経営者からにじみ出る“肌感覚”の課題

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「報道部畑中デスクの独り言」(第332回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、さまざまな角度から見た企業経営者の本音について---

東商・小林健会頭(日商会頭)

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夏になると経営者が一堂に会するセミナーが各地で開かれます。昨今は新型コロナウイルスの影響で開催が小規模になることもありましたが、今年(2023年)は各団体、ほぼ“フルサイズ”で実施されるようです。

セミナーでは普段の記者会見とは違った、本音が聞かれることも少なくありません。7月、中小企業を多くの会員に持つ東京商工会議所の夏期セミナーでは「企業は環境変化を乗り越え、いかに成長していくか」「国際文化都市“東京”に向けて」というテーマが掲げられ、グループ討議で議論が繰り広げられました。

喫緊の課題はやはり、人手不足への対応です。日本商工会議所・東京商工会議所の中小企業を対象とした調査では、人手が「不足している」とする企業は64.3%に上り、昨年(2022年)の同時期から3.6ポイント増加しています。

「従来の延長線上でやっていった場合、中長期的には生きていけない。人口減少がもっとひどくなる。対応を考えなくてはいけない」(警備業)

人手不足は人口減少社会と相まって、もはや構造的な問題としてとらえる必要があるのかも知れません。来年はトラック運転手の残業規制強化で物流危機が予想される「2024年問題」が控えています。

続いて価格転嫁の問題。日商・東商の調査では中小企業の62.3%が賃上げを実施しました。昨年から11.4 ポイント増加し、賃上げ率は「3%以上」が50.5%と半数を超えたそうです。いかにも岸田政権が喜びそうな数字ですが、一方で業績の改善がみられないなかでの「防衛的な賃上げ」は66.5%と、依然高い水準にあります。経営者からは“しわ寄せ”と言える影響が次々と開陳されました。

東商夏期セミナー

東商夏期セミナー

「現実的に中小企業が賃上げできるほど、価格転嫁が進んでいない。社会インフラの整備がないまま、バラ色の未来の夢を語り合ってもあまり意味がない」(メーリングなどのサービス業)

「アルミニウムの高騰で印刷の版の価格が上がる。印刷そのものの紙も上がる。インク代もかかる。(我々が)いちばん困るのは官公庁。最も安いところに発注してしまうという入札制度を取っている。安ければいいという発注の仕方はそろそろやめていただきたい。現実には中小企業の足を引っ張っている」(印刷業)

「食品関係は、国内のマーケットが縮小していくなかで過当競争が強まっている。過当競争の結果、価格改定が進まない。結局、中小の犠牲の上に立っている。優越的地位の濫用がどうしても出てきてしまう」(食品卸)

「自動車トップメーカーのやり方が、日本の景気をよくしなかったと思っている。トップメーカーが賃上げを2~3%に抑えている。下請けで儲かっている、儲かっていても賃上げしない。我々は毎年毎年値下げを求められている。損はさせないけれど儲けさせてくれない。(完成車メーカーに)内部留保はたくさんある。もっともっと日本の国内に設備投資して、活性化するようお金を使えばいい」(自動車部品メーカー)

最後の話は、自動車メーカーの決算会見などではなかなか出てこない理論です。セミナーには自動車メーカーの幹部も出席しており、こんな“反論”もありました。

「自動車業界、30年何も失ったわけではなくて伸びている。それは市場に助けられた。日本は世界でも水素・ハイブリッド・電動化といち早く技術を進めていて、お金もかかる。カーボン・ニュートラルも1社ではできない。業界の枠を超えて連携が進めば、価格の部分も調整がしやすくなるのではないか」

自動車業界と言えば「100年に一度の大変革」と言われて久しく、これもまた自動車メーカーの本音と言えるでしょう。

グループ討議の様子

グループ討議の様子

自動車のみならず、産業構造の転換は街の景色も変えるようです。また、新型コロナウイルス感染症は、就職戦線にも影を落としています。これも“後遺症”と言うべきものでしょうか。

「昔は印刷関連業がたくさんあった。30年間で出版額、会社の数が半分以下に。印刷工場がマンションになっている」(印刷業)

「ホテル・サービス業で専門学校の卒業生が半減している。進路指導でサービス業はやめなさいと言われるそうだ。観光立国というのに技術を持ったサービス人材がいなくなる。調理師学校など専門学校に支援を」(観光業)

一方、昨今の働き方改革による意外な副産物を挙げる企業もありました。

「働き方改革で朝早く来て夜帰る。夜まで飲んで朝まで騒ぐことをしなくなった。銀座の世界には貢献していないが、女性の活躍につながっている」(商社)

さらに、消費構造の変化に対応すべきと主張するのは電子機器製造業の経営者です。

「若い人は物を買うことに興味がない。消費が支えてきた日本の社会の構造が変わってくるなか、中小企業がどう生きていくのか? 国外に出ていくしかないのではないか?」

東商の小林健会頭(日商会頭)は記者団に対し、「生々しい話が出ないと面白くない。コロナ時代から一歩抜け出て、次に展開しようという意欲が満ちてきている」と、熱い議論を歓迎する姿勢を示していました。

熱い議論は改善へと昇華されるのか……企業経営者のさまざまな角度からの本音は、まさに世の中の“縮図”と言えます。(了)

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