双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が1月25日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀が発表した「展望レポート」について解説した。
日銀、3年間の物価見通しを公表
日銀は金融政策決定会合に合わせて、3年間の物価の見通しを示す「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」を発表した。生鮮品を除いた消費者物価指数の見通しは政策委員の中央値で2023年度が前年度比プラス2.8%と、2023年10月の見通しを据え置いた。24年度はプラス2.4%で下方修正、25年度はプラス1.8%で上方修正となった。
名目GDPがこのまま伸びれば、企業収益がよくなり、政府の税収も伸びる
飯田)物価の見通し、実質GDP成長率の見通しも出てきましたが、いかがですか?
吉崎)日銀の展望レポートではGDPとCPIが公表されます。その際、厳密に言うと少し違うのですが、CPIはデフレーターと近いので、この2つを足すとおおむね名目GDPの成長率になるわけです。23年度が1.8%と2.8%だから、足すと4.6%で、わが国としてはかなり高いわけです。
飯田)そうですね。
吉崎)24年度が1.2%と2.4%だから、3.6%になります。25年度も1.0%と1.8%で2.8%になるわけです。いま、足元の日本の名目GDPはざっくり600兆円ですが、さらに3.6%、2.8%と伸びていくと、名目は相当伸びることになります。日本経済のGDPは年率0.5%くらいしか伸びませんが、名目がこれだけ上がると企業収益などはよくなるし、政府の税収も伸びることになります。逆に家計から見ると物価上昇がきついので、GDPの中身を見ると消費が伸びず、冴えない感じです。しかし、株価はとてもいいではないですか。いまの株高に日銀がお墨付きを与えているような感じかなと、私は受け止めました。
飯田)そうすると企業が上げた、あるいは政府が上げた果実の部分を「少し我々に還元して欲しい」と思うのですが。
「日経平均が3万6000円まで上がっておりますが」という質問に「楽観的なムードが広がっている」と水を差さなかった日銀総裁
吉崎)今回の日銀の発表は驚くぐらい強いものです。いままでは「物価上昇の実現は徐々に高まると考えられる」と書いてあったのですが、今回は「確度は少しずつ高まっていると判断している」ですから、「リーチがかかっているな」と感じます。
飯田)リーチがかかっている。
吉崎)「次はいつだ?」という話ですが、今回も記者会見でいい質問がいくつかありました。以前、私は「WBSの大江麻理子さんがいつもいい質問をする」と言ったことがありますが、今回は大江さんの相方である解説委員の滝田洋一さんがいい質問をしていました。「誰も聞かないので、あえてお聞きしますが、日経平均が年初から3万6000円まで上がっており、総裁としてこれをどのように受け止められますか?」という質問でした。それは誰かが聞かなければいけない質問なのです。
飯田)誰かが聞かなければいけない。
吉崎)それに対して、(植田総裁が)「経済に楽観的なムードが広がっていることだと受け止めている」と答えたのです。年初から1割以上上がっているので、「注意深く見守っている」というような発言が出るのかなと思ったら、「楽観的なムードが広がっている」と。要は水を差さなかった。面白いですし、「この人はそういう人なのだ」と思いました。
飯田)むしろ、半ば歓迎という感じ。
吉崎)半ば歓迎なのですね。
「展望レポートの“あるなし”と政策変更は関係があるか?」の質問には「関係ない」と断言 ~「マイナス金利解除」は「3月と4月、両方可能性がある」と自由度を確保
吉崎)もう1つ、日銀の金融政策決定会合は年8回あって、そのうち1月・4月・7月・10月の4回だけ展望レポートが出ます。次の3月は出ない会合で、4月はまた出る。マーケットは「展望レポートが出る会合に政策変更があるに違いない」と考え、「次は4月か」と思っていたのですが、日経の清水さんが鋭い質問をしました。「展望レポートの“あるなし”と、政策変更は関係があるのですか?」と聞いたのです。それに対し、「関係ない」と答えていました。
飯田)そこは断言した。
吉崎)金融政策決定会合は、その都度その状態の情報をもとに判断するものであって、「展望レポートのあるなしとは関係ない」と。いわば筋論で返しているのですが、「別に3月にやってもおかしくはない」と聞こえるわけです。
質問によって、マイナス金利解除のタイミングの確率分布が変わる
飯田)市場は少なくとも、そう反応しますよね。
吉崎)日銀からすれば「3月と4月、両方ある」と自由度を確保しているわけです。3月に実施して「サプライズだ」などと言われないようにしたいのでしょうが、一瞬にして確率分布が変わった。記者会見では、お説教のような質問をする人もなかにはいますが。
飯田)自説を述べる方がね。
吉崎)それぞれの新聞として立場を述べる方もいるけれど、マーケット側の感覚から見ると、今回の滝田さん、清水さんの質問は「ありがたい」と思います。
記者会見はゲームのようなもの
飯田)また、その2人は日経のエースですよね。清水さんは金融政策決定会合の直前に大スクープを飛ばし、それでマーケットが揺れるような人です。
吉崎)よく記者会見は「メディアスクラム」と言われ、相手がどんなに大きな芸能事務所であっても「みんなで袋叩きにする」というような捉え方をされますが、そうではなくサッカーやラグビーのように、全員で必要な情報を聞き出すゲームをやっているようなものです。家を出る前から質問を決めるような記者もいるけれど、「きょうはこれがまだ聞けていない」とか、「これを引き出さなくては」と考えて質問する人もいるのです。
飯田)「あいつがあそこにボールを振ったから、俺はこっちに回り込もう」というような。
吉崎)「そこにお前がいてくれたか」というように……。マーケット関係者はそういう感じで記者会見を聞いています。
飯田)だからこそ会見中にあれだけ為替が動くのですね。
吉崎)やはり変化が近いと、一言一言に重みが増しますね。
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