日本は徹底的に需要を高めてから「次のステップ」を踏むべき

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元内閣官房参与で元駐スイス大使の本田悦朗と前日本銀行政策委員会審議委員でPwCコンサルティング合同会社チーフエコノミストの片岡剛士が4月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。FRBが公表した経済報告について解説した。

日本は徹底的に需要を高めてから「次のステップ」を踏むべき

2023年4月13日、祝辞を述べる岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202304/13kikousiki.html)

FRB景況報告 ~銀行が貸し出し引き締め

アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、3月に銀行の破綻が相次いで以降初めてとなる経済報告を公表した。全体の経済活動はほとんど変化がないとした上で、銀行による消費者や企業への融資額は概ね減少したと指摘している。

飯田)この経済報告は「ベージュブック」とも呼ばれます。シリコンバレーバンクなど、銀行不安が言われていますが、現状をどう考えたらいいですか?

利上げの影響が実体経済だけでなく、金融システムにも表れている ~物価・実体経済・金融システムを考えながら金融政策をどう運営するか

片岡)実体経済としては、シリコンバレーバンクの破綻以降、大きな変化はないと思います。ただ、利上げの影響が実体経済だけでなく、金融システムにも表れていることを改めて知らせる結果にはなっています。

飯田)利上げの影響が。

片岡)FRBの考える要素として、物価、実体経済、金融システムの3つを踏まえながら、金融政策をどう運営していくのか。それが今後の課題になっていきます。

景気後退に入るのは時間の問題

片岡)私自身は、表向きあまり変化はないように見えますが、例えば雇用状況を示すいくつかの統計、「雇用マインド」にはかなり大きな変化が出てきていると思います。

飯田)雇用マインドには変化が出てきている。

片岡)企業の貸し出し態度などが典型的ですけれども、既に過去の不況期と同じくらいの悪化を示しています。いろいろな統計資料を見ていくと、景気後退に入るのは時間の問題です。いつ入るのかを見極めながら、FRBは金融政策を行っているのでしょう。

雇用環境が悪化しなければ物価は下がらない

飯田)雇用については失業率を見ると、かなりいい数字のようにも見えますが。

片岡)失業率はまだあまり動いていませんが、「ものすごくいい状態」からは悪化してきています。

飯田)ものすごくいい状態からは。

片岡)雇用指数のようなものも、少し悪化が始まってきています。それは遠からず雇用環境の悪化につながると思います。逆に、それがないと「物価が下がらない」という状況になるのです。

サービス価格が上がっている ~雇用環境が改善され賃金がいい

片岡)アメリカの物価自体を財別に見ていくと、ものや原油価格、エネルギー、またそういったものを除いた財については、徐々に下がってきています。ただ、サービス価格はまったく下がらないのです。

飯田)サービス価格は。

片岡)むしろ、サービス価格は上がっています。なぜかと言うと、雇用環境の改善と賃金がいいからなのです。

飯田)雇用環境の改善と賃金がいい。

片岡)景気を冷やすことを通じて、物価を下げていこうという金融政策をいま行っているのですが、先行きがまだ見えない。失業率が4%台などに上がってくるような状況にならないと、物価が下落する道のりを描くのは難しいという印象です。

利上げしすぎると住宅ローンなどに影響が ~利上げしないと物価が下がらない

片岡)そのなかで金利を上げれば、住宅市場などに影響が出ますよね。

飯田)ローンが組みづらくなったり。

片岡)そういう意味で言うと、アメリカの金融機関は住宅担保証券などを多く持っていて、利上げによってその部分は含み損を多数抱えているという状況です。利上げをやり過ぎると、そちらがクラッシュしてしまうし、利上げしないと物価が下がらない。難しい舵取りを迫られていると思います。

需要がまだ強くない日本

飯田)アメリカの経済が減速した場合、日本経済にとってプラスにはならないのですか?

本田)もちろんプラスにはなりません。ただ、将来日本が金利を上げるか上げざるべきかという論争が起こっていますが、アメリカでの論争のおかげで、「金利を上げよう」という力が少し削がれているのではないかと思います。

飯田)利上げへ向かう力が。

本田)インフレと経済実態の両方が大事なのですけれども、日本において現在どちらを重視すべきかと言うと、やはり経済実態、つまり需要の弱さが日本は際立っているのです。

日本は徹底的に需要を高めてから「次のステップ」を踏むべき

日本銀行

イールドカーブ・コントロール(YCC)の金融緩和枠組みを取り払うのはまだ先

本田)今回、植田新総裁になりましたけれども、この機を使って金利を上げていくかも知れない。場合によっては「イールドカーブ・コントロール(YCC)の金融緩和枠組みをもうやめてしまえ」と言う人も、なかにはいらっしゃいます。でも、そういう声は少しずつ小さくなっているのではないでしょうか。いま金利を上げると、日本経済への悪影響が大きすぎる。それほど日本の需要はまだ強くありません。

飯田)まだ需要が強くない。

本田)これで賃金が継続的に上がったり、物価が徐々に上がってくるとなると、YCCの金融緩和枠組みを徐々に取り払っていき、将来の出口戦略につなげることも可能です。しかし、それはまだ先の話だということを、改めて知らされたのではないかと思います。

徹底的に需要を高めてから次のステップを踏むべき

飯田)日銀の議事録は10年経つと出てきますけれど、過去の議事録を見ると「早すぎる引き締めで経済を冷やしてしまった」というのが、ここ20年くらいはオンパレードの状態ですよね。

本田)私が心配しているのは、植田新総裁がゼロ金利解除に賛成してくれたのですけれど、賛成の理由が弱いのです。「ゼロ金利解除を行っても、たいした悪影響はないだろう」という理由をおっしゃっているので、確信を持ってやったわけではないのだろうか、という心配もあります。

飯田)ゼロ金利解除に賛成した理由が弱い。

本田)日銀の量的緩和の解除は2006年の話ですけれど、これも早すぎたのです。2014年の消費税増税で5%から8%に引き上げたのも早すぎました。2019年の2回目の消費税増税も早すぎた。少しよくなると水をかける傾向があったので、徹底的に需要を高め、見極めてから次のステップを踏む。その重要性の表れではないかという気がします。

日本だけが金利を上げていない ~円安によってインバウンド需要が回復

飯田)アメリカくらい過熱していれば、財政の方も引き締めていいのでしょうか? 政治的に難しいと思いますが。

片岡)いろいろな意味で日本への注目度が上がってきているわけです。理由の1つは、日本だけが金利を上げていないということです。

飯田)日本だけが。

片岡)日本は円安によってインバウンド、外国の方々が入ってきています。まさに日本だけが違うことをやっている結果です。

海外の目線を使って経済を戻すことが必要

片岡)日本は残念ながら、20年~30年ほど需要が弱い状況で、物価が上がらず、価格が経済を動かさない。そういう意味では凍結していたわけですが、それを国内の力で是正するのは難しいと思うのです。

飯田)国内の力で是正するのは。

片岡)アメリカや欧州、ないしは中国など、海外の方の目線を使って、真っ当な経済に戻していくことが必要です。そのために金利を低くしたりするわけです。

飯田)海外の目線を使って。

片岡)政府も電気代などがかさんでいる状況なので、いまもやっているとは思いますが、さらに電気料金の引き下げなどを前向きに取り組んでいただきたい。そうすれば、いまのいい流れをより活発化することにつなげられると思います。金利が低い状態なら財政をもっと活用すべきですし、まだできることはあると思います。

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