イランの軍事顧問殺害によって考えられる「三段階のエスカレーションのシナリオ」 中東情勢

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が12月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエルがイラン革命防衛隊のムサビ氏を殺害したことにより、さらに緊迫化する可能性が出てきた中東情勢について解説した。

イスラエル軍の空爆を受け、パレスチナ自治区ガザの建物から上がる煙。=2023年12月1日 AFP=時事 写真提供:時事通信

イスラエル軍の空爆を受け、パレスチナ自治区ガザの建物から上がる煙。= 2023年12月1日 AFP=時事 写真提供:時事通信

イスラエル、イランの軍事顧問を殺害 中東で戦闘拡大の懸念

イランメディアは12月25日、イスラエルがシリアの首都ダマスカス郊外を攻撃し、イラン革命防衛隊のムサビ上級軍事顧問を殺害したと伝えた。イスラエルと敵対するイランは、パレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義組織ハマスを支援していて、ムサビ氏の殺害により中東情勢がさらに緊迫化しそうだ。

飯田)イスラエル側の反応はないようですが、イランのライシ大統領が声明を発表し、「イスラエルは代償を必ず払うことになる」と報復を警告しています。

神保)イスラエルとハマスの戦争が続くガザ地区に報道の焦点が集まりがちですが、それを取り巻く情勢において、戦端は少しずつ拡大していると思います。既に10月ぐらいから、シリアに対する空爆は目立たなくなっていますが、イスラエルとアメリカの双方が進めているのです。

今回の攻撃によって、イスラエルやアメリカに対する何らかの攻撃が数ヵ月のうちに起こる懸念も

神保)殺害されたムサビ氏は、シリアとイランの軍事協力における調整役のような人でした。彼らはシリア東部から、イラクの駐留米軍に対して攻撃を行っていました。また、アラビア半島のイエメンにおいて航行を妨害するフーシ派の攻撃など、シーア派のネットワークを使う形で「戦端を中東全体に広げていくのではないか」という懸念があり、それに対する警告が込められていたのかも知れません。かなり大きな話になりかねないと思います。

飯田)そうですね。

神保)中東の問題が「どのぐらいエスカレートしていくのか」と考えたときに、1つのポイントは、「レバノン南部のヒズボラがどう同調するか」ということと、その先にあるシリア、そしてその先にあるイラン。その三段階のエスカレーションのシナリオがあるのですが、今回イランが強く反応したことによって、直接ではないかも知れませんが、イスラエルやアメリカに対する何らかの攻撃が懸念されます。例えばホルムズ海峡、あるいはフーシ派の攻撃の強化などが、このあと数ヵ月の間に起こりやすくなると思います。

米軍がウクライナ支援に加えて、中東にも大きくコミットすることになれば、「インド太平洋・日本を取り巻く安全保障環境での米軍の関与は大丈夫か」という問題につながりかねない

飯田)かつて、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官が米軍に殺害されたときは、報復として米軍基地へのミサイル攻撃がありました。今回は、イスラエルがイランの軍事顧問を殺害したので、イスラエル国内を攻撃する可能性が大きいですか?

神保)もし、イランが直接この大きな枠組みに加わった場合、アメリカ国内における「対イラン攻撃論」のようなものを誘発する可能性があります。そうなれば中東の構図が一変しかねない。より規模の大きい戦闘空間で、中東を捉えなければならなくなります。アメリカ軍も当然そちらに引きつけられるでしょうし、ウクライナ支援だけではなく、米軍が中東にも大きくコミットするとなると、翻って「インド太平洋・日本を取り巻く安全保障環境での米軍の関与は大丈夫なのか」という問題につながりかねない。それは、この問題を見る際の重要な点だと思います。

飯田)シーレーンや資源の行方だけでなく、世界的な地政学が「ガラッ」と変わるかも知れない。

神保)イランも当然、エスカレーションを無制限に広げることがイランの安全にとっていいとは思っていないでしょう。おそらく「今回やられたものをどのぐらい返していくか」というところで、アメリカ軍に対する攻撃の焦点を定めるのだと思います。ただ、いつエスカレートの次の階段を上がるかは見通しがつきません。仮にアメリカ大統領選挙に乗じて、(アメリカが)強い姿勢を見せなければいけないとなった場合、当初アメリカが想定していた以上に対イラン作戦の展開を迫られる可能性さえあります。

伝統的な地政学的領域で問題を捉えなければいけない課題がもう1つ増えた

飯田)イエメンの武装組織であるフーシ派に対し、海の安全を確保するため、アメリカが有志連合を立ち上げたと報道されています。20ヵ国以上が参加するようですが、さらに別の海域にまで広がり、「日本はどうする?」というような話にもなりますか?

神保)当然、石油のシーレーンであり、その他の重要物流にも関わる海域です。ホルムズ海峡だけでなく、アラビア半島沖全体を防御対象にする場合、相当な作戦海域になると思います。いま、バーレーンには「第151連合任務部隊(CTF151)」というソマリア沖で海賊対処を行う部隊がありますが、まったく規模の違う海域の広さのなかでフーシ派の攻撃を見るとなると、どのように組織するのか、誰が参加するのかなど、調整が大変だと思います。

飯田)12月23日にはインドから300キロ以上離れたインド洋で、日本の会社が所有するタンカーが攻撃を受けたという報道がありました。あそこまで広がるのですね。

神保)海域広しと言えども、船にターゲットを定め、いろいろな手段で攻撃するとなると、かなり広い海域で攻撃が発生し得ると思います。船舶の航行の危機管理や保険の設定なども含め、来年(2024年)の前半はかなり対応が難しくなるかも知れません。

飯田)スエズ運河が使えなくなって喜望峰回りとなると、これもコストが乗ってくる。経済の下落ちも相当ありそうですか?

神保)物流1つ取っても、サプライチェーンの強靭性という問題を取っても、伝統的な地政学的領域でこの問題を捉えなければいけない課題がもう1つ増えたな、という印象があります。

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