が家に入れなくなった
佐々木)基本はワイヤレスですから、それが一瞬止まったらどうなるのか。少し前にアマゾンのAWSという有名なサーバーが止まったことがありました。最近は「スマートロック」という、スマホで鍵を開けられる家が増えています。我が家も付けていますが、いきなり家に入れなくなってしまった。
飯田)サーバーが止まってしまったために。
佐々木)鍵も多重化して持っておくべきなのですが、持っていない人がツイッターで「どうしたらいいかわからない」と叫んでいました。そういう事態が通信で起き得る時代になってきているということです。
厳しい値下げ競争がインフラを維持する体質を脆弱化する可能性も
佐々木)現在、ソフトバンク、KDDI、ドコモ、楽天という4社の民間企業に任せていますが、非常に複雑なことを彼らはしているわけです。iPhoneやAndroidのスマホは通信キャリアにすれば、自分たちの製品ではないわけです。海外のメーカーがつくった製品を自分たちのところに、しかもOSもバラバラなのに、全部滑らかにつなげなくてはならないのです。
飯田)調整が必要なわけですね。
佐々木)彼らは超人的な技術を持っているわけです。だからこういうことがあると、一瞬にして崩壊する可能性があるのだということを、もう少し認識すべきです。
飯田)我々は。
佐々木)ではどこまで通信料金を値下げするのか。「日本の携帯代金は高い」などと言われて、菅内閣のときに「通信料の値下げ」を行った。それはいい政策だと評価されました。
飯田)値下げしました。
佐々木)「通信キャリアは儲けすぎだ」と言われていたし、確かにそれはよかったと思います。しかし、あまりにも値下げ競争を厳しくすると、今度はインフラを維持する体質が脆弱化していくのではないかという心配も出てきます。
電力自由化が招いた「エネルギー危機に対する対応力の低下」
佐々木)これで思い出したのが電力です。民主党政権のときに「電力自由化」を行って、再生可能エネルギーに賦課金を付けて安くしたわけです。そのおかげで日本は太陽光の発電量が増えて、世界でも上位になっていますが、一方、火力で発電しているところはコストが高くなってしまい、維持できなくなってしまった。そして火力を停止することになったのだけれど、今回のようなエネルギー危機が起こると、再稼働しなくてはいけなくなり、メンテナンスが大変だということになる。
飯田)エネルギー危機で。
佐々木)電力会社から見ると、これだけコスト減でやってきて、「どこから火力を維持するコストを持ってくるか」という話になる。自由化したのはよかったのだけれど、結果的にそれは「エネルギー危機に対する対応力を下げただけ」という見方もできるわけです。
飯田)自由化によって。
佐々木)インターネットの通信にもインフラにも全部同じことが言えて、あまり値下げを求めてしまうと、逆に「インフラを維持する体力を削いでしまうことになるのではないか」という心配を、我々はもう少しするべきです。
インフラに関しては、すべてを民間に任せてしまってはいけないのではないか
飯田)ある意味のセーフティネットというか、バックアップの部分も、バックアップ冗長性などいろいろな言われ方をしますが、「無駄ではないか」と言われれば、「使っていない」という意味では「無駄ですよね」となってしまう。
佐々木)すべて民間に任せればいいのだ、市場に任せれば大丈夫なのだ、というのは2000年代の小泉内閣辺りから始まった「新自由主義的な発想」です。しかし、インフラに関しては「民間に任せてしまってはいけないものもある」という発想を持つべきだと思います。
バックアップとして家に別の回線をもう1つ引く
佐々木)一方で、この問題はマクロの視点で見ればそういうことですが、ミクロで見ると防御策を考えた方がいいです。我が家がそうですが、仕事場と自宅が一緒なので、回線が1つしかないのが不安なため、2つ引いています。
飯田)もう1つの回線を。
佐々木)1つは光ファイバーという普通の回線と、5Gを家のなかで受信して通信回線にできるという、NTTドコモの「ホームルーター」を引いています。そうすれば、どちらか落ちても大丈夫だろうということです。そのように防御策をある程度考えた方がいいのではないでしょうか。
セーフティネットとして格安携帯をeSIMにして入れておく
佐々木)最近の新しいiPhoneでは、「eSIM」というものがあります。SIMカードは小さなカードですが、「e」が付くと、物理的にカードを入れなくても2つの回線を内蔵できるという仕組みになっているのです。
飯田)カードを入れなくても。
佐々木)楽天モバイルなどの格安のものがありますが、楽天モバイルをeSIMにして、楽天モバイルを日ごろ使っているドコモやauと一緒に入れておくと、ドコモやauが落ちたときに楽天モバイルが使えるのです。そういう安い回線も1つ入れておく。
飯田)なるほど。
佐々木)まったく使わなくても低額で済むので、そのようにセーフティネットをつくっておいた方がいいと思います。
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