ジャパンモビリティショー取材記(1) 次世代EV
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「報道部畑中デスクの独り言」(第344回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、ジャパンモビリティショーについて---
ジャパンモビリティショーが開幕しました。東京モーターショーから実に59年ぶりの名称変更です。
主催する日本自動車工業会によりますと、参加企業は過去最多の475社。「乗りたい未来を探しに行こう」をテーマに、モーター=自動車から、モビリティ=乗り物、移動手段へと領域を大きく広げました。
今後のモビリティ社会がどうなっていくのか……小欄では3回に分けて、モビリティショーのポイントをお伝えしていきます。
まずは電気自動車、「次世代EV」の出展が目立ちました。トヨタ自動車のプレスブリーフィング、ブース中央でスポーツカーとSUVがベールを脱ぎました。
「クルマ屋らしいバッテリーEVをつくる。意味するところは、航続距離はもちろんのこと、バッテリーEVでしかできない価値を実現していくこと」
佐藤恒治社長はこのように語りました。
他にも「KAYOIBAKO(通い箱)」と呼ばれるワンボックスタイプのEV、電動車いす、AI=人工知能やソフトウェアを駆使したEV用の運転席=シミュレーターも提案されていました。
「KAYOIBAKO」は人や荷物を積むにはやはり四角い箱……機能美を感じます。小口運送の車両は将来、これに置き換わるのではないかと思わせるデザインです。車両の多くはハンドルが見慣れた円形ではなく四角、操縦かんのような形をしていました。
また、レクサスブランドでも次世代のEVが展示されていました。こちらは2026年の市場導入を目指しているだけあって、いつ発売されてもおかしくないような完成度に見えます。トヨタでは電気自動車のことをバッテリーEV、BEVと呼んでいます。今回の出展を見ると、一気にBEVにかじを切ったようにも見えるのですが……。
「すべてのマルチパスウェイも本気だが、バッテリーEVも本気ということをご理解いただきたく、バッテリーEV中心の展示になっている」
BEVファクトリー・プレジデントの加藤武郎さんはこのように説明します。
トヨタのEVは「大きさをより小さくして室内をより広くする」を目指しているということです。そのためには電池やモーターなど、部品の小型化がカギを握ります。先日、全固体電池開発における出光興産との協業発表がありましたが、技術開発の面でトヨタには相当な自信があることがうかがえます。
一方で、次世代EVに必要なのは、その先に何があるのか…「クルマのなかから買い物ができる」「駐車後にバッテリーの電力を融通する」などの提案がされていましたが、そのためにはAIやソフトウェアが必須となります。
「バッテリーEVを小型化することはクルマ屋が得意とするところ。一方、中国は電子技術とソフトウェアが進んでいる国。中国の客のニーズもしっかり商品に入れなければいけない」(加藤プレジデント)
トヨタではBEVファクトリーを中国でも展開しています。次世代EVの展開には中国の動向は無視できないようです。トヨタのEVへの姿勢について、関係者のなかには「トヨタが変わったのではなく、周囲が変わったのだ」と話す人もいます。しかし、それは裏を返せば、世界的なEVの潮流が想像以上であるということになります。
続いて日産自動車。創立90周年、EVの国内販売ではトップを走ります。今回はハイパーシリーズと題し、デジタルモデルを含めたコンセプトカーを5台出展しました。
「他がやらんことをやる。日産しかつくれないEVで、私たちが目指す未来を象徴する」
内田誠社長の発言からは、日産が次世代EVにまい進していることがうかがえます。また、「AIやバイオセンサーでドライバーの気分に合わせ、音楽と照明を選択する」「AIがサポートする完全自動運転」など、こちらも現行EVの先にあるものが提案されていました。
「リーフからEVに注力してきたが、90周年を機に将来の計画を見据えて、今回5台のコンセプトカーをEVとして出した」
こう話すのは商品企画部の成田豪史さん。「中国を含めてほとんどのメーカーがEVにシフトし、EVが当たり前になっているなか、どういうニーズに応えていくかの競争になる」……中国を意識した発言が続きます。次世代EVでも大切なことは、「安全性」と「走る楽しさ」と主張、それを支える「e-4ORCE(イーフォース)」という電動4輪制御技術に絶対の自信を持っていました。
ちなみに、報道公開日に披露された5台目の車両は「ハイパーフォース」と名付けられ、アルミを削り出したかのような塊感あるスーパーカーでした。
フロントマスクやリアの丸型二連テールライト……どこからみても「次期GT-R」ではないか? 商品企画部の成田さんはGT-RとフェアレディZの開発者でもあることから、疑問を素直にぶつけたところ明確に否定。その上で「GT-Rの要素やヒントは織り込んでいる。あとは想像にお任せする」と笑いながら話していました。
なお、トヨタ、日産もこうした次世代EVに必要なのは全固体電池と口を揃えます。全固体電池については、また時期を改めてお伝えしますが、開発競争が激しく、まだまだベールに包まれているところがあります。
そして、EVは乗用車の分野にとどまりません。いすゞ自動車はEVバスを発表しました。来年(2024年)度の発売を予定しています。展示された車内に入ってみましたが、車内後ろの部分に段差がなく、広々としていました。高齢者の方々は助かりそうです。
EVバス自体はBYDなどの中国勢、日本の「EVモーターズ・ジャパン」が参入し、国内で走り始めています。
「一度受け入れられると浸透するのは早いのではないか」
トラック・バスなどの商用車EVについて話すのは、いすゞのチーフエンジニア・甫水準さんです。商用車は走る場所が決まっているケースが多く、航続距離が短かったとしても、夜中に充電できればネガティブな要素にはならず、EVに向いていると言います。「商用車の時代が始まったと思う」と期待を寄せていました。
一方、EVと言えば中国のEVメーカー、BYDも今回、ショー初出展です。プレスブリーフィングにはBYDグループの王伝福総裁も姿を見せました。ベールを脱いだのはSEAL(シール)という名のセダン。BYDジャパンの劉学亮社長はスピーチで力を込めました。
「BYDには重要なビジョンがある。地球の温度を1度下げるというビジョンだ。ファミリーカーから高級車まで幅広いeモビリティの選択肢を提供する」
BYDは1995年、中国の深圳で電池メーカーとして創業しました。その後、EVの製造を始め、BYDによれば、昨年(2022年)、今年(2023年)上半期と、EVを含む新エネルギー車の販売台数で世界一となります。
BYDオートジャパン・サービス技術部担当部長の千葉祐太さんは「自動車メーカーであり、バッテリーメーカーでもあるのが強み」と語ります。その上で、トヨタやVW(フォルクス・ワーゲン)のような自動車業界の“巨人”に対しては「匹敵するようなメーカーになることを信じて、しっかり地に足をつけてやっていきたい」と話していました。
印象的だったのは、劉社長が話していた「ビジョンは地球の温度を1度下げること」という発言です。「わくわくする」「イノベーション」「カーボンニュートラル」といった国内各社トップの発言とは一線を画す、いわば「地球規模」の発言は新鮮でした。アメリカ・テスラのイーロン・マスクCEOに似た雰囲気を感じます。中国国内の環境問題は別にして、このような大きな視野を持つメーカーは、日本メーカーにとっては今後、非常に手ごわい存在になってくると思います。
この他、メルセデス・ベンツはブース内の展示車をすべて電動車としていました。市場の環境が許す限りという条件付きながら、2030年までに販売する乗用車のすべてを電気自動車にすることを目指します。
マツダは「ロータリーEV」と称するスポーツカーを出展していました。ロータリーエンジンを発電機としてモーターを回します。正確にはシリーズハイブリッドですが、エンジンをカーボンニュートラル燃料で駆動すれば、二酸化炭素の排出量という点ではEVと遜色ない効果が得られます。関係者によると、エンジンの搭載位置は未定、やろうと思えばフロントもリアもミッドシップも可能とのこと。
スズキは世界戦略車第1弾としてのEVを発表。その他、一人乗りの4輪電動モビリティ、EVバイクとさまざまな“電動車”を出展していました。一方で、インドでは牛糞から生成したバイオガスで走る車両も開発していると言います。
「さまざまな電力事情があるなか、バッテリーEVだけで補うのは現実的ではない」と話すのは鈴木俊宏社長。EVの世界的潮流のなか、なるほど、これも見識だと思います(その2へ続く)。
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