ジャーナリストの佐々木俊尚が2月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。物流危機が懸念される「2024年問題」について解説した。
物流2024年問題の中長期計画、荷待ち年125時間削減へ
政府はトラックドライバーの残業規制適用に伴う物流の「2024年問題」への対応策を盛り込んだ中長期計画をまとめた。ドライバーの荷待ちや荷役の時間を2030年度までに1人当たり年間125時間削減する他、トラックの積載率を高める取り組みを強化し、需要に対応する輸送力を確保する。
飯田)荷待ちなどのために路駐しなければいけない問題がある。
値下げ競争の結果、荷積み・荷降ろしや待ち時間の労働時間がプラスアルファになり、長時間労働に
佐々木)平成不況の間に値下げ競争があり、値下げしきれなくなって、プラスアルファの部分でどうやって契約してもらうかを考えた。その結果、従来であれば倉庫や流通側がやらなければいけなかった荷積み・荷降ろしをトラックドライバーにやらせるようになった、という発想ですよね。
飯田)そうですね。
佐々木)荷物がその時間に来るのがいいという、ジャストインタイムの発想です。トヨタが始めたシステムで、それはそれで正しいアプローチだったけれど、一方でやりすぎた結果、ちょうどいい時間に来るために「トラックを外で待たせた方がいい」という発想になってしまった。そのためトラックはどこかで時間を潰し、その時間も無料で働く。実労働時間よりも荷積み・荷降ろしや待ち時間の労働時間がプラスアルファになってしまい、長時間労働になってしまう状態が横行しました。
実質賃金が下がり、憧れの職業ではなくなったトラックドライバー
佐々木)昔はトラックドライバーというと、『トラック野郎』という映画がありました。私が子どものころは、フリーになったら自分の飾り立てたトラックに乗って全国を旅し、「楽しく給料も高い」というイメージがあったのです。しかし、平成の30年間で実質賃金が下がり、憧れの職業ではなくなってしまった。
飯田)憧れの職業だったのに。
佐々木)政府としては、多方面から何とかしようと動いていて、1つは自動化です。ITやオートメーションを使って、荷積み・荷降ろしをなるべく減らそうとしています。
労働組合が有効に機能しなくなり、国が運賃を上げることを求める
佐々木)でも、それだけではダメなので、あとは賃金を上げるしかない。実際、去年(2023年)の暮れぐらいに国土交通省が「トラック標準運賃を8%引き上げよう」と提言を出しています。国が運賃を上げるよう求めるのも、なかなか不思議な話です。本来は労働組合がやらなければいけないのですが、日本の場合、この20~30年で労組が有効に稼働しなくなってしまった。原因はいくつもありますが、1つは非正規労働があまりにも増え、全労働人口の4割ぐらいになった結果、正社員向けの労働組合が有効に機能しなくなったのです。去年か一昨年(2022年)ぐらいの数字だと、組織率は約16.5%です。
飯田)2割を切っているのですね。
佐々木)6~7人に1人ぐらいになっている。加えて80~90年代は景気がよかったので、給料が上がっていたこともあり、労働組合は歴史的に言うと「総資本対総労働」のような、階級闘争的な匂いがありました。「貧しい労働者を国や大企業の搾取から守る」というのが昭和の時代のスローガンだったわけです。
飯田)かつては。
佐々木)しかし、労働者が中流階級化して豊かになったため、労働組合が行う仕事が減っていったのです。その結果、90年代ぐらいから労組は労働運動ではなく、「憲法改正阻止」など政治的な動きや、平和運動などの方向に行ってしまった。それが一般労働者との乖離を招いたような状況もあって、労働組合の力が弱まっていきました。その状態のまま現在の不況に陥り、「それに対して労働組合が有効な対応策を持てなかった」ということが尾を引いているのではないかと思います。
目前に迫る「2024年問題」
飯田)「正社員の待遇を守る」ことにシフトしてしまったがために、4割の非正規の人たちからすると、彼らは貴族的な既得権益を守るだけの組織に見えてしまう。
佐々木)「正社員の賃金を守るために非正規雇用を切る」というような手段が横行していたのが、平成の30年間だったわけです。巻き返すため、連合などは動こうとしているけれど、追いついていません。岸田さんが経団連に賃上げをお願いしたり、国土交通省がトラック標準運賃を引き上げようとするなど、国が音頭を取って給料を上げようとしています。それもどうなのかなと思うけれど、こうでもしないと変わらないので、「何とかするしかない」という状況なのでしょう。
飯田)そして2024年問題も目前です。
佐々木)いよいよ今年になってしまいました。
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