旧統一教会問題「被害者救済法」 不透明な「実効性」
公開: 更新:
中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が12月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。12月10日に成立した旧統一教会の被害者救済法について解説した。
旧統一教会の問題を受けた被害者救済法が成立
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けた被害者救済法が、12月10日に成立した。「霊感」などで不安を煽る悪質な寄付勧誘行為に対する罰則や取消権などが盛り込まれ、今後は実効性の確保が課題となる。
飯田)臨時国会の会期末だった10日に、この法律が成立し、国会は閉幕となりました。
野村)最初、与党側はこの法律をつくること自体に少し後ろ向きでした。現行の法律に盛り込むためにはかなり困難な部分があったので、法制局などが否定的だったのです。
飯田)法制局などが。
野村)それが野党側と折衝していくなかで、ここまで辿り着いたのは、それなりの成果だと思います。
「困惑」が適用できるのかどうか ~法律上、マインドコントロールを定義することはほぼ不可能
野村)ただ、実効性がどうなのかという問題はあります。具体的には、「霊感で」という話がありましたが、霊感に影響を受けて寄付するだけではなく、条件のなかには「困惑」という言葉もあるのです。
飯田)困惑。
野村)この「困惑」が要件になっているのですが、多くの場合、寄付は進んで行われます。ですので、「まったく困惑していないのではないか」という問題があり、適用できるのかという議論がありました。
マインドコントロール下で進んでいるように見えても、困惑していると解釈する余地はある ~この行政解釈が裁判所の解釈になるかどうかはわからない
野村)なぜ進んで行っているのかと言うと、「前段階でマインドコントロールを受けているから進んで行っている。では、マインドコントロールで寄付することを禁止しなければいけないのではないか」というのが、野党が必死に言っていた話です。ただ法律上、マインドコントロールを定義することはほぼ不可能に近いのです。
飯田)内心の問題に関わってきますよね。
野村)そこが攻防戦になりました。ただ、岸田総理は今回の国会答弁のなかで、かなり解釈に踏み込んだところを議論していました。「マインドコントロール下で進んでいるように見えても、それは困惑していると解釈する余地はある」と発言しているのです。
飯田)困惑していると解釈する余地はある。
野村)ただ、この行政解釈が裁判所の解釈になるかどうかはわかりませんので、まだ議論の余地はあると思います。
配慮義務に違反していれば違法性を立証しやすくなる ~実効性については裁判所に行かなければわからない
野村)その反面、「配慮義務」を設けて、マインドコントロールが起こらないように配慮する方向になりました。それにどのような意味があるのかというところでまた議論があり、決着のとき、「十分に」という言葉を入れたことで深くなったというような議論がありました。
飯田)「十分に」と。
野村)ここも岸田総理は答弁のなかで、不法行為を請求するときは要件が幾つかあり、1つは違法性、それから故意・過失、そして損害と因果関係が主になります。これを立証しないと損害賠償は取れません。
飯田)立証しなければ損害賠償は取れない。
野村)違法性については、「配慮義務を法律で定めてある。それに違反していれば違法性を立証しやすくなるのではないか」という答弁をしていました。これも裁判所に行かないとわからないところが残っているので、本当に実効性があるのかどうかという問題はあります。
寄付金の取り消しはすべての金額を取り消せるわけではない ~払われるべき扶養のための金額分だけ取り消すことができる債権者代位権を転用する形
飯田)困惑していたかどうかの部分の立証は、実際に弁護に立つ場合、どのようなロジックを使えばいいのだろうと思ってしまいます。
野村)「本人は普通に進んでやっています」ということを念書のようなもので取られているときに、それを覆すだけの材料があるかどうか。裁判になったときには少し難しい面もあるかなと思います。
飯田)覆す材料があるかどうかは。
野村)取り消しもできることにはなったのですが、取り消しについても、本人は自ら進んで行っているわけです。本人が取り消そうとしないとき、例えば親が1億円ぐらい寄付してしまっていて、自分の生活がままならないという状況になったときに、「家族が取り消せる」ということも今回認めました。ただ、その背景には扶養に関する請求権があります。「私は扶養されていたから、これだけお金がもらえていたはずで、それがもらえていないところについて、その分だけ取り消す」という話になってしまうのです。
飯田)全額を取り消せるわけではないのですね。
野村)例えば、養育費が払われるべきだったのに、そのお金が一切払われていない。だから生活が困っているという場合、その金額分だけ取り消せるという制度です。ですので、(献金が)1億円あったとしても、すべてを取り返せるわけではないのです。
飯田)被害額のようなものを算出して、それを提出しなければいけない。その妥当性も問われる。
野村)将来に渡って大体このぐらいは親からもらえたはずなのに、その分がもらえていないということで、その分を取り消す。債権者代位権を転用する形になっているのです。
債権者代位権とは
飯田)債権者代位権というのは、聞き慣れない言葉ですね。
野村)例えば、自分の父親が友達にお金を貸していて、「親友だから」と返済を要求しない。そのためにお父さんのお金がなくなってしまい、自分が親からもらえるはずだったお金がもらえていないという状況になったときには、もらえるはずだったお金の分だけ代わって行使できるという制度です。
飯田)もらえるはずだったお金の分を代わって行使できる。
野村)お父さんの財産権における処分の自由と、自分が侵害されている財産権の部分の調整のなかで存在しているのです。今回の取消権についても、その考え方をベースにしているので、「自分が親からもらえるはずの分については取り消しできる」という考え方になっています。
飯田)自分が親からもらえるはずの分については。
野村)ただ、親が寄付した分をすべて取り消せるわけではないということです。そこには限界があります。よく新聞のなかで「一定の範囲で」と書かれているのは、そのような意味なのです。
見直し規定は2年 ~使ってみなければわからないことを前提に、短い2年に
野村)取り消す時期についても、「何年やるのか」というような話になって、結局、いまのところは原則1年です。「霊感の寄付の場合のみ3年」となっているので、少し短いのではないかという議論もあります。
飯田)取り消す時期が。
野村)そうなると、幾つか改正しなければいけない可能性も出てきます。今回は「見直し規定は2年」と入れています。昔の法律は5年後見直しが多かったのです。しかし、最近は社会の変化が激しいため短くなってきていて、多くは3年見直しです。
飯田)3年が多い。
野村)それを今回「2年」としているのは、この法律自体、使ってみないと使えるかどうかわからないのを前提に、今回は見直し規定を短くしたところもあるのではないでしょうか。
「財産権の保障にどこまで国が関与できるのか」という議論が重要だった
飯田)そもそも寄付行為そのものが自分の財産を自分で処分するという、ある意味での財産権の部分になってくる。そうすると、成年後見人のような制度を使った方がわかりやすいのではないかという意見もありますよね。
野村)今回のいちばんの問題点は、「人が自分の財産をどのように使うのかは、本来は自由であるべき」だというところです。どのような使い方であったとしても、本人が納得しているのであれば自由で、「国が関与するのは難しい」というのが財産権の保障なのです。
飯田)財産権の保障。
野村)その領域に入ってくるので、「限界がどこまで許されるのか」ということを議論していたのです。何でもかんでも被害者救済というわけではなく、世の中は価値のバランスが大事なので、その議論が重要だったと思います。
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。