バイデン大統領の「台湾防衛問題」の発言は「失言」ではなく戦略的に「曖昧さ」を演出か

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米バイデン大統領の連日の「言い間違え」について解説した。

バイデン大統領の「台湾防衛問題」の発言は「失言」ではなく戦略的に「曖昧さ」を演出か

米ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた集会で演説するバイデン大統領=2023年6月17日 写真提供:産経新聞社

米バイデン大統領、連日の言い間違えで外交に支障も

アメリカのバイデン大統領が日本の防衛費増額について、自らが日本を「説得した」と発言したことについて、バイデン氏は6月27日、「説得の必要はなかった」とした上で「岸田総理は既に増額を決断していた」と述べ、発言を訂正した。また、バイデン氏は6月28日、ロシアのプーチン大統領が「イラクでの戦争に明らかに敗北している」と述べ、ロシアが侵略するウクライナとイラクを言い間違えた。

飯田)やや、怪しいかなという感じです。

宮家)これを「認知症だ」と言う人もいるけれど、完全な認知症だとしたら続けられませんよね。「では完璧か」と言うと、それもなかなか難しい。

防衛費増額については、中国の台頭によって、日本が自ら守らなければならないと自分たちで決めたこと

宮家)岸田総理を説得したかどうかという話ですが、防衛費増額については、アメリカは50年代からずっと「増額しろ」と言ってきたわけです。

飯田)1950年代から。

宮家)日本には「吉田ドクトリン」があり、それでガードしていました。

飯田)軽武装で、経済を優先させる。

宮家)経済優先で、アメリカに全部依存すると。「それはただ乗りではないか」と言われましたが。しかし、実際に中国があれだけ強くなれば、「自分たちで守るしかない」とみんなわかったわけだから、説得されるまでもなく自分たちで決めたのです。

台湾防衛問題については戦略的に言い直している可能性も ~「曖昧」なのか「曖昧ではない」のかをわざと曖昧にしている

宮家)ウクライナとイラクを言い間違えたのは困ったものです。違いますからね。でも、どこまでが意図してやっていることで、どこまでが高齢によるものなのかがわかりません。例えば、台湾防衛問題があったではないですか。あれはボケて言ったものではないですからね。

飯田)3回ほど同じような形で……。

宮家)3回もボケることはありません。

飯田)「守るのだ」と言い切って、そのあと「いや、曖昧戦略は続いているのだ」という。

宮家)側近が「そうではありません」と補足するんです。「間違っている」とは言えないですからね。

飯田)周りが「そういう意図ではないですよ」と。

宮家)否定するのですが、それも出来レースなのでしょう。一種の歌舞伎ですから。

飯田)やはりそういうことですか。そうでなければ3回も言わない。

宮家)何度も何度もやって、曖昧戦略が曖昧ではないような曖昧なような感じで話し、そして「やはり曖昧なのだ」としているわけです。

飯田)バイデンさんが言っていることが「正しいのかどうか」というところが、曖昧になってくる。

宮家)そういう形で米中がジャブを出し合っているわけです。だから、「どこからが本気でわかってやっているのか、どこからがわかっていないのか」がわからない。それが恐ろしいところではあります。とは言え、米外交への支障はもう出ていますよね。

飯田)その意味では。

宮家)でも、いまの状況だとまだ「許容範囲」と言うべきではないでしょうか。

ウクライナとイラクは明らかな言い間違え

飯田)ウクライナの話をイラクと取り違えたのは、それ自身が情報戦化しているのでしょうか?

宮家)でも、イラクとウクライナは違いますよね。

飯田)スペルも全然違うし。

宮家)場所も違います。「イラクで負けたのはあなたたちではないか」という話です。でも、全体としてはしっかりやっていると思います。

次期大統領選で当選すれば、さらに4年の任期があるバイデン大統領 ~副大統領の存在が重要になる

飯田)2024年に大統領選挙があり、バイデンさんが再選すれば、さらに4年務めることになります。ご高齢の影響などについては、むしろアメリカ国内で議論になっているところもあります。

宮家)当然だと思います。しかし、プーチンさんとは違う。ロシアは彼がいなくなったら大混乱に陥るかも知れません。独裁者ですから。

飯田)プーチン氏の場合は。

宮家)バイデンさんは独裁者ではありませんから、彼がいなくなったときのために副大統領がいるわけです。いま(バイデン大統領に)何かあったら、ハリスさんが大統領になる。これがルールです。彼女が欠けたら、その次は下院議長が大統領になる。それでいいではないですか。

飯田)継承順が決まっている。

ポストは政治家を育てる ~副大統領から大統領に昇格したときに化学変化が起こる

宮家)それが民主主義なのだから。しかし、ハリスさんの評判がどうかと言われれば、いいわけではありません。いまのところは。そもそも副大統領で評判の良かった人などいないのだから。

飯田)そういうものですか。

宮家)なぜなら出番がありませんからね。揚げ足を取られることが多く、「素晴らしい副大統領だ」などと言われることはほとんどない。あのポストは必ず悪口を言われるのです。しかし、その副大統領が大統領になったら、そのままかと言うと、それは違います。政治家は変わるのです。

飯田)政治家は変わる。

宮家)ハリスさんが変わるかどうかは知りません。でも一般論としては、置かれた環境で政治家はつくられ、育っていくのです。大統領と副大統領ではまるで権限も違うし、責任や注目度、影響力も違います。

飯田)大統領と副大統領では。

宮家)それなりの政治家であれば、化けるのです。化けなかったら彼女は終わりなのですが、おそらくハリスさんも化けると思います。「ポストが政治家をつくり、育てる」というのが私の気持ちなのですけれど、副大統領から大統領に昇格したとき、化学変化が起きるのです。

飯田)化学変化が。

宮家)それが民主主義というものです。ニクソン元大統領の次のフォード大統領のときもそうでした。当時、アメリカはおかしくなりましたか?

飯田)一時的には、もちろん混乱しますけれども。

宮家)一時的には混乱します。しかし、民主主義はベストのリーダーを選ぶためのシステムではありません。10年~20年経ってから振り返り、「あのとき、あんな馬鹿なことをしないでよかった」というのが民主主義です。ベストな判断ができる保証はないわけです。

飯田)民主主義においては。

宮家)それでも、長い目で見たら民主主義の方が害悪が少ない。だから我々はそれを維持しているのではないでしょうか。

飯田)そして、それを支える周りのシステムにより、そこまで逸脱しないようにできている。

宮家)独裁国家の恐ろしいところは、独裁者がいなくなったときに崩壊してしまう可能性があるということです。サダム・フセインなどはいい例です。倒れるまでは強いのだけれど、倒れたあとはどうしようもなくなります。

 

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