冬を迎えウクライナ支援の欧州諸国に生じる「心理的な陰り」

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筑波大学教授の東野篤子氏が10月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによる侵攻から8ヵ月が経過するウクライナ情勢について語った。

冬を迎えウクライナ支援の欧州諸国に生じる「心理的な陰り」

2022年6月16日、キーウ(キエフ)を訪問したドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相らと並ぶウクライナのゼレンスキー大統領(中央)(ウクライナ・キーウ) AFP=時事 写真提供:時事通信

ロシアによるウクライナ侵略から8ヵ月

ロシアによるウクライナ侵略の開始から10月24日で8ヵ月となった。東部や南部でウクライナ軍が反転攻勢を続けるなか、ロシア軍がウクライナ全土へのミサイル攻撃などで反撃した。また、ロシア政府は24日、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾(ダーティーボム)」の製造をほぼ完了していると主張した。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は強く否定。イギリス・フランス・アメリカも否定する共同声明を発表した。

飯田)昨日(10月24日)で侵攻が始まってから8ヵ月ということですが、東野さんはどのように現状をご覧になっていますか?

東野)いまは東部と南部に戦線が集中しているのですが、どちらもウクライナ優勢と言われています。23日と24日も、ザポリージャを除く地域でロシア側からの反撃があったとは伝えられているのですが、ウクライナ側が押し返していて、特にヘルソンではここ数日、ロシア側の撤退が取り沙汰されています。ただ、これに関連して、ロシア側がヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムを攻撃し、周辺地域に大きな水害をもたらすよう画策しているという話があり、予断を許しません。

飯田)ヘルソン州のダムを攻撃しようと。

東野)また、首都キーウを中心にウクライナ全土に対する無差別攻撃があり、民間インフラ、特に電力・水源などの辺りが攻撃されていて、市民生活への影響が心配です。

ウクライナが「汚い爆弾(ダーティーボム)」を使ったと言うロシアの「偽旗作戦」 ~ロシアに何らかの作戦がある

飯田)「汚い爆弾(ダーティーボム)」という名前が出てきました。これをロシア側が使って「ウクライナが使ったのだ」と言おうとしているのではないかという話がありますが、ロシアは焦っているということですか?

東野)自分たちがやろうとしていることを「ウクライナがやりそうだぞ」と騒ぐ……これをロシア側から言ってくる「偽旗作戦」と呼んでいます。それ自体はロシアがこの戦争を通じてずっと行ってきたことなので、今回、急に始まったわけではありません。ただ、やはり自分たちがやろうとしている作戦の責任を、相手側に押し付けようとしているのでしょう。「騒ぎ始めた」ということは何らかの計画があるということで、みんな警戒しているのです。

今年は泥濘期の開始が遅く、ウクライナがヘルソン市内の重要拠点を奪還する可能性も ~追いつめられると「偽旗作戦」を行うロシア

ジャーナリスト・有本香)これから季節は冬に入ります。侵攻が始まった当初も「ロシアは寒いうちに決着をつけたいのだ」というような話がありましたけれども、冬になって雪が降ったり凍ったりすると、戦況が大きく変わるのでしょうか?

東野)冬の前のいわゆる泥濘期という、秋雨の影響で地面がぬかるんでしまう時期の影響は大きいです。そうなるとウクライナ側としても動きにくい。戦況が動きにくいと守勢側が現状維持できるので、守勢側がやや有利とも言われています。ただ、今年(2022年)は泥濘期の開始が比較的遅いと言われています。

飯田)今年は遅い。

東野)攻められるなら攻めたいというところがあり、このままいいペースで進めれば、ヘルソン市内も含めた重要拠点が奪還できるかも知れません。

飯田)いまのペースで進むことができれば。

東野)ただ、うまくいきそうな状況とは裏腹に、ウクライナ側がうまくいくとロシア側が追い詰められるところもあって、ダーティーボムのような話も出てくるということは、残念ながら事実です。

イギリスがスナク新首相に代わってもウクライナ支援は変わらない

有本)ここでイギリスの首相が交代になります。驚きの展開ですが、トラス首相はウクライナをずっと応援し続けていました。スナク新首相はウクライナを全面的にバックアップする姿勢を引き継ぐと見ていいのでしょうか?

東野)スナク新首相に限らず、イギリスの保守党政権、あるいはイギリス議会全体がウクライナ支援の方向性からはあまりブレないと思います。その意味では、誰が首相になろうとも対ロシア強硬路線とウクライナ支援路線は変わりません。

飯田)誰が首相になろうとも。

東野)一時期「ジョンソン氏が返り咲くのではないか?」という話がありましたよね。ウクライナの人々はジョンソン元首相を英雄視していたところがあったので、ウクライナのなかで無駄に盛り上がってしまったというのも事実です。ただ、そうであっても、スナク首相になったところで大きく路線が変わることはないということは繰り返しておきたいと思います。

冬を迎えウクライナ支援の欧州諸国に生じる「心理的な陰り」

記者会見するバイデン米大統領とフィンランドのニーニスト大統領(左)、スウェーデンのアンデション首相(右)=2022年5月19日、ホワイトハウス(UPI=共同) 写真提供:共同通信社

冬を迎えウクライナ支援の欧州諸国に心理的な陰りが

有本)武器の面とそれ以外の面があると思いますが、西側としては今後、どのような支援を具体的に考えていく流れになるのでしょうか?

東野)支援とロシアに対する制裁の両面ですよね。ロシアによる一方的な住民投票があり、併合が行われた。さらに無差別攻撃という展開になっています。西側諸国としても、緩みそうになってしまった結束を「ギュッ」と締め直す状況になっています。今回、欧州連合(EU)は新しい制裁をかけていますので、それを緻密に行っていくことが必要です。

飯田)新たな制裁を。

東野)ウクライナに対する支援ですが、無差別攻撃を受けていますので、武器供与の心理的なハードルも一歩下がり、「もう少しウクライナが勝てるような武器を供与しなければならない」という動きが出ています。同時に、ヨーロッパも冬を迎え始め、「このまま支援を続ける形で米欧諸国も冬を越すことができるのか?」という心理的な陰りのようなものが出てきているのも確かです。どこまで踏ん張れるかがポイントになってきます。

飯田)エネルギーの話もありますからね。

習近平政権が新体制になり、ヨーロッパと中国の関係悪化はさらに続く

飯田)習近平政権が新体制になりましたが、ヨーロッパの国々はどう見ていますか?

東野)習近平氏に近しい人事になり、反対意見が入れられないような、ますます硬直化した状況になっていくことを恐れていると思います。加えて、新疆ウイグル自治区などの人権問題にまったく改善の余地が見られず、しばらくはヨーロッパと中国の関係が改善されることは考えにくいと思います。これまで続いていた関係悪化の傾向が、残念ながらしばらく続いていくということです。

経済的な連携を保つことで「中国に変わってもらえないか」と期待するドイツ ~現実は難しい

飯田)他方、ドイツでは国内大反対の状態でショルツ首相が港を解放するという報道が出ましたが、その辺りはどうですか?

東野)ドイツはまだ引き裂かれた状態ではあると思います。原理原則面で人権問題がこれほど大きな問題になってしまい、あまり中国に対して妥協的な立場は取りたくないけれど、前任のメルケル元首相の時代から中国との経済関係は切っても切り離せない。「これは大事にすべきもの」ということで、メルケル元首相からショルツ首相に引き継がれた政策的な一貫性の部分でもあります。

飯田)政策的な一貫性の一部。

東野)経済的な連携を保つことで「中国に変わってもらえないか」という期待が存在するのは事実ですが、現実を見ると、なかなか期待通りにはいきません。経済関係を保ちつつ、人権状況を改善しないことも大いに考えられますので、ドイツの割れ具合がどのように転ぶかは私も注目しています。

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