「避難民の退避を優先する」と表明せざるを得ないネタニヤフ首相の「厳しい立場」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ガザ地区ラファへの侵攻計画をめぐり、避難民の退避を優先すると表明したイスラエルのネタニヤフ首相について解説した。

イスラエルのネタニヤフ首相=2023年12月24日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

イスラエルのネタニヤフ首相=2023年12月24日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ネタニヤフ首相がガザ地区ラファへの地上侵攻をめぐり「避難民の退避を優先する」と表明

イスラエルのネタニヤフ首相は3月17日、ドイツのショルツ首相との会談後の共同会見で、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファへの侵攻計画について「その場に人々を閉じ込めたままでは実行しない」と述べ、避難民らの退避を優先する意向を表明した。ラファには避難民ら約150万人が密集し、国際社会から侵攻中止を求める声が強まっている。

飯田)ガザ北部から逃げて来た人たちなども含め、かなり密集しているようです。

ハマスを殲滅させなければ生き残れないネタニヤフ首相

宮家)ネタニヤフさんに限らず、「ハマスを徹底的に攻撃しろ」というイスラエル国民の声は少なくないのです。アメリカ国内にもユダヤ系アメリカ人の様々な意見がありますが、最近の報道を読むと「ネタニヤフさんはやりすぎだ」という声が強まっています。でもネタニヤフさんからすれば、攻撃をやめるわけにはいかないのです。やめてしまったら彼の政治生命は終わりで、責任を取らなければならなくなる。これだけの人が亡くなり、国際的な問題にもなったのだから、失脚する可能性があります。

飯田)やめてしまったら。

宮家)ハマス殲滅まで戦い、勝利を得なければ、政治的に生き残れない。これがネタニヤフのジレンマであり現実です。いま彼を支えている宗教シオニストの連合はガチガチの右派ですので、パレスチナ国家など認めませんし、一昔前なら「え?」と驚くような極端な意見の持ち主たちがイスラエル政治n主流になっているわけです。

ドイツ・ショルツ首相との共同記者会見で発表せざるを得ないということは、かなり「追い込まれている」ということ

宮家)ネタニヤフさんがどんなに頑張ったとしても、戦う以外に生き残る方法はありません。ところが、国際社会の潮流が変わりましたよね。今回は「避難民の退避を優先する」と言っていますが、これはアメリカがずっと言ってきたことです。ネタニヤフさんとアメリカ、特にバイデンさんとは完全に意見が違いますので。

飯田)そうですね。

宮家)さらにドイツは、ホロコーストのことなどもあり、イスラエルに対してはとても気を使うのです。そのドイツのショルツ首相との共同記者会見で発表せざるを得ないということは、ネタニヤフさんもかなり追い込まれているのでしょう。

民間人を盾にするハマスを攻撃できない

宮家)これを聞いたら、ハマスの人たちは喜ぶと思います。ラファへ行けばイスラエルは手を出さないわけですから。そしてイスラエルがラファへ関心を集中するなか、ハマスの一部は北のガザ市の方へ戻る。神出鬼没ですよ。害虫を駆除する仕掛けのようにハマスだけを攻撃できれば、民間人の犠牲はないのです。しかし、ハマスは民間人を「人間の盾」として一緒に動くのですから、攻撃した途端に民間人の犠牲が出てしまう。この状況がずっと続いており、イスラエルも容易に攻撃はできない。イスラエル、ネタニヤフさんにとってはとても厳しい現状です。

飯田)この展開をどこかで見たことがあるなと思ったのですが、イラク戦争後のテロリスト掃討戦では、誰がテロリストで誰が一般市民かわからなかった。アメリカ軍もそれで「民間人の犠牲があるではないか」と批判されましたが、同じ泥沼ですね。

宮家)その通りです。イラク戦争後に起きたイラク内戦では、特に「イスラム国(IS)」が出てきたとき、モスル周辺を包囲して立てこもるISの掃討作戦を行ったら、3ヵ月の予定が、結局9ヵ月も掛かったのです。今回も、ガザでの戦闘については間違いなく数ヵ月単位になると思っていましたが、もう半年経ちましたね。まだ終わっていないわけですから、こうした作戦がいかに難しいか、そして、人間の盾で戦う人たちがいかに悪い人たちかということです。

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