日本の自動車業界 2023年をさまざまな角度から展望

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「報道部畑中デスクの独り言」(第312回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2023年の自動車業界について---

日本自動車工業会・豊田章男会長(オンライン画面から)

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新年2回目の小欄、今回のテーマは日本の自動車業界、2023年がどうなるかをさまざまな角度から展望します。

まずは今秋、国内で4年ぶりに開かれるモーターショー。東京モーターショーから「ジャパンモビリティショー」と名称を変更、大きく衣替えします。

「スタートアップも含めたオールインダストリーでモビリティの未来と、オールジャパンの力を示していきたい。官民で心ひとつになって日本らしい山の上り方、日本の底力を世界に示す年だ」

日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、昨年(2022年)11月の記者会見で意気込みを示しました。

東京モーターショーのルーツは、1954年から始まった「全日本自動車ショウ」にさかのぼり、1964年に東京モーターショーとなります。実に59年ぶりに名称が変わるわけです。前回もその兆しはありましたが、異業種、スタートアップ企業がさらに増えることが予想されます。日本自動車工業会では「Future Mall」という、未来のモビリティ社会を提案するスペースを目玉にしたい考えです。

続いて、国内投資、賃上げがどうなるかも大きな焦点です。経団連は国内投資の額を2027年度に年100兆円に増やす目標を掲げていますが、メーカーのなかには国内投資の重要性は認めながらも、一度つくった海外拠点をどうするかについては悩みの声も聞かれます。

「自動車産業の場合は、ひとたび進出すると、サプライヤーも進出するケースが多い。そこに、たくさんの従業員がいて、場合によっては学校、病院、そこに街ができることも多い。短期的な為替の変動にとって生産場所をあちこちに動かすというのは正直難しい」(トヨタ・近健太副社長)

日本の景気に直結する、企業の国内投資がどこまで進むのか注目です。特にトヨタはそのけん引役となれるでしょうか。

ホンダ・竹内弘平副社長(オンライン決算会見から)

ホンダ・竹内弘平副社長(オンライン決算会見から)

さらに、賃上げについては政界・財界で機運が高まっています。トヨタの豊田章男社長は、日本自動車工業会会長の立場からこのような課題を指摘しました。

「自動車業界は賃上げを継続的にやっている。しかしながら、この流れを生み出すことができているのは、(自動車業界に従事する)550万人のうち3割の人であって、7割の人は組合もなく、話し合いの場がない。この80%、70%の人にどう影響を与える活動をしていくかということになる」

さらに「継続的に昇給している会社は、かつて褒められたことがない」とチクリ。まもなく始まる労使交渉を見守りたいと思います。

一方、この自動車業界、中古車市場から見るとどのように映るのか、そこにも時代の変化が感じられます。カーセンサーの統括編集長兼リクルート自動車総研所長の西村泰宏さんは、新車市場と中古車市場の境界があいまいになっていると指摘しました。

「新車、中古車というようにきっぱり分けて、対立構造で語ること自体がナンセンスではないか。シェア、期間限定で使っていくサブスクや、残価設定ローンも含め、どんな車を使うと生活が豊かになるのかというものに対して、さまざまなオプションがある。まだ全く走っていないクルマ、もう5000キロ走っているクルマ、10万キロ走っているクルマ……単純に状態の指標だけでみんながクルマのことを語るような世界に徐々になっていく、そういう感覚で人々がクルマを買うことがより加速されるのは間違いない」

こうした現象は、半導体不足などで新車の納期が遅れていることも影響しているとみられます。

そして、自動車の電動化、とりわけ電気自動車、「EV化」がどこまで進むのか気になるところです。昨年は「EV元年」とも言われましたが、世界的にEV化の流れが加速するなか、日本国内ではまだまだ踊り場という状況は小欄でもお伝えしました。中古車市場ではEVの比率はまだまだ全体の1%あまりにとどまります(カーセンサー調べ)。

※画像はイメージです

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「長距離を移動しなければいけないというクルマを代替するのは相当先になると思うが、日々毎日の移動距離だと20数キロが平均だったりする。セカンドカー、一家に1台はEVというのはそう遠くないだろう。サクラやeKクロスEVが普及してきて、中古車市場でも皆さんが普通に選択して買えるような商材になってくると、景色が少し見え始めると思う」

カーセンサーの西村統括編集長はこう述べた上で、今後、「2~3年ぐらいで最初の踊り場、5年スパンぐらいで中古車は意外とEVも買えるね、という世界になってくる」と予想。さらに昨年登場した軽自動車の「日産・サクラ」「三菱eK クロスEV」は「イノベーター」として、間違いなく中古車市場で大きく影響を与えると分析しています。航続距離を割り切った軽自動車のEVの登場は、確かに「EV元年」と呼ぶにふさわしい存在と言えます。

ただ、EVの普及にはさまざまな課題があるのはご存知の通りです。技術面、航続距離、充電器などのインフラの整備……これまでも伝えられていますが、実は販売面でも新たな模索が始まっています。ホンダの竹内弘平副社長は去年の決算会見で、ソニーと設立したEVの販売に向けた合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」に関して、このように話していました。

「ホンダでもなくソニーでもない。新しい分野のモビリティをつくろうという考えの下、新しい会社をつくっているので、どうやって売っていくか。既存のネットワークを使うというのは、売り方としてはないのではないか」

具体的には明らかにしませんでしたが、これまでにない販売手法を模索しているようです。さて、どう売っていくのか……EVの普及という面では極めて重要な意味があるようです。カーセンサーの西村氏はこんな視点をもっています。

「EVもバッテリーを回収しながらリサイクルしなければいけない時代になる。ディーラーも売ったらおしまいではなくて、設定ローンやサブスクも含めて自社にその物件が戻ってくる。それを再販していくというサイクルをどのようにみんなできれいに回していきながら、サステナブル(持続可能)な自動車社会をつくっていくかという、より大きいテーマがいま始まっている」

※画像はイメージです

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さらに、EVでサブスクなどのリース販売を行うケースが多いことについては、このように分析しています。

「サブスクのみでEVを解禁するというのは、エンドユーザーの元にどんどんどんどんバッテリーを流していって、最後はどこに行ったかわからなくすることをまずは避けて、いったん自社のところに戻ってくるという仕組みをつくっているというように見える。化石燃料が枯渇するからというのが、そもそもEV等々を視野に入れ始めた最初の起点。ただ、それ以上にバッテリーをつくるレアメタルや、産地などを含めるとよりシビアだ。EVが売れると価格が大量生産でこなれていくという世界ではなく、むしろより希少なものを争い合って価格が上がる可能性すらあるということを理解しながら、みんなで大切にこのバッテリーを回していくという作業が必要になる。そういう仕組みを構築しないと、EVにどんどん舵を切っていったときに、中古のマーケットを含めて破たんしていってしまう」

大変に示唆に富む分析です。なるほど、トヨタ自動車が昨年発表した「bZ4X」というEVは現状、個人向けのサブスクリプション、法人向けにはレンタルという「リース販売」に特化しています。サブスクリプション、いわゆる「サブスク」は一般化しつつある言葉ですが、商品を「所有する」のではなく、一定期間「利用する」という形で、定期的に料金を支払うコンテンツやサービスを言います。慎重な販売姿勢に見えますが、その裏には緻密な戦略があるようです。

以上、モーターショー、国内投資、賃上げ、電動化……今年(2023年)の自動車業界の課題を挙げてみましたが、これらからは「融合」というキーワードが見えてきます。

スタートアップ企業、異業種との融合、賃上げをめぐる大企業と中小企業の融合、新車市場と中古車市場の融合。また、カーシェアリング、サブスク、残価設定ローンなど、クルマをどう供給していくのか、ユーザーがどう使うのか。そしてクルマを手放したあとはどうするのか。単に売りっぱなしの販売競争ではなく、クルマという「資源」をどう循環させていくのかという視点も重要になってきます。

それは業界もユーザーも巻き込んだ全体の融合が必要です。自動車業界にとどまらないスケールの大きな取り組みですが、2023年はそうした新たなステージへの変化が加速していく1年になりそうです。(了)

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