「マイナンバーカード」普及が伸びないいくつかの理由
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ジャーナリストの佐々木俊尚と、衆議院議員の平将明が9月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。発足してから1年が経過するデジタル庁について解説した。
デジタル庁発足1年
デジタル庁は9月1日で発足から1年を迎えた。活動報告会で事務方トップにあたる浅沼尚デジタル監は、パスポート代や交通違反金など行政手数料をクレジットカードなどで支払えるようになる「キャッシュレス法」の成立や、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書アプリなど成果を改めて説明した上で、やりたいことをスピード感を持って進めるためには「まだまだ人が足りない」と述べた。
飯田)メールもいろいろいただいています。足立区の“ホマレッツ”さん、49歳の会社員の方から。「期待していますが、まだまだ紙媒体が多いですよね。ワクチン接種券やマイナンバーカードがデータのプラットフォームになって、いろいろな分野への普及拡大が鍵になるのではないでしょうか」といただきました。マイナンバーについては横浜市中区の“ハマクマ”さん、66歳の男性からご意見をいただいています。「お医者さんへ行ってもマイナンバーで受付できませんね。こういうものは早く推進して欲しいです。保険証などが必要なくてもマイナンバーとの連携をお願いします」という意見です。一方で南秋田郡の“秋田のドバちゃん”さんからは、「創設1年。若者は対応が早いと思いますけれども、ついていけない人たちも多いと思います。ついていけない人たちにどう理解してもらい、教えていけるかが今後の課題ではないでしょうか」という意見もいただいております。発足のときにも平さんに話をお聞きしました。
平)そうでしたね。
成果はこれから出る
飯田)1年経ちましたが、どうご覧になりますか?
平)よくやっていると思います。官僚とデジタル人材というのは、いちばん遠い人たちです。それを1ヵ所に数百人と集めて、システムの改修や投資という現業も持っているわけです。さらには自治体や都道府県、国などのシステムを標準化するようなことも行っている。
飯田)なるほど。
平)あれだけ異質な人たちを1ヵ所に置いたら、普通は空中分解します。でも、このくらいで何とかしているということです。1年経ちましたが、大きな仕事が多いので、成果はこれから出ると私は見ています。
マイナンバーカード加入が伸びない理由 ~ポイントを付与すれば入るわけではない
飯田)佐々木さんはいかがでしょう?
佐々木)新型コロナワクチンの接種証明アプリをデジタル庁がつくったではないですか。あれは画期的に使いやすかったと思います。マイナンバーカードにスマホを乗せて、アプリを起動するだけで接種証明書が「ピッ」とスマホに入ってくるのは素晴らしい。ただ、前段であるマイナンバーがまだ普及しておらず、いま5割くらいですよね?
平)そうですね。
佐々木)「2万円分のマイナポイント付与」ということですが、いまの低成長時代に2万円貰えるというのはすごいなと思いました。「こんなに大盤振る舞いをしたら全員入るのでは?」と思ったのですが、全然入っていない。
飯田)伸びないですね。
佐々木)ツイッターで「2万円貰えるのに、なぜこんなに普及しないのですかね?」と書いたら、多くのリプライが来ました。圧倒的に多かったのが「申請の仕方が面倒」、「申請システムが使いづらい」ということです。そのUIが改善されていない。
飯田)UIが。
佐々木)あれはデジタル庁の発足以前につくられたものだから、そうなってしまっているのだと思います。UIを変えれば、画期的にみんな入れるようになるのではないかと思います。「ポイントを付与すれば入ってもらえる」と国は考えているようですが、前段のデザインやユーザーインターフェースなどに対する理解が足りなかった感じがします。
最初は対面で本人確認して手続きを行うのは世界的なやり方
平)いわゆるプラットフォーマー事業のところは何を分析しているかと言うと、お客さんが手続きのどこで離脱するかを見ているわけです。この手続きでみんな離脱しているのだということを分析して、そこを簡素化していく。
飯田)離脱するところの手続きを。
平)Amazonなどがそうですが、行政には「ワンクリックで何でも済むように」という考え方がそもそもなかったのです。デジタル庁になって民間の人が入り、そういう分析もたぶんしているのだと思います。
飯田)民間の人が入ってきて。
平)ただ1つ言えることは、「マイナンバーの申請が面倒くさい」、または「デジタルなのだからデジタルでやれ」と言われます。しかし、最初は対面で本人確認した上で、「ようこそデジタルの世界へ」というやり方が世界的にも当たり前なのです。
ポイント付与は平議員の考案 ~その際は却下される
平)ポイントについては、実は私が発案したのです。岸田さんが政調会長のときに、「消費税を上げる際、何かいい政策はないか?」と聞かれたので、「マイナンバーカードに1万円分のポイントをつけて、1億枚配りましょう」と提案しました。1兆円です。しかし、そのときは却下されました。
飯田)そうなのですね。
平)インターフェースなどというところは、マイナンバーそのものを配って「ピッ」とできたら簡単だったのだけれども、「民業圧迫だよね」という議論もあってできなかった。
Appleの壁
平)いまのように1回スマホを噛ませて、というようになったところが少し難しかったなと思います。これからはスマホに搭載されるということですが、いつもの問題でAppleがなかなか協力してくれず、難しいのです。
飯田)アンドロイドはできるけれど、という話ですよね。
平)いまはスマホでマイナンバーカードが読めるではないですか。あのときも大変だったのですよ。Google、アンドロイドは協力してくれるのだけれど、Appleがダメだと。また同じ問題が起きているのです。アンドロイドからやりますけれども、スマホに機能が搭載されて簡単にできるようになると、だいぶ使い勝手がよくなると思います。
現場に降ろすところで必ずある大きなハードル ~そこは政府や与党がリーダーシップを取るべき
飯田)デジタル庁の肝として、各省庁に横串を刺すのだという話があり、特にマイナンバーが肝になると言われていました。しかし、保険証の話のなかで、保険点数の加算の部分で、マイナンバーカードをつくった方がなぜか余分に取られてしまうところがありました。ようやく是正の方向に進んでいますけれども、ああいうことを1つ見ても、岩盤の壁が高いのだと思います。
平)厚労省が嚙んだ瞬間におかしくなるのです。いつものパターンです。そこはデジタル庁が押し切らなくてはいけません。
佐々木)デジタル化で言うと、例えば総務省や経産省が「電子カルテを進めましょう」と実証実験をやって、うまくいくのだけれども、それを現場に降ろして厚労省に持っていくと「医師会が求めていない」などと言って反対する。
飯田)厚労省が。
佐々木)デジタル庁や総務省、経産省のように、ICTに詳しい人がたくさんいるところはいいけれども、現場に持っていくところで必ず大きなハードルがあるのです。これは今後、突破できるのでしょうか?
平)特に士業の人たちですよね。「士」が付く人たちについてよく言われるのは、高齢の人が「デジタルに対応できない」と言うのだけれども、「新しい言語を1つ覚えろ」という話ではなく、スマホやiPadの使い方を習うだけなので、そこは押し切るしかないと思うのです。それは政府や与党がリーダーシップを取らなければいけません。総理のリーダーシップもあると思います。それ次第でできると思います。
飯田)担当大臣は河野さんですけれど、ここは突破力の人ですか?
平)突破力は必要だと思います。役所や官僚はできない理由を言うので、「どうやればできるのか」と頭を切り替えさせるのに、ある程度の突破力が必要です。河野さんには期待しています。
安倍元総理が提案したDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)
飯田)一方でデジタルの世界はあっという間に世界を飛び越えていくので、世界で基準などをつくらなくてはならない。いままさに河野さんがG20のデジタル担当大臣の会合に出席していますけれども、この先、日本で足りないものはどんなことでしょうか?
平)いま、DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)をG20で河野さんが提案しています。これはものすごく大事で、結局、個人情報を我々はしっかり守らなくてはいけないし、基本的人権や民主主義も守らなくてはいけないのです。データドリブンエコノミーだからと言って、何をやってもいいわけではないのです。
飯田)データドリブンエコノミーだからと言って。
平)でも、「何をやってもいい」という国もあるものですから、我々の意識の仲間づくりをしていかなくてはいけません。
飯田)そうですね。
平)DFFTはまさに安倍元総理が最初にダボス会議で提案し、そのあとG20大阪サミットでも言われたものです。非常に大事なコンセプトなので、これで日本がリーダーシップを取っていかなければならない。APECやG7、TPP、IPEFなどで実現していくことが大事です。日本の出番だと思います。
Web3.0の思想には中国は乗ることができない
佐々木)データドリブン社会のデータというのは、AIのベースになっているわけです。そうすると中国のように、データ取り放題の国の方がAI技術で先行していくという可能性がある。GAFAの次はいよいよ中国ITに取られるのではないかという危惧もあります。どう対抗していくかは難しいですよね。
平)個人情報を含めて、何でもデータつなぎ放題の中国と同じようなことは、我々民主主義の国ではできません。Data Free Flow with Trustの「Trust」は信頼です。信頼というのは主観的ではないですか。それをどう客観化するかがこれから大事になりますので、よく議論するべきです。
飯田)どう客観化するか。
平)私はWeb3.0だと思っています。分散型自律組織、Web3.0の思想には中国共産党は乗れません。Web1.0、Web2.0の世界ではData Free Flow with Trustをしっかり進めながら、Web3.0ではまだ規制の体系化や税制の整備ができていないのです。G7などが中心となって整備していくことが大事ではないかと思います。
飯田)G7などが中心になって。
佐々木)プライバシーの話になると、すぐに騒いでしまうメディアの問題もあります。Trustという部分をどうやってメディアがつくるかということになってくる。
飯田)オードリー・タン氏が台湾でやったようなことになってくるわけですね。
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