ロシアとの関係を断つことができないインドが「クアッド」に参加するのはなぜか

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数量政策学者の高橋洋一と、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が8月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。9月1日から行われるロシアによる極東地域などでの軍事演習について解説した。

ロシアとの関係を断つことができないインドが「クアッド」に参加するのはなぜか

2022年5月24日、日印首脳会談~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/24quad.html)

ロシアが北方領土などで明日から軍事演習

ロシア国防省は9月1日~7日まで、北方領土を含めた極東地域などで大規模な軍事演習を行う予定だ。中国も参加する他、ロシア側は日米豪印4ヵ国の枠組み「クアッド」のメンバーであるインドも参加するとしている。

飯田)ただ、浜田防衛大臣は「インドからは演習に加わらない旨の説明を受けた」と明らかにしています。小泉さんはロシアの軍事のご専門でいらっしゃいます。報道では「大規模な軍事演習」と言われていますが、規模は縮小したという話も出ていますね。

小泉)今回、規模を事前に言っていなかったのです。通常は9月~10月にロシア軍の秋の大演習……軍管区レベルのいちばん大きな演習を行うのですが、5月か6月の段階で「今年はこういうことをやります」というアナウンスがあるのです。しかし、今年(2022年)はそれがずれ込んで、7月末までどんな演習を行うのか発表されませんでした。

5万人程度の小規模な軍事演習になる ~極東の部隊もほとんどウクライナ戦線へ送っている

小泉)そのときに演習の規模もあまり言われていなかった。ウクライナとの戦争の真っ最中ですし、兵力の大部分や極東の部隊もほとんどウクライナに送ってしまっているので、言いようがなかったのではないでしょうか。

飯田)ウクライナと戦っているなかでは。

小泉)4年前(2018年)の東部軍管区での大演習や、2014年に行われた演習に比べると、だいぶ規模は小さいです。2018年は30万人近く動員したと言っていましたから。

飯田)2018年は。

小泉)今年は5万人くらいということで、過去に比べるとだいぶ規模は小さくなっています。ただ、今回はインドや中国も参加する。その他、ラオスやアルジェリアなど、まだロシアと関係を切らないでくれている国々をありったけ集めたという形にしたようです。

部隊としての参加は中国人民解放軍とベラルーシ軍 ~他は武官が数人来る程度か

小泉)当初は8月30日に演習を始めるという話だったのですが、土壇場で「9月1日からに変えます」としました。期間も7日までに延ばしたので、後ろ倒しにすることで、少しでも多くの国に来て欲しいということではないでしょうか。

飯田)後ろ倒しにすることで。

小泉)部隊を送れる国はそれほど多くないと思います。ロシア国防省の言い方では、「部隊またはオブザーバーという形で明日、これだけの国々が参加してくれます」と言っているので、蓋を開けてみないとわかりません。一応、いまのところ中国の人民解放軍とベラルーシ軍は、実際に部隊が来ているということが確認できるのですが、その他の国々は武官が数人見ていく程度なのではないかと思います。

「民主主義対全体主義」という見方でくくれる ~クアッドに参加していてもロシアとの関係を断つことはできないインド

飯田)中国とロシアのつながりというと。

高橋)「敵の敵は味方」というような、「民主主義対全体主義」という見方で大体くくれてしまうのですが、民主主義の低い国はみんなまとまるということなのでしょう。

飯田)なるほど。

高橋)インドは実は民主主義国なのです。インドの民主主義指数は6であり、中国は2、ロシアは3ですので、それと比べるとインドはギリギリ民主主義国なのです。

飯田)インドは。

高橋)インドはクアッドもあるから、オブザーバーの可能性が高いでしょうね。しかし、クアッドに入っているけれど、インドの場合は武器などの関係でロシアへの依存が大きい。根の部分を改善しないと、民主主義国のなかには入れにくいのではないかという気がします。

全体主義の連合に対抗して「JAUKUS」の枠組みの可能性も ~戦略メッセージとしてどのように民主主義国が答えるか

高橋)そのような全体主義の連合ができると、一方では民主主義の連合ができて、AUKUS(オーカス)などにはJ(日本)が付け加わり、JAUKUS(ジョーカス)になっていくような感じがします。

飯田)イギリス、アメリカ、オーストラリアの枠組みに。

高橋)オーストラリアが日本の周りではいちばん頼りになる。アングロサクソンの国でもあるし、そちらの方の連携も対抗してやっていく。こういうものは「戦略的コミュニケーション」と言って、何かメッセージがあった場合、そのメッセージに答えなければいけないのです。民主主義国が「戦略メッセージとしてどのように答えるのか」ということを見ています。

ロシアとの関係を断つことができないインドが「クアッド」に参加するのはなぜか

ロシアのプーチン大統領(ロシア・サンクトペテルブルク) AFP=時事 写真提供:時事通信

「JAUKUS」などの正式な枠組みをつくる必要はあるのか ~幅広い防衛協力はすでに行っている

飯田)AUKUSに関しても原潜をつくるというような話がありますが、その部分をこの間の核拡散防止条約(NPT)会議のなかで、中国が問題として出してきました。今後、そこに日本が絡んでいくとして、どういう活用ができますか?

小泉)おっしゃるようにAUKUSは原潜をオーストラリアに供与するという、割と特定のテーマから出発した安全保障協力枠組みです。そこへ日本が正式にJを付けて、「JAUKUS」になる必要があるかどうかですね。

飯田)と言うと?

小泉)例えば日本は、次期戦闘機はイギリスと開発することを決めているわけです。その他のさまざま先端技術の協力についても、つまり原潜に限らず、もっと幅広い防衛協力を「AUKUS」などと名前をつけなくても既にやっているので、正式な枠組みをつくる必要がそもそもあるのかということが1つあります。

AUKUSやクアッドなどの枠組みがあり、NATOほどキッチリしていないことが太平洋側では重要 ~はっきりブロックをつくって中国と真正面から敵対したい国はない

小泉)一方で、中国・ロシアがAUKUSのことを気にしているのは間違いありません。これは対中包囲網なので、中国が気にするのは当たり前なのですけれど、ロシアも妙にこの枠組みを気にしています。私も少し前にロシアのタス通信から取材を受けたのですが、彼らの質問は「AUKUSは太平洋版NATOになるのか、そこに日本も入るのか」というようなことでした。

飯田)太平洋版NATOになるのかと。

小泉)彼らは冷戦のアナロジーが真っ先に浮かんできてしまうわけです。そういう側面もなくはないと思うのですけれど、AUKUSやクアッドなどのいろいろな枠組みがあり、なおかつNATOほどきっちりしていないということが、太平洋側では重要だと思うのです。

飯田)NATOほどきっちりしていないということが。

小泉)はっきりとブロックをつくってしまうと、中国と真正面で対抗してしまう。中国と真正面から敵対したい国はないわけです。商売やイデオロギー、安全保障などのいろいろな軸足があって、はっきりアメリカ陣営や中国陣営に行きたくないという国が多いはずです。開放的にいろいろな枠組みがあるということが大事だと思います。

飯田)開放的に。

小泉)インドも今回、ロシアの演習に加わっていますけれど、クアッドのメンバーでもある。同盟的思考から言えば、「お前たちはどちらなのだ?」となるのですが、「どちらか」を言わなくて済むから、インドはクアッドにいてくれるのだと思います。

ソフトな同盟、ソフトな抑止が太平洋側では適している

小泉)インドのロシア専門家と会議したときに、彼らははっきりとそういう言い方をしていました。「クアッドが同盟だったら我々は入らなかった」と。あくまでも安全保障の協力枠組みだから入れるのだと。中国と敵対する気もないし、ロシアは武器の供給国としてインドではプレゼンスが大きいので、ロシアとも敵対したくない。ソフトな同盟、ソフトな抑止のようなものを追求するのが、インド太平洋側ではうまくいくのかなと思います。

アジア版NATOをつくるのではなく、既存の枠組みを強化する

飯田)アメリカの動きとして、台湾に約1500億円の武器売却を検討するという話も出てきました。アメリカは踏み絵を踏ませようとしているのか、それとも事情がわかっていて、緩いままでいこうとしているのか。どうご覧になりますか?

高橋)アメリカは「ハブアンドスポーク」と言って、要するにアメリカを中心とした安全保障体制なのだけれども、流れ的にそういう緩い対策でどれだけ国の安全が保てるのか、という議論が出てきそうな気がします。

飯田)もう少しがっちりやらなくてはダメだと。

高橋)もう少し強くしないといけない。アジア版NATOをつくるというよりは、いまもNATOにオブザーバーとして入っているわけですけれども、そういうことが関係強化の形になる。あとは個別に関係強化を深める形にならないと大変かな、という気がしますね。

飯田)小泉さんはいかがですか?

小泉)私もNATOのようなものをつくって集団で対抗するというよりは、高橋先生がおっしゃったハブアンドスポーク、既存の枠組みを強化する形になるのかなと思います。しかも今回、ウクライナでロシアが大戦争をやってしまったことにより、アメリカのリソースの大部分がヨーロッパに行くのです。そうなると、今後はいまある同盟国に「何ができるのか」という話になると思います。

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