外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理のフィリピン・マレーシア訪問について解説した。
岸田総理がフィリピンとマレーシアを訪問
フィリピンとマレーシアを訪問した岸田総理大臣は、首脳会談など一連の日程を終え、11月5日午後、帰国の途についた。
フィリピンに国産防衛装備を初輸出
宮家)先日、私も偶々同じフィリピンとマレーシアに別件で出張してきましたが、フィリピンは前のドゥテルテ政権の時代とは様変わりしていました。いい意味で変わっています。以前は中国に対する配慮がありましたが、マルコス・ジュニアは腹を括ったようです。アメリカとの関係もいいし、日本との関係もいままで以上によくなっているのではないかと思います。
飯田)日本との関係も。
宮家)象徴的なのは、フィリピンに日本国産の防空レーダーを納入したことです。輸出契約が結ばれた国産のレーダー4基のうち、既に1基は10月に納入されています。完成品の防衛装備輸出は初めてだそうです。昔のイメージでは、南シナ海が大変なのであれば、軍事的には支援できないから「沿岸警備隊でやりましょう」と、海上保安庁の船を出すなどして協力していたのですが、様変わりしましたね。
飯田)そうですね。
宮家)また、昔はフィリピン議会で日本の総理が演説を行うこともなかったので、本当に時代は変わりつつあると思います。
海洋国家でもあるマレーシア ~新たな関係が進む
宮家)フィリピンは海洋国家であり島国なので、日本とはいろいろ共通点が多いのですが、ではマレーシアはどうなのか。マレーシアはイスラムの国で、「東方政策」などと言い、日本との関係が深いときもありました。半島国家ですが、海洋国家でもあることが行ってわかりました。イギリスは東インド会社からインド洋を通ってマレーシアに行き着き、そこから海峡を越えて極東に行ったのです。
飯田)マラッカ海峡を。
宮家)これまでマレーシアは大陸的な要素もあったかも知れませんが、いまは中国が南シナ海に進出しているので、相当関心が高まっています。おそらく、いままでとはまるで違う形の関係が日本と進んでいくのではないでしょうか。
飯田)マレーシアはインドシナ半島に位置していて、インド洋と南シナ海の両方を見ていますよね。
宮家)ボルネオ島もそうですね。あそこも海洋国家なのです。
意義のあるフィリピンとマレーシア訪問
飯田)一方でマレーシアはイスラム国家だというご指摘もありました。インドネシアもそうですが、敬虔なイスラム教徒の方々がたくさんいらっしゃる。
宮家)インドネシアはさらに人口も多いですし、あれだけ島がたくさんあって、よく民主主義をやっているなと思います。マレーシアには中華系の経済的に強い人たちがいるのですが、先日お会いした副大臣は中華系の方でした。その人が「マレーシアは海洋国家としての新しい安全保障政策を考えている」と言うのです。世の中は変わったのだという印象を持ちました。他にもASEAN諸国で行かなければならない国はたくさんありますが、今回総理がとりあえずこの2ヵ国を訪問したのは意義があると思います。
日本ASEAN友好協力50周年
飯田)折しも2023年は、ASEANと日本の友好協力50周年です。
宮家)福田ドクトリンから始まり、日本はASEAN諸国を重視してきましたが、それがようやく実ってきた気がします。ASEANは一昔前は日本がずっと重視してやっていたのですが、そのあと中国が巻き返してきた。中国は陸続きなので、ラオスに高速鉄道などをつくることができるのです。
飯田)中国製の。
宮家)しかし、やはり、何事もやりすぎはいけません。日本はいいチャンスなので、積極的に関係を密にしていくべきだと思います。日本は中東までのシーレーンもありますし、日本の経済や安全保障はすべて東南アジアと連動しているので、やはりここは重要だと思います。
飯田)それに対して、ASEANとしては「どちらか一方につく」というようなことはしたくない。
宮家)しないですよね。ASEANはバラバラのようでいて、コンセンサスをつくることを重視しています。「日本だけ、中国だけ」というわけにはいかない。それを理解した上でお付き合いをしなければいけないと思います。大変ですけれどね。
信頼されているのが日本の強み
飯田)あれだけ統治体制の違うところでコンセンサスをつくるとなると、玉虫色的なものになってしまいますよね。
宮家)それは仕方がありません。そもそもASEANはそのような組織なのですから。
飯田)そこでアメリカや中国ではない第3極として、日本の果たす役割も当然あるのですよね?
宮家)日本は信頼されています。それが我々の強みだと思います。
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