著書に『金正日秘録 なぜ正恩体制は崩壊しないのか』(産経新聞出版)などがある龍谷大学社会学部の李相哲教授が10月4日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。北朝鮮による核実験の見通しについて、辛坊と対談した。
政府は、北朝鮮から弾道ミサイル1発が4日午前7時22分頃、発射されたと発表した。最高高度は1000キロメートルで過去最長の4600キロメートル飛行したとみられ、東北地方上空を通過して排他的経済水域外の太平洋に落下した。北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過するのは2017年9月15日以来、5年ぶり。
辛坊)北朝鮮は最近、ミサイルを乱れ撃っています。今回のミサイルはとりわけ飛行距離が長いですが、どういう意図があるのでしょうか。
李)軍事力を見せつけたということですね。米韓合同軍事演習が行われているさなかの発射です。しかも、9月30日には日米韓が共同で北朝鮮の潜水艦探知訓練をしたばかりです。北朝鮮からすると、「我々にも軍事力はあるぞ」と言いたいわけです。今回のミサイル発射は実験というよりは軍事訓練の性格が強いといえます。今年の一連の動きを見ていると、実践配備を急いでいるという印象もありますね。
辛坊)今回のミサイルの飛行距離からすると、日本をターゲットにしたものではないですよね。
李)そうですね。4600キロメートルというのは、グアムが射程圏内に入ります。ただ、今回のミサイルは「火星12」とされています。この「火星12」は過去にも撃って成功しているミサイルです。北朝鮮からすると、いきなり大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃って失敗すると都合が悪いので、安定した「火星12」を撃ってアメリカに警告を送ったというふうに見るべきではないでしょうじゃ。
辛坊)なるほど。アメリカ本土までたどり着くようなものを撃って失敗するよりは、「グアム辺りまでだったら確実に届くミサイルを持っているぞ」というメッセージだったわけですね。
李)その通りだと思います。
辛坊)ここへきて、北朝鮮がまた核実験をするのではないかという危機感が高まっています。この観測については、どのように見ていらっしゃいますか。
李)北朝鮮は核実験を確実に行うと思います。韓国国家情報院が最近、国会に報告したところによりますと、10月16日~11月8日に行うのではないかといわれています。ただ、アメリカ中央情報局(CIA)は「9月に核実験をやる」とほぼ言い切ったのですが、行っていないんですよ。ですから、私は常に申し上げる通り、北朝鮮の核実験は時期よりも軍事的な目的を追求していますので、全ての準備が整った段階でやると考えています。
ただ、北朝鮮が既に起爆装置実験を2、3回行ったことは確認されています。北朝鮮は過去にも湿気の少ない秋に核実験をよく行っているので、その時期にきているのではないかと思います。
辛坊)なぜ、湿気がないほうがいいのでしょうか。
李)理由の1つは、北朝鮮は道路事情が悪いため、湿気の多い夏になると、核実験のための装備を山奥まで運ぶのが難しいんですよ。ですから、夏を避け、今のような秋がちょうどよいのかと思えます。過去の核実験を見ると、ほぼ全て秋か冬に行っています。
ただ、11月8日に行われるアメリカ中間選挙の前に北朝鮮が決定的な挑発をすると、今回は少し危ないのではないかと見られています。中間選挙の前に行うのは、かなりハードルが高いということです。ですから、むしろ中間選挙の後になる可能性もあるのではないかと、私は個人的に見ています。
辛坊)10月16日~11月8日の間といわれているのは、加えて10月16日に中国共産党大会が行われるからですか。
李)そうです。
辛坊)11月8日はアメリカ中間選挙、10月16日は中国共産党大会。それらを妨害するようなことにならないよう、その後に核実験を行うという見方ですね。
李)そういうことです。
辛坊)アメリカ中間選挙の前に核実験を行うとなれば、中間選挙に何らかの影響を与えるというかプレッシャーをかけられると思うのですが、李さんが中間選挙の後だと考える最大の理由は何ですか。
李)中間選挙の前に核実験を行ってしまうと、中間選挙にとって有利に働く可能性があるからです。
辛坊)なるほど。
李)北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記からすると、死を覚悟することになる可能性も出てくるわけです。金総書記は今、かなりおびえています。アメリカでは、金総書記の斬首作戦についての議論がまた盛り上がっている状況なんです。これに対し、金総書記は「我々の指導部を攻撃したり、攻撃したりする兆候が見られたら、核を使用する」という構えです。そこで、「我々には、それを裏付ける技術力と能力がある」ということを見せつけようとしている状況ではないでしょうか。
辛坊)そうなると早い話が、北朝鮮はアメリカを威嚇はしたいけれども、本気で怒らせたくはないということですね。
李)そうです。今回発射されたミサイルの砲角からしても、そのことが見え見えです。グアムの方向ではなく、青森の上空を通過させたからです。米韓軍事合同演習が行われているさなかでの発射でしたから、グアムの方向を避けたということからも、アメリカを決定的に怒らせたくないという思惑が見て取れます。
北朝鮮はこれまで、米韓軍事合同演習のさなかに挑発したことはありませんでした。ですから、今回のミサイル発射は異例です。米韓軍事合同演習があるときには、北朝鮮は「準戦時状態」を宣言し、国民も支援態勢に入ります。ところが、今の北朝鮮にはそうした体力もエネルギーもありません。そこで、代わりにミサイル発射で対抗したということです。ミサイル発射訓練を行うことにより、「我々は死に体ではない」ということを見せつけるとともに、朝鮮人民軍の士気低下を防ぐという意図も見られますね。
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[アシスタント]増山さやかアナウンサー(月曜日~木曜日)、飯田浩司アナウンサー(木曜日のみ)