学習院大学特別客員教授で元駐インドネシア大使の石井正文が5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。開設される方向で動いているNATOの東京連絡事務所について解説した。
NATO東京連絡事務所
冨田駐米大使は5月9日、日本の東京に北大西洋条約機構(NATO)の連絡事務所を開設する方向で動いていると述べた。また、日経アジアも3日、NATOはアジア地域での連携を促進するため2024年中に東京に連絡事務所を開設すると報じている。
NATO東京連絡事務所 ~NATOと日米同盟が協力してアジア地域での紛争を防止するために抑止力を高めていく
飯田)一部報道があり、冨田大使が講演のなかで質問に答える形で、確定情報ではないけれど、その方向で動いているという旨の発言があったようです。石井さんはブリュッセルにあるNATO本部に関して、日本政府代表としてもお仕事をされていました。今回の動きの意味は大きいですか?
石井)とても大きいと思います。ちなみに、日本に事務所をつくると同時に、ブリュッセルにいるNATO大使はベルギー大使との兼務なのですが、それを切り離してNATO単独の大使にするという方向で動いていると思います。この双方の動きは大きいと思います。
飯田)兼務を外して。
石井)報道もされていますが、この事務所は特にサイバーや偽情報、宇宙についてアジアの拠点として動く目的があります。それと同時に、NATOと日米同盟が協力し、この地域での紛争を防止するための抑止力を高めていく。それを具体化する動きも進める必要があると思います。その意味でも、このような事務所ができることは重要だと思います。
ウクライナ情勢によってロシアについた中国への問題意識が高まった
飯田)ヨーロッパの国々も含めて、東アジア・インド太平洋地域への関心が高まっているということですか?
石井)その通りです。ウクライナ紛争が起きた年の夏にNATO首脳会合が行われましたが、ロシア一色になると思ったら、NATO側は「中国が体制上の挑戦を突きつけている」と言及しました。インド太平洋とヨーロッパの状況は切り離せないということを、NATO側が明確に表明したのです。
飯田)NATOが。
石井)背景としては、ウクライナ情勢においてロシアに対応しようとすると、中国も一緒に付いて来るということです。そういう意味で、逆に中国に対する問題意識が高まってしまったのだと思います。
アジアと連携していくNATO
石井)いまヨーロッパは、自由で開かれたインド太平洋のいろいろなコンセプトもたくさんつくっていますし、連携がますます強まっていると思います。
飯田)各国がインド太平洋戦略を出してきている。去年(2022年)のNATO首脳会議には、日本も含めてインド太平洋の国々がオブザーバーとして参加しました。
石井)日本、韓国、豪州、ニュージーランドです。今年もそうなると思いますが、そういう形でアジアと連携していくのだと思います。
ヨーロッパの国々と共同で軍事演習などを行えば、中国は「NATOも台湾有事に関与するのではないか」と考えざるを得ない ~計算を難しくさせる
飯田)他方、フランスのマクロン大統領は先日の訪中後に、台湾情勢について、ヨーロッパは米中のどちらか一方に従属するべきではないというようなことをインタビューのなかで発言していました。そういう意識は未だに残っているのでしょうか?
石井)まったくないとは言えないでしょうね。距離的に遠いですし、普通に考えれば、彼らにとって最も大きな脅威はロシアですから。こちらは物理的に、危機に際してどれだけヨーロッパ諸国が協力してくれるのかどうか、期待値を調整する必要はあると思います。ただ、平和なときに彼らがたまに来て、共同訓練などを行うと、中国にすれば「もしかすると場合によってはNATOも台湾有事に関与するのではないか」と思わざるを得なくなります。計算を複雑にするという意味でも、ヨーロッパの関与は非常に大きいと思います。
飯田)確約ということではなく、「どうなるかわからないぞ」とするのが大事ですか?
石井)そうです。計算を難しくするということがキーワードだと思います。そういう意味では、NATOとの関係は非常に重要です。
飯田)東京連絡事務所の報道が出た際、中国外務省が反応しているということは、本当に嫌がっているのですか?
石井)そうだと思います。去年もドイツやオランダが来て共同訓練を行いましたが、中国はそれがとても嫌なのです。我々からすれば、必ずしもドイツがいつも来るとは思わないのですが、中国からすればそれも可能性として考慮しなければならない……これはとても面倒なことだと思います。そういう意味でNATO・ヨーロッパの関与は重要です。
飯田)去年、バイエルンというドイツの船が来たり、その前はイギリスの空母が来ました。
石井)フランスは南太平洋にニューカレドニアなどの海外領土がありますし、イギリスも伝統的にアジアに近いですから、彼らは関与してくると思います。しかし、それ以上どこまで関与してもらえるかどうかは、NATO事務所などを通じて今後、具体化していくことになると思います。
アジアの国々とは「同志国」として実質的に協力することが大事
飯田)いろいろな関係を重ね合わせることが大事になりますか?
石井)そうです。よくアジアのスパゲティ・ボールと言われますが、それぞれ事情が違うので、さまざまなネットワークが広がっていますし、そうならざるを得ないのではないですかね。1つで「すべてNATO」というわけにはいかないと思います。アジアの事情はそれぞれ違いますから。
飯田)NATOのように集団的自衛権で守り合うため、スクラムを組むようなことは難しいですか?
石井)難しいです。個別の国の状況に配慮する必要があると思います。スパゲティ・ボールですから。
飯田)「同盟まではいかないけれど」というような、アンニュイな関係が必要なのですか?
石井)同志国はまさにそれがキーワードですね。同盟ではないのだけれど、同じ方向を向いていて、実質的に協力する。それが大事だと思います。
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