外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ブラジル大統領選について解説した。
ブラジル大統領選から占う米大統領選
ブラジル大統領選の決選投票で惜敗した右派の現職ボルソナロ氏の支持者が結果に納得せず、全国各地で幹線道路を封鎖して交通が麻痺している問題で、ボルソナロ氏は11月2日、支持者に対して「頭を冷やせ」と呼びかけた。「ブラジルのトランプ」とも言われるボルソナロ氏の敗北を受け、2024年のアメリカ大統領選を占う。
ブラジル大統領選で敗北したボルソナロ大統領のその後の行動
飯田)宮家さんは産経新聞で「宮家邦彦のWorld Watch」を連載していますが、11月3日のタイトルは「ブラジルから占う米大統領選」です。
宮家)若干「無理があるかな」と思いつつ、やっぱり書きました。ボルソナロさんは「ブラジルのトランプ」と言われる、右派のポピュリストですよね。
飯田)そうですね。
宮家)「コロナはただの風邪だ」などと言ったり、いろいろと物議を醸した人なのですが、事前に選挙には負けると言われていて、実際に負けたわけです。負けたこと自体は驚かなかったのだけれども、気になったのは、この人がその後に「何を言うか」ということでした。
飯田)何を言うのか。
宮家)トランプさんの場合は、「選挙は盗まれたのだ」と言った。だからいまでも前回の大統領選挙の結果を認めていないわけです。もし、ブラジルの大統領が潔く敗北を認めたら、「ブラジルの大統領の方がトランプさんより立派ではないか」となるわけですよね。
飯田)ボルソナロ氏が負けたことを潔く認めれば。
宮家)では、もしブラジルの大統領が「敗北は認めない」と言いつつも、何もせずに我慢しているだけなのであれば、ブラジル民主主義にはまだ見込みがあるかなと。
飯田)口では言っても。
宮家)アメリカでは議会襲撃事件があったわけですけれども、負けたブラジルの大統領が支持者をけしかけて暴力沙汰が起こった場合、「それはいけませんね」ということです。
「憲法に従う」と選挙の負けを認めたボルソナロ大統領
飯田)最初、ボルソナロさんは一切反応しなかった。
宮家)そうです。
飯田)そして支持者たちが道路封鎖などを行ったところまできて、「頭を冷やせ」と発言しました。
宮家)(コラムの)原稿を書いていたころは、一言も彼は言わなかったのです。
飯田)沈黙していましたよね。
宮家)ショックだったのか、それとも悩んでいたのか。しかし冷静になり、そして私の原稿が書き上がって印刷される手前で「憲法に従う」と発言があったので、少し原稿を書き直しました。
飯田)その発言で。
宮家)それでも、まだ往生際が悪いところもあった。この状況を見ていると、トランプさんがいかに変な人かよくわかりますよね。ブラジルの大統領を「変だな」と思っている人もいたと思いますが、その人が潔くある程度敗北を認めているということは、「アメリカもきちんとやらなければならないぞ」ということだと思います。
中南米の主要国が次々と左派政権に ~アメリカの力が中南米に削がれる可能性も
飯田)新しくブラジルの大統領になるのはルラ氏です。
宮家)この方は左派で、産経新聞はいいことを書いていたのですけれど、よく考えてみたら、中南米の主要国が次々と左派政権にひっくり返っています。
飯田)そうですね。
宮家)左派は当然、アメリカに対して厳しいわけです。ベネズエラなど、いろいろな国が(左派に)変わっていることに対し、「少し嫌な予感がする」と書いておられましたけれど、ブラジルも同じなのです。
飯田)ブラジルも。
宮家)ルラさんは2003年から大統領を2期務めています。その左派の大統領が、またアメリカに厳しい態度を取るようになると、アメリカの国力が中南米に削がれてしまうかも知れません。
飯田)中南米に。
宮家)アメリカにはインド太平洋地域で頑張って欲しいのだけれども、「大丈夫か」という心配がないわけではありません。
アメリカへの反発から中露へ接近する可能性も
飯田)「アメリカへの反発」ということになると、その分、ロシアや中国に接近するのではないかという懸念もある。
宮家)そうすると、またロシアや中国が一息ついてしまう。しかし、歴史的にはアメリカも中南米でいろいろな問題を起こしてきたことは事実です。
飯田)さまざまな工作がかつてはあったでしょうしね。
宮家)嫌われていることも事実です。アメリカがきちんと対応すれば、またよい関係になるのでしょうけれど、なかなかアメリカも中南米とは厳しい状況が続いています。
飯田)中南米には。
宮家)しかも、多数の違法移民や難民がそこから来るわけですから、関係を厳しくせざるを得ない部分もあって、それがまた紛争の種になっているのだと思います。
イスラエルではネタニヤフ氏が勝利
飯田)別の地域の話ですが、イスラエルの選挙ではネタニヤフさん側が勝ったという報道があります。こちらはこちらで巻き戻そうとしているのでしょうか?
宮家)今度イスラエルは左派ではなく、また右派に戻っている。ネタニヤフさんも頑張りましたよね。彼が最初に首相になったのは1996年ですよ。
飯田)そうですね。
宮家)過去1年間冷や飯を食ったのだけれど、またカムバックしてきた。外交は強硬派ですから、パレスチナ問題も含めて和平は遠のくでしょう。和平と言っても、もうパレスチナ人も内部分裂しているから、イスラエルと話し合いができない状態なのですけれど。
飯田)パレスチナも。
宮家)それがますます固定化される可能性があります。「イスラエルにはネタニヤフさんではなく、もっと新しい世代の政治家はいないのか」と言いたい気持ちもないわけではない。そろそろ変わってもいいころだと思いますが。
飯田)この流れがアメリカの選挙に影響することはあるのですか?
宮家)直接的な影響はないと思います。ただ、ネタニヤフさんはアメリカをうまく使う名人ですから、アメリカの対中東政策という意味では、また新しい混乱要因になるかも知れません。
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