経験に裏打ちされた発言……若田光一宇宙飛行士記者会見
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「報道部畑中デスクの独り言」(第324回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、若田光一宇宙飛行士の記者会見について---
JAXA宇宙飛行士の若田光一さんが4月5日午前、日本の記者に対する会見に臨みました。若田さんは現在、アメリカ・ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターで鋭意リハビリ中で、オンラインでの記者会見となりました。
若田さんは長期宇宙滞在のたびにリハビリを行っていますが、そのメニューも時代に合わせて変わってきているようです。例えば、障害物競走のハードルを乗り越えるようなメニューで、転倒を防ぐような運動などが新しく追加されていたと言います。
若田さんも59歳。年を重ね、リハビリでいままでとは違った感覚があるのかも気になりました。
「軌道上の運動をきちんと行うことができたので、リハビリを進めるなかでの印象は、これまでとほとんど変わらない」
リハビリは順調のようです。
若田さんの宇宙滞在は5回目、今回は自身として初めての船外活動を経験しました。船外から見た地球はどのように見えたのでしょうか。
「ヘルメットのバイザーのすぐ外にある地球の姿、視野が全く違う。地球の輝き、ISS自体が広い宇宙のなかで輝いて見えた。宇宙服の外は真空の状態、緊張感を持ちながら、臨場感と視野の広さは船内からとは全く違っていた」
いわば“生宇宙”を見たというところでしょうか。確かにISS=国際宇宙ステーションを外から間近で見ることは、船外活動でしかできないことです。
今回の宇宙滞在、意外なことも明かされました。それは経験豊かな若田さんにとっても、「最もトラブルの多いミッション」であったことです。船外活動で若田さんは太陽電池の新しいパネルを設置するための架台取り付けを担いました。しかし、その際に取り付けられない構造が出てきたというのです。
私も船外活動の様子をNASAテレビで見ていて、淡々と進んでいるように見えましたが、実はそうした“修羅場”があったわけです。道具が壊れたり、地上スタッフの手法が通用しない場面もありましたが、地上管制局、軌道上の飛行士らが協力して前に進めることができたということです。
「有人宇宙開発の強み。トラブル解決の手法、アイデア、チームワークの力強さを感じたミッションだった」と振り返ります。それは「“宇宙になぜ人間がいなくてはいけないか”という究極の問いにも通じるもの」とも話していました。
トラブルと言えば、地球上ではロシアによるウクライナ侵攻が続いています。宇宙開発の国際協力にも影を落としている報道もあるなか、外国人宇宙飛行士との付き合い方についても質問がありました。
若田さんによれば、もともとロシアの飛行士とは日々の実験や運用で共同作業が少ないのだそうです。そのなかでも重要なのは、やはり食事であり、役に立ったのは宇宙での日本食でした。
「みんなに人気がある日本食などを持ち寄って、一緒に食事をすることで、仕事から離れた形でコミュニケーションをとって意思疎通、チームとしてのパフォーマンスの向上につながった。和を高めるため食事は非常に大切だなと感じた」
地球上では我々もコロナ禍のなか、めっきり仲間と食をともにする機会が減りましたが、食事によるコミュニケーションの大切さを実感します。
5回の宇宙滞在を重ねた若田さんのバイタリティは誰しもが認めるところですが、今後については、「日本の有人宇宙活動の発展のために寄与したい。仲間の今後の飛行のための支援など、私が経験してきたことを活かしていきたい」と語りました。
そして、先に新しい宇宙飛行士の候補者に決まった諏訪理さん、米田あゆさんに対しては「世界の宇宙探査のなかで、日本人としてなすべきことを見極め、有人宇宙活動に貢献できるための強みを磨いて欲しい」とエールを送りました。新世代の宇宙飛行士は月面探査も視野に入れたものになりますが、若田さんがどういう形で、この“難事業”に関わっていくのかも気になるところです。
若田さんの長い経験からか、会見のやり取りは極めて多岐にわたりました。そしていずれの回答にも、経験に裏打ちされた“言葉の強さ”があったと改めて思います。それゆえ、当日の定時ニュースでは限られた時間のなか、どの部分を紹介するか大変迷いましたが、小欄ではお伝えしきれなかった部分も含めてまとめました。
ただ、会見は約30分という限られた時間。話を聞けば聞くほど、ますます知りたいことができたのも正直なところです。(了)
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